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【58】2度目のリヴェルト~要望する~なんだって!紙の生産が間に合わない!?

テオに紙を増産してもらうためにリヴェルトに赴くアラン。でもそう簡単に紙を増やすことはできなそうです。

 二度目のリヴェルトに船でやって来た。今回ブランシュはお留守番だ。テオとじっくり話すには、日帰りじゃなく一泊二日の日程が必要だからだ。未成年の僕一人での遠出は許されないのでレイモン商会の若手の店員ブルーノ・マセが同行している。彼は荷物の搬入や商隊の手伝いで鍛え上げられた、がっしりとした体躯。背が高く護衛もできそうだ。少し癖のある栗色の短髪に、人当たりの良さそうな琥珀色の瞳で僕をじっと見る。どうやらやり手の子供商人だと誰かに吹き込まれたらしい。


「アラン様、着きましたね。さあ行きましょう」

 ブルーノは仕事で何度かリヴェルトに来ているので道を知っているようだ。僕はフォトメモリーに記憶すれば道を忘れないのだが、前回はそれをしなかったのでうろ覚えだったから助かる。


「さっき通ったばかりの大きな桟橋、すごい活気だったでしょう?」

 ブルーノは爽やかに笑った。

「上流から切り出された材木が次々に運び込まれて、そのまま取引されるから、あそこはリヴェルトの心臓部みたいな場所なんです。それだけ良質な木材が集まる街だからこそ、腕利きの木工職人や鍛冶屋が競い合っているんですよ。アラン様のあの『ネコ車』の図面を見せたら、彼らも職人魂に火がついて、目の色を変えて飛びついてきますよ!」

 ブルーノは商人らしい視点で遠まわしに売り込めと言わんばかりの勢いで話しかけてきた。

「ネコ車の独占権が切れたとは言え、店長の了解もなしにそんなことを言ってもいいのかな?」

 僕は先走りそうな彼をたしなめるような口調で言った。

「おっと、こりゃまた失礼いたしました」

 少々しょんぼりしたように見える。そうこうしている内にテオのウッドワークス工房に着いた。


「テオさんはいますか?」

 ブルーノが入り口近くの職人に尋ねた。

「ちょっくら待ってくだせえ」

 そう言って彼は奥に引っ込んで行った。

「お待ちしてやした。ここじゃ内緒話もなんですから、この前と同じ裏のベンチに行きましょうや」

 テオに従って例の工房の裏手へと回りベンチに腰掛ける。

「ブルーノ、悪いんだけど内密の話をするのでブルーノはあっちのベンチで待っていてくれるかな?」

 僕がそう言うと叱られた子犬のような顔をして遠くのベンチへ向かった。


「で、今日の話は紙の増産の話かな?」

 ブルーノを気にせずしゃべれるので、僕たちは前世での関係性で会話が進む。

「今は月に百枚でお願いしていますが、百五十枚にできないでしょうか?」

 テオは顎をさすりながらしばし沈黙した。

「実は新聞社からも五十枚増産を頼まれてんだ。合わせると月に百五十枚の追加になる。現状では五十が精一杯だ。新聞社にもOKは出してない」

 僕は頭の中にルナール商会長の怖い顔が浮かんだ。このままだと来月からはレイモン商会が六十セット、ルナール商会が三十セットしか売ることができないからだ。どうしよう?


「紙の製造工程のボトルネックを解消して増産できませんか?テオさんには心当たりがあるんじゃないですか?」

 僕は必死になって聞いてみた。

「ボトルネックはあるよ。紙すきで植物の繊維をすくう工程と乾燥の工程だな。紙すきは人を募集しても、見たことも聞いたこともない仕事の担い手が見つからない」

「乾燥工程は自然乾燥なんですね?」

「ああ、この世界にドライヤーは無いからな。最低でも一昼夜かかる」

「紙すきの工程は習熟するのにどれくらいのかかりますか?」

「そうだな、毎日やれば、勘がいいやつなら一週間でも歩留まり八割は行くかな」

それなら人材の心当たりはある。

「ふむ。それじゃあ乾燥工程は温風でもいけますか?」

「いや、冷風のほうがいい。温風だと仕上がりの表面が凸凹になるんだ」

「わかりました。その両方を僕がなんとかしましょう!」

「アラン坊ちゃんに策があるのかな?」

 テオは僕をからかうような口調で言った。

「大船に乗ったつもりで任せてください」

「よし、任せた!」

 テオと僕は拳をぶつけ合った。


「早速ですが紙漉の助っ人を一人派遣しますよ。僕は最近、領都の孤児を集めて少年探偵団を組織したんです。その中の一人に手先が器用なやつがいるので彼を派遣します。衣食住の面倒は見てもらえますね?」

「少年探偵団とはこれまた中二病的な。使えるやつなら構わないよ。そうかこの前手紙を届けに来た子供もそうなのか?」

「はい、そうです」

 よし人手不足はこれで解消っと。

「それからここって川から水を引いていますよね?」

「ああ、木材を洗うからな」

「その水力は使えませんか?」

「水力で羽を回すのか。それなら材木を使って俺でもできるかも」

「魔術師を雇って風の魔術で乾かすというアイデアもあったんですけど」

「そいつはその魔術師がへたっちまうんじゃないか?」

「そうですね!」

 僕は軽い思いつきを反省した。魔術よりもカイルに頼んで手回し扇風機を作る方が近道かもしれない。Bプランとして考えておこう。

「これで僕の方の百枚追加の目途はつきますか?」

「ああ、もう少し上乗せできるかもな」

「じゃあ戻ったら探偵団のメンバーを送り出します。パッチという子が来るはずです」

「うん、わかった。よろしく頼む」


 話が終わったので手持ちぶさたにしていたブルーノを呼んで帰り支度を始めた。テオが失敗作の紙の束を持たせてくれた。失敗作と言っても前世で言うところのB級品なので試し刷りには十分使える。僕らはテオに礼を言ってウッドワークス工房を後にした。


「アラン様、商談は上手く行ったんですか?」

「うーん、商談と言うよりは協定みたいなものかな」

「協定?それはいったい何です?」

「お互いに条件を出し合って合意がまとまるってこと。お互いに困っていることがあって、できることを出し合って解決するのさ」

「なるほど。直接に品物やお金をやり取りするわけではないないのですね?それはまた貴族様っぽい仕事ですね」

「そう見えるかもしれないね。さあ、今日の宿を探そうか。知っている宿に案内してくれるかな」

「承知しました。アラン様に気に入って頂ける最高の宿へご案内しますよ!」

こりゃあ付き添ってくれたお礼の手当てに色をつけてやらなくては。

紙の製造工程でのボトルネック解消案を出したアラン。これでなんとかなりそうですね。次のエピソードは職人カイルの背景になる予定です。5/26更新のつもり。

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