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【57】印刷機完成~設置する~ヤバい!このままじゃ印刷できないぞ

テオの所にはいきませんでしたね。下町の職人カイルから印刷機が届いたのですが…

 すったもんだがあったけど無事に木製トランプは発売された。

 ルナール商会長はブラックジャックの遊び方が載った説明書を渡したらたいそう満足した様子だった。あちらは上級貴族を中心に順調に売り上げを伸ばしているようだ。

 こちらは下級貴族や平民に売っているが五目並べの購入者が新しい遊び道具の噂を聞きつけて買いに来ている。こちらの売り上げも順調のようだ。


 さて、下町の職人カイルから印刷機ができたという知らせがあった。そこで荷馬車を手配して印刷機を引き取りに向かわせた。

 印刷機を運んできた荷馬車から工房の職人達の手を借りて二階の執務室へ運んで設置した。

 まだカイルが試し刷りを何枚かしただけなので、たいして汚れていない新品の印刷機だ。


 満を持して印刷をしてみようと思ったところで僕は思わず大声をあげてしまった。

「なんてことだ、印刷機があっても肝心な物がなければ印刷ができないじゃないか」

「アラン様、肝心なものって一体何がないのですか?」

「蝋原紙と鉄筆とその下に引く鉄製下敷きのセットがないんだよ。そういえばそこまではカイルに注文するのを忘れていたな。大失敗だ。これじゃあトランプの次ロットの出荷に間に合わないじゃないか。どうしよう」

 僕が頭を抱え込んでいるとブランシュが言った。

「今から急いでカイルに連絡して準備してもらいましょう」

「そうだね少年探偵団に行ってもらおう」

 焦る気持ちを抑えてピーと僕は笛を吹いた。さほど間をおかずにルークがやってきた。僕は急いで下町のカイル宛に書いた手紙をルークに渡した。もちろん内容はガリ切りセットの発注と納期の確認だ。

「ルークこれは下町の職人街のカイルに渡してきて欲しいんだ。そして返事ももらってきて欲しい。大至急頼むよ」

「わかりましたボス」

 ルークは疾風のように飛んで行った。

 僕とブランシュは何もできないのでお茶を飲んで返事待つことにした。内心では気が気でないのだが。


 こうして二人でゆっくりお茶を飲むのは久しぶりだ。なにせ色々と忙しかったものだから。紅茶の香りを楽しみながら一口飲む。温かい塊が喉から胸のあたりを通ってお腹に染み渡る。少し落ち着いてきた。


 それからビスケットをかじる。レイモン商会の料理人に頼んで砂糖を控えめにしてもらっているのでちょうど良い甘さだ。この世界では砂糖をたくさん使うのが贅沢で地位の証となるらしく、どこの菓子も甘すぎるのだ。


「アラン様、魔術の方の練習はいかがですか」

 ブランシュは僕の意識をガリ版印刷から遠ざけようとして、話題をそらしてくれたようだ。優しい心遣いが嬉しい。僕は彼女には神殿で魔術について教えてもらい毎日練習していることを伝えてある。もちろん他の人には内緒だ。


「うーん『気』を集めて指先に集中させるところまではできている。あとはそこに実体化させるだけなんだけど、これが難しいんだ。」

 僕はそう言ってもう一口お茶を飲んだ

「魔術って私は見たことはないのですけれど、何もないところから何かを出すってとてもすごいことですね。」

 やっぱりブランシュも見たことがなかったのか。それじゃあこの世界であまり魔術が知られていないのも当たり前だな。



 ゆっくりお茶の時間を過ごしていると、ルークが大急ぎで戻ってきた。

「ボス、カイルさんからの返事です!」

 息を切らせたルークから、僕は手紙を急いで受け取った。

「ご苦労だったね。」

 僕はそう言ってルークに駄賃を渡して帰した。もどかしさに指先を少し震わせながら封を破り、カイルの無骨な文字へ一気に視線を走らせる。自分の不手際を呪いながら、僕は祈るような心地で文字を追った。大慌てでそれを読んで僕は右手で額を抑えた。

「なんてことだ蝋原紙と鉄筆一式はちゃんと準備してくれていたんだ」

「イヤッホー!」

 思わず叫んでしまった。

「アラン様、どうなさったんですか?」

 僕の様子にびっくりした顔でブランシュが聞いた。

「ブランシュ、ほら、ここを見て!」

 手紙に記された印刷機の該当箇所を僕は指さした。印刷機のスクリーンと台の間に蠟原紙と鉄筆と鉄の下敷きが布にくるまれて挟まっていた。これを使えばすぐにガリ切りができるじゃないか。カイルはなかなか気が利く。心の中で彼に感謝した。僕が確認不足だっただけか。


 何はともあれ、まずは試し刷りだ。せっかく試し刷りをするのだから、トランプの説明書にするが、前回の原紙は日が経ちすぎて使えない。改めてガリ版印刷をする。


「ブランシュ悪いけれど、トランプの説明書をガリ切りしてくれないかな。裏面の空いている部分には保証書の文言を追加して欲しい。もちろん印章を押すスペースを空けておいて」

「承知しました、アラン様」


 ブランシュはそう言って鉄筆を持って蠟原紙に向かい始めた。カリカリとガリ切りの音が聞こえてくる。二度目なのにワクワクする音だ。


 夕方になるころには裏面となる二枚目のガリ切りが終わった。

「アラン様、できました!」

「お疲れ様、ブランシュ」

「二枚目もチェックお願いしますね」

 ブランシュが二枚目の作業をしている間に、僕は一枚目の原紙チェックを済ませていた。ミスがあればやり直しだ。修正液などないから。

「さすがブランシュ。完璧だよ」

 ブランシュは少し頬を赤らめながら言った。

「いよいよ印刷ですね」


 しかし、そこで僕はハタと気がついた。

「原紙も準備できたし試し刷り用のインクもある。すぐにでも印刷したいのは山々だけど、肝心の紙が少ししかないよね。ここで原紙にインクを付けてしまえば、インクが固まる前にすべて印刷を終えてしまわないといけない。でも紙が不足している。せっかくガリ切りしてもらって悪いけど、次の紙が届くまでは待っていようじゃないか」

「わたしは何度でもガリ切り致しますわ。印刷をいたしましょう」

 ブランシュはそう言ってくれるけれども、カイルがテストをしているので、そこは信用できる。蝋原紙も残り一枚しかない。

「いや、やっぱり紙が届くまでは待つことにするよ」

「アラン様がそうおっしゃるのならわかりましたわ」

 心なしかブランシュが下を向いてがっかりした様子に見えるが、もう決めたことだ。さあテオにもっと紙を送ってもらおう。

次のエピソードは未定です。それなのに更新は5/24です。

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