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【54】神殿に行く~教わる~魔術の仕組みを知る

狐か狸かわからないヴィクトール・ルナール商会長との面談を終えて、色々なものをスタートさせたアラン。次はついに魔術に手を染めるようです。どんだけ~。

 アランは木製トランプの製造にGOを出し、ミュゼット二号機の組み立てスタッフを集めて組み立てを始動し、さらに謄写版印刷機も注文することができた。やることはたくさんあったが自分の手は離れた。時間に余裕ができたので、以前ミュゼット号の試験運転中に知り合ったバスティアンという神官見習いを訪ねて一人で神殿に行くことにした。


 神殿は領都の北端、最も陽光が降り注ぐ高台にそびえ立っており、白亜の巨石を積み上げた荘厳な円形建築が、まるで街を見守るように鎮座している。神殿の周囲は「沈黙の広場」と呼ばれる手入れの行き届いた緑地が囲み、その中心を貫く巡礼路の両脇には、四季折々の花々と清らかな聖水を湛えた石造りの水路が美しく配置されている。


 広場から一歩神殿の敷地内へ入れば、街の喧騒は魔法にかけられたかのように遠のき、ただ風に揺れる樹々のざわめきと、高い尖塔の頂から響く柔らかな鐘の音だけが、神聖な静寂の中に溶け込んでいる。神殿の巨大な入り口には、精緻な彫刻が施された大理石の支柱が並び、その隙間から漏れ出す香油の香りが、ここが俗世とは切り離された祈りの場であることを告げていた。


 鉄の門はあるが、信者の出入りのために普通のドアぐらいの大きさの通用口が開いていた。通用口をくぐると守衛所のようなボックスがあり、門衛がいた。お祈りのために礼拝堂へ行くなら素通りしても良いが、面会なのでそこで要件を告げた。

「神官見習いのバスティアンさんを尋ねてきたのですが。」

「ああ、見習いなら礼拝堂入り口に誰かいるので、そこで名前を告げたら呼んできてもらえますよ。」

「ありがとうございます。」


 建物の階段を上って礼拝堂入り口付近の若い神官見習いに同じことを言うと、すぐに呼んできてくれるという。

「おまたせしました。アラン・プラード技師長様。よくお越しくださいました。」

「先日は困っているところを助けていただいてありがとうございました。すっかり時が経ってしまいましたが、やっと参ることができました」

「いえ、いえ、とんでもございません。さぞかしお忙しいでしょうに」

「後ほどお祈りを捧げてご寄進させていただきます」

「それは神もお喜びになるでしょう。それで今日は魔術の件でいらしたのですか?」

「ええ、そうです。魔術に興味がありまして、基本的なことを教えていただきたいと参りました。」

「承知しました。ではこちらへ。」

 バスティアンはそう言って面会室のようなところへ通してくれた。


 板壁で囲まれた面会室は、高い位置にある狭い窓から差し込む一筋の陽光が、宙に舞う細かな塵を白く照らし出している。使い込まれた簡素な木製の机と長椅子が置かれているだけの狭い空間には、木の清々しい香りと共に、長い年月をかけて染み付いた古い香油の匂いが漂っていた。


 バスティアンの話から、魔術の概略が見えてきた。まずは出会ったときに教わった内容の復習だ。

 この世界では光・風・火・水の四系統が一般的で、適性の有無に関わらず誰でも身につけることはできる。ただし、習得には長期間の修行を要するため、使い手は事実上、神殿に属する者に限られているという。


 子供が神殿に入ると、数年はひたすら神に祈りを捧げる。魔術の発動には「祈りの強さ」――つまり、強く念じることで得られる精神エネルギーが必要不可欠だとされているからだ。なるほど、魔術のエンジンは精神力というわけか。


 だが、それだけでは終わらない。強い精神エネルギーを手に入れたら、今度は引き起こす物理現象を鮮明にイメージできなければならない。この世界では、具現化する現象が重たいほど難易度が高いとされている。

 つまり、光・風・火・水の順で難易度が上がるのだ。アニメなどの創作物では「光属性」といえば高度で希少なイメージがあったが、この世界では最も基礎的な、最初に発動させるべき属性なのだという。


 暗闇でロウソク程度の光を灯せるようになるまで、修行を始めてから二年から五年。光を会得すれば風は比較的早く習得できるが、火にはさらに時間を要し、水が最も困難とされる。全属性を使えるようになるには、五歳から始めても早くて二十歳。そこから先は、光ならより明るく、水ならより大量にと、各属性の強度を上げる修行が続く。


 なるほど、一人前になるまで最短でも十五年。これでは日々の労働がある平民も、学問に忙しい貴族も、魔術の修行に手を出す余裕はないだろう。稀に入門する物好きもいるようだが、大抵は中途で脱落してしまうらしい。


「まことに不躾なお願いですが、魔術を使うところを、再度見せていただいてもよろしいでしょうか」

「ええ、構いませんよ。あいにくこの部屋では火や水は使えませんので、私が最初に習得し、十五年磨き続けてきた『光』の魔術をお見せしましょう」


 そう言ってバスティアンは静かに目を閉じ、深く重みのある祈りの言葉を紡ぎ始めた。

「常しえの光よ、我が指先にその欠片を。闇を払い、足元を照らすしるべとならんことを」


 直後、彼の人差し指の先に、凝縮された眩い光の球が鮮やかに現れた。

 先ほどまでの薄暗い神殿の一室が、まるで昼間の太陽の下にいるかのように白く染まる。蛍どころではない。それはランタンの灯りすら凌駕する、密度のある強固な「光」だった。

(わぉ……やっぱり目の前で見ると、理屈抜きにすごいな)

 熱を伴う火の明かりとも、フィラメントが発光する電気の明かりとも違う、純粋なエネルギーの輝き。十五年という歳月が、ただの「灯り」をこれほどまでの「力」に変えるのかと、僕は圧倒された。


「いかがですか? 魔術と言っても、このように道を照らすことしかできません。ですが、迷える誰かの不安を払い、正しい足元を示すことができれば、私にはそれで十分なのです」

「いえ、素晴らしいものです。この輝きがあれば、暗闇の中でも決して希望を失わずに済みます。貴重なものを見せていただき、本当にありがとうございました」

「お役に立てたのなら光栄です。私はそろそろ次の務めがありますので、これで失礼させていただきます」

「重ねて、ありがとうございました!」


 僕はバスティアンに深く礼を言うと、礼拝堂の入口にある寄進箱に金貨一枚を滑り込ませ、神殿を後にした。

 原理はわかった。あとは自主練習あるのみだ。

 十五年の研鑽を、僕は現代知識でどこまでショートカットできるだろうか――そんな不敵な野望を胸に、僕は意気揚々と帰りの辻馬車を拾った。

次のエピソードをモノづくり系にするか魔術の続きにするか悩んでいます。どっちになるでしょうか!?座ると太もも裏がピリピリするので寝っ転がって書いています。苦しい!次は5/18更新予定です。

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