第二部【40】アランの決意~決心する~目標を見つけたアランは男爵にあることを申し出る
【第二部】
が始まります!アランが決意を父様に打ち明けます。
アランは父であるギレム男爵と執務室で向き合っていた。
「父様、お時間をとってくださりありがとうございます。今日は私のこれからの事についてご相談があります。」
「うむ、お前は10歳には見合わず大人びたところがあるからな、思うところを言ってみなさい。」
前世での経験があるからどうしても10歳らしい振る舞いができないんだよな。もっともこの世界の10歳は日本の子どもよりずっと大人びているけれど、それは早くから労働力として期待されているせいだろう。
「はい、私はレイモン商会と一緒に色々なものを作ってきました。その中でミュゼット号の開発は大変でした。」
「それはそうだろうな。あれだけのものを作るには見えない苦労がたくさんあったのだろう?」
と父様は片方の眉を上げた。
「ありがたいお言葉です。うっかり領主様との面会で大風呂敷を広げてしまったことは貴族としてあるまじき行為でした。できるかどうかもわからないことを上級貴族の前で口にしてはならないのですね。それなのに父様は私を叱りませんでした。」
「そうだな。貴族同士の会談の場でうかつなことを口にすると後に引けなくなることが多々ある。そうした政治的な駆け引きがそなたの歳では未熟なのはやむを得ない。叱るわけがなかろうが。それよりも蒸気自動車が完成しなかったときにどう責任をとるかばかり考えていたよ。」
そうだったのか。やっぱり父様は優しい。
「知りませんでした。そんなに気にかけて頂いたなんて。」
「いや父として当然だ。それでこれからどうしたいのだ?」
父様は少し心配そうな顔をしながら尋ねた。
「ミュゼット号の開発を通して自分の未熟さを思い知らされました。私はこの物づくりの才能を生かして領民や世のためになる物を送り出し、人々の生活を少しでも良くしたいと考えております。そのためには私一人では足りません。志を同じくする人を探して力を合わせてその道を進みたいと考えるようになりました。」
「確かに一人でできることは限られているが、仲間ができればより多くのことが成せるな。それでどうしたい?」
さすが父様、話が早い。
「はい、この男爵領は領民の数も少なく多くは農民なので人材がおりません。領都に行って人材発掘をしたいと思います。幸い領主様から褒賞を頂きましたし、レイモン商会との取引で貯めたお金もあります。できればレイモン商会の一室を借りて準備室のようなものを開きたいと思います。」
僕は思っていたことを正直に言った。
「『準備室』とはどういうものだ?」
「僕は集めた人材で会社という組織を作ろうと思います。」
「会社というのも耳にしたことがないが。」
「会社とは共通の目的を持った人が集まって事業を進める組織です。ただの同好会ではなくて、それを仕事として行います。商会は物の売り買いをしますが、会社はそれだけではなくもっと大きな仕事をします。」
「もっと大きな仕事?」
「例えば工房よりも大きな工場をつくったり、森林を開発したり。」
「ほう、それはまた稀有壮大だな。」
「はい、いずれはこの会社という方式も世に広めたいと考えています。」
「わかった。つまりお前はこの屋敷を出て領都へ行きたいというわけだな。」
「はい、つまるところはそうなります。」
「お前は三男だし、どうせ遅かれ早かれ独立するのだ。好きなようにやってみなさい。」
父様は快く許してくださった。
「シャルルは学院へ行っているので不在だが、いずれ夕食時にみんなに報告するとしよう。セリアとクリステルが寂しがるだろうな。」
◇
コンコン。僕はブランシュ先生の部屋をノックした。
「先生、アランです。お話があるのですが少しお時間よろしいですか?」
「はい、どうぞお入りください。」
中から声がしたので僕はドアを開けて部屋に入る。男女二人きりになるのでドアは開けたままだ。
「アラン君、何かしら?」
先生は不思議そうな顔をして僕を見た。
「先生、僕は父様と話をしました。自分には物づくりの才能があると感じています。だからこれを生かして自分の仕事としたいのです。ただし、ミュゼット号の開発で正直自分の力不足も感じました。僕に不足しているところを補ってくれる人材が必要なんです。チームを作りたいんです。」
「チームとは一体何ですの?」
「同じ目標に向かって一緒に努力する仲間のことです。その仲間づくりをします。」
「まあ、そのようなことを考えていたんですね。」
先生は目を丸くして言った。
「それで領都へ出ることにしました。人口も多いので人材も探しやすいでしょう。それで当面はレイモン商会の中に準備室を置かせてもらえないかなと思うのですが。もちろん賃借料はお支払いします。いかがでしょうか?」
「ええ、きっとお父様も承諾してくださると思うわ。お手紙を書いてみますね。それにしても思い切りましたね。」
「はい、ありがとうございます。ぼくはいずれ男爵家を出て行く身ですから、何年か早まるだけです。それで先生にお尋ねしたいことがあるんです。」
「先生は成人されて婚約者とかできましたか?」
「え、それはいったいどういう…」
あれ、先生の顔が赤くなった。
「もしまだ結婚の予定とかないなら僕のチームに入ってもらえたらなと…。」
「ああ、そういうことね。そうよね…ええ、いいですよ。アラン君がこれからどんな物事を考えつくのか興味が尽きないですもの。」
「ほんとうですか!ありがとうございます。先生は発想力もあって、僕の意図をすぐに読み取ってくれて、最高のパートナーだと思ってました。うれしいです!」
「まあ、最高のパートナーだなんて。」
先生は両手でほほを押さえて再び顔を赤らめた。
「では、早速実家に手紙を書きますわね。」
「領都に準備室が置けることが確実になったら父様以外の家族にも話そうと思います。」
「ええ、わかりました。お返事が来次第お伝えします。それからアラン君にひとつお願いがあります。」
お願い?いったい何だろう。
「もう家庭教師ではなくなるのですから、これからはブランシュとお呼び下さい。そしてアラン君のことも仕事中はアラン様とお呼びしますね。貴族様なのですから、対外的に『君』づけはできませんわ。」
「わかりました。そうします。」
二人でそう言って微笑みを交わして、僕は先生の部屋を辞した。
◇
3日後先生から実家の了解が得られたと聞いたので、家族に僕の決意を話すことにした。夕食を食べ終えてお茶が運ばれてきたところで、父様が口を開いた。
「みんな、これからアランから大事な話があるそうだ。聞いてやってくれ。」
母様とカミーユ兄さま、クリステル、ブランシュが僕を見た。ちょっと緊張する。
「先日父様とお話をして僕はある決心をしました。近いうちに僕はこの屋敷を出て領都へ行きます。領都で物づくりの仕事をするつもりです。もちろん家を出ても時々は帰ってきます。これからもよろしくお願いしますね。」
「まあ、あなたが家を出るのは早くても3年後くらいだと思っていたのに。でも、あなたをこの屋敷に留めておくことはできないと感じてはいたわ。頑張りなさい。応援しているわ。」
「ありがとうございます。母様。」
母様の目に涙がにじんでいるが、僕もウルウルしてきた。
「アランは小さいのにものすごいものを作って僕も鼻が高いよ。これからも面白いものができたら見せに来ておくれ。」
「はい、カミーユ兄さま、もちろん見せに戻ってきます。」
兄さまは拳を握って胸に当てて言った。
「下兄さまがいなくなってしまったら寂しいです。領都へ遊びに行ってもいいですか?」
クリステルが泣きそうな声で言った。
「もちろんだよ。領都はそんなに遠くないし、実はミュゼット号の1号機の予備の部品があるから2号機を作ろうと思ってるんだ。あれなら宿場に泊まらずに領都と行き来ができるんだよ。」
「そうなんですね!ではその時を楽しみにしてまいります。」
クリステルは涙を止めて明るい笑顔で言った。
アランが領都で活躍する?第二部の開始です。諸事情により二部は毎日の更新が難しいと思います。週に3回の投稿を目指して頑張ります。一部よりは発生イベントが多くなる予定です。次回更新は4/19。




