【37】神官見習いと魔術~助けられる~魔術の使用を目撃!
さて完成したミュゼット号をアランはテストと称して乗り回して失敗してしまいます。
蒸気自動車をお披露目してからは、不具合を見つけるための「品質評価期間」と称して毎日乗り回している。だって前世は自動車免許持てる年齢ではなかったから、助手席か後部座席専門だったし、運転は面白いので他の人に譲りたくないし。地方のテーマパークでゴーカートやバギーに乗ったことはあるので、アクセルとブレーキの操作はできる。それにミュゼット号では踏み間違いの誤発進事故を防ぐためにブレーキは右足、アクセルは右手とバイクと同じにしている。ハンドルまでバイクと同じ仕組みでT字だ。パワステでないので構わない。構造が簡単だ。ブレーキを左手にしようかと考えもしたが、両手がふさがるのは不便だなと気づいた。
トランスミッションなどというものは僕には作れないし、まだ速度変速機がないのでスクーターと同じ様に運転できる。そしてこれが実に楽しいのだ。小学生が自転車に乗れるようになって行動域が広がった時のように無敵な気分。高校生になるとバイクの免許が欲しくなる理由がわかった気がする。
さて、そんなこんなで調子に乗っていつもより遠出をしてしまったら、帰り道でガス欠ならぬ水欠を起こしてしまった。あいにく予備のタンクも空にしてしまったし飲み水も持参していない。困ったな。近くに民家があれば水をもらえるのだが、あいにくと村と村の中間地点だった。立往生していたら1台の馬車が通りかかった。乗合馬車のようだ。自動車の横で止まると幌の中から一人の若い男が降りてきた。
「ずいぶんと珍しい乗り物ですが、どうかしましたか?」
と尋ねてくれた。
「これは水で走る馬なし馬車なのですが、水がなくなってしまって走れないのです。お水をお持ちではありませんか?」
「ああ、これが近頃領都でお披露目されたという蒸気自動車ですか。噂では耳にしたのですが見たのは初めてです。ではあなたがアラン様ですね。よかったらお水をお出ししましょうか?」
「えっ、水を出す?」
「はい、私は水の魔術が使えますので。」
キタキタキターはい、魔術。異世界だったらファンタジーは必須だよね。あったんかい魔術!
「あなたは魔術とやらが使えるのですか?」
「はい、私は神官見習いなので少しの魔術なら使えます。桶1杯くらいの水なら出せますよ。」
「お願いします、お礼はお支払いします。」
「いえいえ、神官ですからお金はいただきません。神殿にいくらかのご寄付でもしていただければ結構です。」
「ありがとうございます!必ずご寄付いたしますのでお願いします。」
水のタンクを指さして、
「ここに井戸の桶1杯分くらいの水を注いていただけますか。」
と神官見習いに頼んだ。
「はい、わかりました。」
と言ってタンクに手をかざしてなにやらブツブツ言うと水タンクのゲージがエンプティから半分ほどになった。すごい、初めて見た。やっぱり少し手が光った気がする。これなら商会まで帰れるだろう。
「ありがとうございました。ところで魔術を初めて目にしたので、質問をしてもよろしいですか?」
「はい、どうぞ。」
「今のは水の魔術のようですが、他にはどんな魔術があるんですか?」
「水の他には、明かりを灯す光の魔術、火を起こす火の魔術、風を起こす風の魔術ですかね。」
「魔術を使うにはやはり適性とかあるんでしょうね。使える人は限られているとか。」
「いえ、特別な素質は必要ありません。ある程度の修行をすれば程度の差はあれ誰でも魔術が使えます。ただ、その修行をやりたがる人があまりいないのと、修行期間がそれなりに必要なので使えるのは神官ばかりですが。」
「そうだったんですね。戦に行く魔術師はいないのかな。」
「武器になるほど強力な魔術はないので戦では駐屯地での補給など後方支援で使われるくらいですかね。」
「そうなんですね。ありがとうございました。」
でもいいことを聞いた。”魔法”ではなく”魔術”なんだ。僕が異世界アニメで得た知識では、魔法はその世界の理による力で魔力などの素質が必要。でも魔術は忍術のように練習次第で使える技と理解している。この世界ではどうやら後者のようだ。ならば僕でも使えるようになるのかな。
「魔術について入門編ならば大した秘密はないので、もし詳しくお知りになりたいのでしたら神殿にいらしてください。」
「ありがとうございます。お引止めしてしまいました。お名前をお聞かせ願えますか?いずれ神殿に伺います。」
「バスティアンと申します。それではこれにて。」
と神官見習いは言って馬車に乗り込むと領都へ出発した。僕も再度蒸気機関に点火して帰途についた。いつか神殿に行って魔術を教えてもらおうっと。
やっとファンタジーらしく魔術を行使する場面が登場しましたね。アランもいずれ魔術に取り組むのでしょうか?第一部も残りわずかです。




