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【59】アランの教室〜教える~探偵団の少年たちが大喧嘩

前のエピソードではカイルの思わぬ過去の様子が知れましたねって、書いてる自分もキャラが勝手に動き出すんですよね。さて、少年探偵団に文字と計算を教えようとするけれど、一筋縄ではいかないみたいです。このエピも長文になってしまいました。冒頭少し端折ったのですが…。

 リヴェルトから戻った僕はブランシュにテオとの話の内容を詳しく説明した。テオの水力扇風機が上手くいかなかった時のために、手回し扇風機の発注を進めた方がいいと意見が一致した。そこで僕は簡易な図面を描いた。詳細設計はカイルに任せた方がいいと思うからだ。そして印刷機の改良を一旦止めてもいいので、こちらを優先するようにと書き添えた。注文台数は四台とした。一人が両手で二台同時に回して二人分だ。余るようなら自分たちで使ってもいいし。図面と手紙は探偵団に届けてもらった。


 さて、色々と積み残してあることを片付ける。

「ブランシュ、そろそろ探偵団のメンバーに文字を教える教室を始めようか」

「そうですわね。私も気になっていたんです。文字はカルタで数字はトランプを使うんですね」

「うん。いつからなら始められる?」

「ちょうど今は手すきなので何時いつでも構いませんよ」

「じゃあすぐにでも始めようか」


 僕は笛を吹いて窓の外を見下ろした。全速力で駆けてくるルークが見えた。

「おーい、ルーク」

 貴族としてははしたなくも、僕が大声で呼ぶとルークは窓の下で立ち止まった。

「探偵団のみんなを集めて執務室まで来てくれないか」

「了解、ボス」

 ルークはそう返事をして走り去った。

「僕達は準備をしようか。」

 そう言って長机を二つ執務室に運びこんでもらった。椅子も不足分の一脚用意した。間もなく少年探偵団が勢ぞろいした。


「探偵団のみんなよく来てくれた。今日は初めに約束していた勉強だ。」

「えー、俺は勉強はいいや」「俺たちは頭が悪いから無駄なんじゃないか」

 などと口々に言う。

「よく聞いてくれ。文字が読めて計算が出来たら、絶対に今よりいい暮らしができるようになる。だったらやらない手はないよな。それにここでやる勉強は遊びみたいなものだから」

 僕はトランプを取り出してメンバー五人に見せた。そしてブランシュに渡してトランプの説明をしてもらった。

「私が今ここに十三枚並べたのが数字の一から十三よ。これが一でこっちが十三。一から順番 に並んでいるからよく覚えて」

 メンバーは必死に一、二、三、四…と唱えている。

「よし、覚えた」「おいらも」と先を争うように言った

「他に四種類のマークがあって 、マークが違うと同じ数字でも違うカードよ、いい?」

 そしてブランシュは四つのスート毎にすべてのカードを並べて見せた。

「これから遊ぶゲームを終えるとこの形になるのよ」

 探偵団のみんなは目を食い入るように並んだカードを見た。


「では、ゲームをいたしましょう」

 ブランシュがカードを配り、七並べの始め方を説明しながらゲームを開始する。一回目は戦略も何もなしで多分に運が作用しニコが勝った。二回戦は他人の邪魔をしてルークが勝った。その後は彼らだけで遊ばせて昼の鐘が鳴った頃には全員が数字を覚えた。


「さあ昼飯の時間だ。このお金でお昼ご飯を食べて来るといい」

 そう言って僕はルーク昼飯代を渡した。

「アラン様、私たちも昼食にいたしましょう」

そう言って一階の食堂から軽食とお茶を運んできてくれた。


 ◇


 昼食を終えて少年団が戻って来た。午後は手札二枚でゴルフで遊ぶ。ゴルフの名の通り手札の合計が少ないほど良い。二枚の合計で競うのでたし算の練習になる。最初のうちは僕とブランシュがメンバーの間をめぐりアドバイスをする。指を折って数えることを教える。夕方になる頃にはみんな一桁の計算をマスターした。


「よし、今日はここまでだ。みんなよくやった」

「俺たちは遊んでいただけで褒められるようなことはしてないよ」

「いや、数字を覚えて計算まで出来るようになったんだ。十分にすごいよ」

「これはごほうびだ」

 僕はみんなお菓子を配った。

「わーい」

 みんな大喜びだ。

「それからこれを貸してあげるから、みんなで遊んで計算が速く出来るようになってね」

 僕は紙の試作トランプをルークに渡した。

 ルークは目を白黒させて

「こんな高価なものを貸してもらってもいいんですか?」

 と驚いた。

「これは試作品だから大丈夫だよ。でも失くしたり奪われたりしないように気を付けてね。明日も朝食後に集合すること」

 そう言って解散した。

「意外と疲れましたね」

 とブランシュが言うが、明日もやるんだよな。


 ◇


 翌日も探偵団が勢ぞろい。

「俺たち昨日はあれからトランプで遊んでもっと計算が速く出来るようになったんだよ」

 とニコが笑顔で言った。

「それは良かった。今日はカルタで文字を覚えてもらう。説明はブランシュから」


「いいですか、ここを見て。この丸で囲まれたのが文字です。この字で始まる文句を私が読むので、読まれた字で始まるカードを探して取りますよ。早い者勝ちです。最初は絵をヒントにして取ってもいいですよ。自分の名前の字のカードくらいは取ってね。一番多く取った人にはお菓子のご褒美がありますよ」

 カルタのカードを見せながらブランシュが説明した。

「まずは取り札を表にして重ならないように広げて」

 探偵団のみんなにカードを広げさせた。

「では始めます」

 お菓子のご褒美と聞いてみんな目の色が変わった。

「朝のあいさつおはようございます」

「たあ!」

 一枚目はルークが取った。リーダーの面目躍如だ。ブランシュの読みが続いた。


 次第に白熱して読み上げる声が響いた瞬間、場が戦場と化す。文字が読める読めないに関わらず、団員たちは一斉に場の中央へダイブ。特にルークは、ボスの一番の側近としてのプライドがあるため、絶対に負けられないとばかりに突っ込む。


「そこどけッ! その『ル』は俺の札だ!」

「痛てっ! 引っ張るなよルーク!」


 文字を探すゲームだったはずが、いつの間にか「相手より先に札の上に覆い被さるゲーム」へと変貌。頭をぶつけ合い、服を引っ張り合い、最終的にはルークと元気が取り柄のビムが、一枚の札を掴んだまま床を転がり回る取っ組み合いの喧嘩に発展してしまった。


 僕は見かねてバン、と机を叩いて制止した。

「ストップ! 全員そこまで!」

 ボスの一喝に、掴み合っていた団員たちはハッとして動きを止めた。気まずそうに、けれど納得のいかない顔で彼らは僕を見つめた。

 そこで僕は、彼らを叱り飛ばすのではなく、彼らの大好きな公平なルールを提示することにした。


「僕がみんなにやらせたいのは力比べじゃない。探偵に必要なのは、冷静な目と、ルールに従う規律だ。……よし、今から新ルールを追加する」

 次の二つのルールを追加した。


『お手付き(違う札に触る、またはお手付きの巻き添えで暴れる)は、次の一回休み』


『相手の身体に触れたり、服を引っ張ったりした者は、その時点で累積獲得枚数を『ゼロ』にする』

「獲得枚数ゼロってどういうことだ?」

「それまでに取った札を全部吐き出すってことさ」

「えーっ、そりゃひでぇ」


「獲得枚数ゼロ」という厳しいペナルティを聞いた瞬間、少年たちは一気に興奮が醒めたようだ。暴力が禁止されたことで、彼らは「いかに早く文字を見つけるか」という、本来の知的な勝負に集中せざるを得なくなった。


 結果として、下町の少年たちは「ルール(法や規則)があるからこそ、フェアで面白い勝負ができるんだ」ということを、身をもって学ぶことになった。


「うん、これならフェアな勝負だ」

 僕は満足してカルタ遊びを続けた。これなら平民の識字率向上もなんとかなりそうだ。

アランの仲裁で騒ぎは収まりました。次は5/30日に更新予定です。内容はユリアの新聞社に大ピンチ!です。

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