【39】自分の限界~行き詰る~第一部完
アランには自動車の開発を通じて自分のやるべきことを見直しました。
試運転三昧の日々を過ごしてドライブにも飽きてきた。ここでいったん立ち止まってこれからどうするかを考えよう。
僕は蒸気自動車を1台作ってみてわかったことがある。かなり構造をシンプルにして部品点数を減らしても、これを量産化することが今はとても難しいこと。1か月に1台作れと命じられたら1年くらいかければその体制はできるかもしれない。でも1日1台を要求された時点でお手上げだ。物作りとはそういうものだ。手作りと工業化の差だな。
商売として考えたら月産1台ならかえってプレミア感があり、金持ち貴族が見栄を張るために大金を出して買ってくれるだろう。そうしたら金儲けにはなる。でも僕はお金儲けがしたいわけじゃないんだ。この世界の人々の暮らしを豊かにしたいんだ。だから自動車を作り続けるなら少なくとも1日に1台くらいは作れないと世の中にインパクトを与えられないだろう。やっと1年に360台だ。それでも足りない。
21世紀の日本でも自動車産業は素材メーカー、部品メーカー、工作機械メーカー、金型メーカー、組み立て工場等々が必要だ。さらにそれぞれの開発者や人手も必要。またそうしたものを作ることができる外注メーカーも要る。工程管理や品質管理だってなくてはならない。自動車に限らずちょっとした工業製品ならこうしたサプライチェーンが一通り整ってるものだ。
イギリスの産業革命後に21世紀になるまで、どれほど多くの人が携わり発明や改良を経て世の中が成り立っているのかを痛感した。消費者として製品を買っているだけじゃ実感できなかった。自分で物づくりを始めてやっとわかるのだ。だから前世の知識を生かしたら便利な道具を作りまくって無双できるなんていう考えは甘かった。異世界文明開化はそんなに簡単じゃない。
そして、そのサプライチェーンを整えるためには、社会基盤がしっかりしていないとダメなことにも気づいた。良質な労働者を得るためには平民の教育が欠かせない。物づくりの技術向上には職人が抱え込んでいる技術を共有できる仕組みが必要だ。そのためには暗黙知を明文化して文書として残さなくてはならない。つまりマニュアルや本として。
それには印刷技術が不可欠だ。幸い謄写版が発明されたのでそれが使えるし今後は石版印刷や活版印刷にもつなげたい。印刷用の紙も安価で大量に作る必要がある。構想段階でとどまっている製紙業を早急に立ち上げなくてはならない。また、今は裕福な貴族や商人が出資して事業を起こしているが、株式会社のような仕組みを作ってリスク分散の上で広く資金を集めて、有望な事業を育てることも必要だ。
結局は21世紀の地球に比べたら遅れた社会の仕組みを、少なくとも20世紀初頭並みには引き上げなくてはならないだろう。どう考えても到底僕一人ではなし得ない。志を共にしてくれる仲間が必要だ。さらに言えば権力も必要だろう。何事も新しい仕組みを導入するには既得権益との衝突がつきもので、それを突破できるだけの力が要る。異世界で図書館をつくる物語でヒロインが領主の養女になるのは印刷業を起こすために必然だったのだ。
やることは山積みだ。だから僕は決意した。この世界で成りあがるぞと。さしあたっては男爵領で製紙業を作る。もちろんネコ車や台車のような高度な技術が必要ない便利グッズも生み出し続けるけど。そして領主様の懐に飛び込んで、この領地から改革を始めるのだ。領地が発展すれば国王からお呼びがかかって王国全体に改革を広げられるかもしれない。そこで第一段階の文明開化が起こせるというものだ。そうと決まれば早速行動開始だ!
第一部完
今回で第一部は完了とします。第二部の主な舞台は領都。拠点を移し、前世記憶を持つ二人を含めて自分のチームの人材発掘を始めます。彼らの行く手を妨害する敵も登場。王家ともつながりができるかも。魔術を学ぶ時間がとれるといいな。
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大体の構想は固まりつつあるのですが、執筆が追いついていません。しばらくしたら連載を再開しますので、読者の皆様にはお待ちいただけるとありがたいです。




