【34】植物紙の発明~漉く(テオ視点)~職人見習の少年登場
前epで謄写版印刷が発明されてたことがわかったけれど、肝心の紙はどこから来たのでしょうか?
ここは領都をはさんでプラード領と反対側にあるリヴェルトという町。この町は領都の側を流れているカリス川の上流で比較的川幅が広がったところの船着き場が元で発展した町だ。水運が盛んで商人も多く出入りするので領都を除いたら発展している方だ。俺はここに住んでいる木工工房の息子だ。名前はテオという。町の人口がそれなりにあるし、宿屋や商店があるので建物を作ったり家具を作ったりで工房も繁盛している。
俺はもうすぐ10歳になるのでこのまま家の工房に入る。実は俺には誰にも言っていない秘密がある。3年前つまり7歳の時に突然高熱を出して倒れて3日間寝込んだことがあった。その時に前世の記憶を思い出したのだ。7歳の俺の頭の中に別の人間が住み始めたみたいな感じ。そいつと俺とでこの体を共同管理しているようなもんだ。完全に一心同体にはなっていない。目の前のことにうまく立ちまわれそうな方が前に出てくるって感じさ。
後で聞いたんだが、俺が寝込んだ日にこの町の空が黄色とも金色とも言えない光で包まれたそうなんだ。短い時間で消えたそうなので見た人間は限られている。寝込んで見逃したなんで俺も運が悪いぜ。
そいつは7歳になる直前だったんだが、俺の町では7歳になれば平民は自分のつきたい職業の見習いになる。たいていは大工の息子は大工に、仕立て屋の息子は仕立て屋にと、自分の親を親方として弟子入りするんだが、たまに別な親方を選んで弟子になるやつもいる。
俺は7歳になるまで木材に囲まれて過ごしてきたし、親父が色々なものを木の棒や板から作り出すのを見ていて興味がわいて、当然大工になろうと思ってたんだ。
3年前に前世の記憶が甦った俺は、こいつが何かの役に立たないかと思ったわけよ。そんで工房でもできることで、ついでに金儲けにもつながりそうで、この世界にないもの。あったら世の中が便利になるものがないかと考えたんさ。
それで工房の仕事を見てて思いついた。親方と弟子というのはどの職業でも同じなんだが、「技は見て盗んで覚えろ」って言うんだ。だけど人間ていうのは見よう見まねでやれる動作の範囲ってそんなに広くない。だから少しずつ覚えるのでとにかく時間がかかる。前世の知識にあったマニュアルってやつがあれば、その効率的っていうのか、もっと短い時間で技術を身につけられるはずさ。
だけどマニュアルを作ろうにも羊皮紙なんざ貴族様じゃないと買えない代物だ。商売でも大きな額が動く取引に際して覚書を取り交わすのに使われるくらいだ。商売人は木の板=木札を紙の代わりに使っているが、これでマニュアルなんて作った日にゃ、一冊の厚みがどんだけになっちまうかわからねぇ。もっと平民にも気軽に買える値段の紙があればいいじゃんと思ったわけよ。
そこで前世の知識を生かして、工房の仕事の手空き時間を使って、こつこつと紙漉きの道具なんかをこしらえたわけよ。木の皮を蒸したり煮たりする大きな窯だろ。ゴミとかを取り除く笊。似た皮を叩き粉々にする木槌も作ったしな。そんで漉きに使う型枠と網とか、漉いたやつに圧力をかけて水分を抜く道具とか、とにかく意外と多くの用具が必要だった。要は木の皮の繊維をひたすら細かくして水に溶かして漉いて和紙みたいなものを作ったさ。幸いここには川があるんで製紙業に絶対に必要な大量のきれいな水には困らねぇし。
それからできた紙が黒ずんだり黒い点々が残ったりしたのを、改良に改良を重ねてなんとか、前世のわら半紙よりは大分劣るが実用になる紙を作るところまで来たわけよ。ところが親方つまり親父だけど、頭が固い奴で「マニュアルなんてとんでもねぇ。そんなに楽して技術を身につけたらろくなもんにならねぇ。」てぬかしやがる。せっかく作った紙の一番に考えていた用途がなくなっちまった。
ところが捨てる神あれば拾う神ありってやつで、もったいねえから失敗した紙にメモ書きをして木札代わりに商人に渡してたのよ。そうしたらそいつが領都の情報屋?てのに渡ったらしくて、そいつが俺の所にスッとんで来たのよ。
「この紙はあなたが作ったのですか?どうしても欲しいんです。あるだけ全部売ってくれませんか?」
こうぬかしやがる。なんかすげぇ勢いだ。思い込んだら突っ走るタイプなんかな。
もちろん俺は二つ返事で言ったぜ。マニュアルにダメを出されて行き場をなくしていたからな。
「おう、売った!」
「必要な枚数を注文したらこれからも売ってくれますか?」
だって、まじパネェ熱量だ。なんでも書いたものを写して同じものをたくさん作って売るんだってさ。親方に相談したらもちろん金になるならとOKが出たさ。苦虫を嚙み潰したような顔しながら。マニュアルはダメだったけど、これで紙の普及の始まりになるぜ。
その後しばらくしてから、その情報屋から紙質をもっと上げろと言って来た。なんでも手書きで写すんじゃなくて、印刷とか言ったか一度書いた物を写しとって無地の紙に押し付けて同じものをたくさん作る方法を考えたんだってさ。そのためにはもう少し紙の繊維を細かくして欲しいんだと。今のままだと滲んじゃうんだってさ。
俺は考えた。叩く工程を水車の動力を使えばもっと細かくできるし、楽になると。しばらくは工房の仕事をそっちのけで紙質の改良を続けて半年かかっちまったが印刷に使えるものができたんさ。苦労したのは薄くする工夫だな。できるだけ水に溶かした繊維を少なくすることと、圧力を強めることだったな。品質と作業効率のバランスを見極めるのが大変だったぜ。
まさかこれが後でこの世界初の新聞発行につながるなんて思いもしなかったがな。
二人目の前世知識の所有者が出現!アランとテオのコラボが見られるのでしょうか?




