【35】新聞の発行~広める~エネルギッシュな女の子の新キャラ登場!
植物紙と印刷ができた背景がこれではっきりします。
私はユリア12歳。母はロックブルン領ではない他領の中級貴族の四女で愛人の娘。だから貴族に嫁ぐのではなく有力商人とのコネクションづくりのために、父のヘラルド商会に嫁入りしたわ。ヘラルド商会は領都でも指折りの大商会。そこの長女として生まれたの。
母は貴族の娘ながら愛人の子という立場を踏まえ、傲慢なところが少しもなく、そしてとても美しい人だったので、父は母を気に入っただけでなく、とても愛している。その娘の私も溺愛されているわ。下級貴族やお金持ちの商人が通う女学院に自宅から通っている。放課後は自由な時間があるので、好きなことができるの。前の世界で言うと大学生くらいの行動の自由があるわね。店を手伝うとアルバイト代がもらえるし。
そして私には他人には言えない秘密がある。それは前世の記憶。3~4年前のある日高熱を出して寝込んだの。熱が引いて目が覚めたら前世を思い出したわ。私の前世は社会人で職業はライター。大学卒業後出版社に勤めて編集者になったけれど、自分で文章を書きたくなって退職。そしてフリーランスに。編集者時代に業界で知り合った人から様々な記事の依頼を受けたり、自分の企画を持ち込んだり。業界紙の記事の手伝いもした。
そんな記憶が蘇ったものだから、この世界でも文章が書きたくて仕方がない。この世界には豪華装丁の王室の歴史だとか宗教の聖典のような本しかないので、小説家をやるわけにもいかない。そもそも私がなりたかったのはジャーナリスト。だからこう考えたの。
「私はジャーナリストになる!この世界初のジャーナリストに。」
そこで、手始めに雑誌のようなものを作ろうと思ったわ。昔の日本の『かわら版』みたいなものから始めようと。都市伝説のような面白そうな噂話やおばあちゃんの知恵みたいなライフハック記事なんかを集めて書いて売るの。問題は羊皮紙がえらく高いということ。私は文系なので紙を一から作ったりするのは無理。この世界に植物性の紙はあるのかしら。とりあえずは記事を書き溜めるところから始めたの。
◇
そうこうして学院に通い始めたある日、うちの商会の店の手伝いをしていたら、リヴェルトから帰ってきた従業員が紙のようなメモを持っているのを見つけた。木札じゃなかったからすぐに気づいたの。
「その手に持っているものをちょっと見せてくれない?」
「お嬢様、これですか。」
品質は前世のものよりは劣るけれど間違いなく紙だわ。指で擦ってみると少しザラザラして肌触りが和紙っぽい。
「これはどうしたの?」
「リヴェルトの大工工房で家具の取引の覚書に木札の代わりにそれを渡されました。」
「リヴェルトではどこもこれを使っているのかしら?」
「いいえ、ウッドワークス工房だけです。」
ウッドワークス、木工にぴったりの名前ね。そこだけでしか使っていないなら作っているのもそこね。このメモは端の方がちぎれているし、全体に黒ずんでいるから失敗作なのかも。」
「ねえ、これは多分羊皮紙じゃない紙だと思うのだけれど、紙そのものは売っていないの?」
「ええ、売り物じゃないみたいですよ。そこのテオっている坊やが綴ってたくさん持ってました。」
「ありがとう。」
こうしちゃいられないわ。リヴェルトに行って紙を手に入れてこなくちゃ。
◇
思い立ったが吉日。リヴェルトへ行く従業員と一緒に船に乗ってテオに会いに行くことに。
船がリヴェルトの桟橋に着くのも待ちきれず、従業員を急かせてウッドワークス工房へ向かった。
「テオさんはいるかしら?」
工房に着くなり店先で声をかける。
「へい、俺ですが。」
話には聞いていたが年若い少年が出てきた。でも大工は力仕事なのか筋肉が盛り上がって精悍な印象を与える。
私はメモ用紙を取り出して尋ねた。
「この紙はあなたが作ったのですか?どうしても欲しいんです。あるだけ全部売ってくれませんか?」
「え、ええっ!こいつが買いたいって?」
なんだか驚いている。そうね、この世界に紙が欲しいなんて言う人間が他にいるとも思えないもの。
「おう、売った!」
即答だった。
「親方にこんな金にもならないもん作ってどうすんだよって言われてたんすよ。ありがてぇ。」
「必要な枚数を注文したらこれからも売ってくれますか?」
「そいつぁ親方に聞いてみないといけないんで、ちょっと待ってもらえやすか。」
テオは奥に引っ込んで行った。少しして戻ってきたテオは満面の笑みで指で丸の印を作って
「わかりやした。作るのは止めていたんすけど、買ってもらえるなら再開しやす。」
と言った。あら、この世界にもOKサインってあったのかしら。少し違和感があったものの、テオとがっちり握手をして詳しい契約については後日ということで話をつけたの。こちらもかわら版の発行部数とか発行間隔とか検討することはたくさんあるしね。
◇
その後紆余曲折があって少し時間がかかったけど、かわら版の発行にこぎつけたわ。取材と記事を書くのは当面私がやることにした。後は、町中にいる孤児に駄賃を渡して情報収集。いきなりは売れないから見本をポスティング。これも孤児に依頼した。この世界に娯楽は少ないので、いや最近は新しい遊具が流行っているけれど、情報という商材がなかったので、思ったよりも引き合いがあり、定期購読が30件程度、町売りで同じくらい出るようになっている。
手書きで毎回50枚作るのは大変なの。これを解決するのは印刷技術しかないのだけれど、この世界のグーテンベルクを待つか、自分でやるかのどちらか。何度も言うけれど私は文系だしな。ガリ版印刷ならこの世界の技術でなんとかなるかしら。蝋板があるのだから、蝋を薄く引いてはがせるようにすればガリ版の原紙ができるわね。取引先の細かい作業が得意な工房に依頼してみようかしら。
◇
そんなこんなでガリ版、つまり謄写版印刷ができちゃった。私ってすごくない?自分で作ったんじゃないけど。これで私の夢
「この世界でマスコミ王になる!」
の実現に一歩近づいたわ。えっ?前と目標が変わっているって?細かいことはいいのよ。ほっといて!
さて3人目の前世記憶保持者が登場しました。実は第一部も終盤なんですけど、この後でこの3人はどうなるか、まだ筆者にもわかりません。終盤のエピソードは前半のエピに比べると推敲時間が短いので、ちょっと粗い気もしています。一部が完結したら少し見直したいです。
第二部を書く意欲を沸き立たせるために、よろしかったら評価送信お願いします。☆一つでもぜんぜんいいですよ~。




