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【55】魔術~練習する~アランも使えるかな

神殿で教わったので早速魔術の実践してみました。

 神殿で話を聞いて、どうやらこの世界での魔術は僕が異世界モノで知っている魔法とは違うことがわかった。ファンタジーによくあるのは魔法が貴族のもので平民の中で魔力を持っているものが例外的に使えるというやつだ。そして使える魔法には適性があるとされている。


 ところがこの世界で魔術は貴族が使うようなものではなくて、卑しい平民が使うものとされている。その理由は魔術を使い始めたのが平民だったから。貴族が平民に教えを乞うを良しとしなかったのだろう。貴族が魔術を利用する際には能力のある平民を雇えばいいと考えられているらしい。だから貴族の子弟が通う学校で魔術を教えたりはしない。


 さらに魔術を会得するには長い時間がかかる。そのために神殿に引き取られた孤児が日々呪文を唱えて会得していることがわかった。でもどうしてそんなに時間がかかるのだろう。先入観なく考察してみると、魔術に必要なのは時間じゃない。強い精神エネルギーと生み出す物理現象をくっきりとイメージする力なのではないだろうか。この世界でイメージ媒体と言えば、せいぜいが肖像画や風景画だ。その上そうした絵画も高価で貴族の館でも美術館ほど飾られてはいない。物理現象をありありとイメージするのは普通の人間にとっては難しいだろう。


 僕がアニメから得た知識でも魔法・魔術はイメージが鍵だと言われる。力が行使される場面をリアルに思い描けるかどうかが重要だとされることが多い。


 もしかしたらこの世界の魔術も同じなのかもしれない。魔術を会得するのが難しいのは、この世界ではイメージを構築するためのヒントがないから。写真もビデオもないので、目の前に存在しないものを頭の中に描くことが普通の人にはできないんじゃないかな。もしも、最初から明確なイメージが描ければ、魔術が発動するかもしれない。それにイメージがポイントなら無詠唱でいいのかも。


 実は僕は想像力がたくましいと自分でも思っている。例えばニュースで大学受験生が入試当日の朝に試験会場に向かう途中横断歩道で車にはねられて亡くなったというニュースを聞いたとき、その朝の受験生の行動や気持ちを想像してしまう。また、事故の悲報を聞いた家族の気持ちを思うだけでなく、どのようなふるまいをするかまでを頭の中に思い描いてしまうのだ。そうやって普段から物事をイメージする習慣がある。だから自分は魔法に向いているのかもしれないと思う。


 ◇


 そこで僕は試してみることにした。まずはバスティアンが言っていた精神エネルギーを集めるところから。ファンタジーでマナとか魔力とか言うもの、僕にはスターウォーズのフォースや東洋的な『気』の方がイメージしやすいので、それを集めて巡らせるところから始める。その前に人払いをしなくては。


「しばらく一人で考え事をするから夕食まで誰も執務室に入ってこないようにしてくれないかな。ブランシュ、君もだ」

「あら、とても大事な考え事なんですね。わかりました」

 何か含むところがあるような笑みを浮かべながら、そう言って彼女は出て行った。


 第一段階は瞑想だ。僕は床に腰を下ろし、座禅の基本である結跏趺坐を組んだ。

 深く、長く、呼吸を意識する。肺の隅々まで空気を送り込み、糸を紡ぐような細さでゆっくりと吐き出していく。「ひとーつ、ふたーつ……」と頭の中で数え、意識を呼吸の波だけに集中させた。


 次第に雑念が霧散し、前世でいうところの『マインドフルネス』の状態へと至る。

 すると、奇妙な感覚が訪れた。指先からつま先まで、体中の全細胞が何かに満たされていくような感覚。それは温かく、同時にひんやりとした静謐な重みを持っていた。

 血液の循環とは異なる、もっと根源的なエネルギーが全身を淀みなく巡り始めている。……確信した。これこそが魔術の源泉、精神エネルギーの奔流なのだ。



 よし、いよいよ魔術の実践といこう。

 この深い瞑想状態をキープしたまま、脳内に『火』を思い描く。今は昼間だ。光の魔術だと周囲の明るさに紛れて変化がわかりにくいから、あえて難易度が高いとされる火の魔術に挑んでみる。


 まぶたの裏に、一本のロウソクを立てる。

 暗闇の中で、オレンジ色の小さな炎がゆらゆらと揺らめく様子を、これ以上ないほど鮮明にイメージした。意識の解像度が上がり、炎の熱や芯が焦げる匂いまでもが再現されていく。


(来い……ファイヤー!)


 心の中で叫ぶと同時に、全身を巡るエネルギーを右の指先へと一気に流し込む。

 ――瞬間、指先にじんわりとした温もりが宿った。

 期待に胸を膨らませ、僕はそっと目を開ける。やったか……!?


 しかし、視界に飛び込んできたのは、いつも通り代わり映えのしない僕の指先だけだった。

「……まあ、そりゃそうか」

 苦笑いが漏れる。神殿の精鋭が十五年も修行してようやく形にする神秘を、素人の僕が数分で再現できたら苦労はない。

 でも、あの『確かな熱』は錯覚じゃないはずだ。ここからは、地道な反復練習ルーチンあるのみ。僕は独学での魔術習得を誓い、再び静かに目を閉じた。

チート主人公ではないアランは一発で魔術は使えませんでした。次はやり手の古狸商会長から驚愕の手紙が!次の更新は5/20です。

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