【32】蒸気自動車のパーツ~揃う~部品がそろったのにアランには心配が…
蒸気機関が組みあがり、木製の車体のパーツもできたみたい。それを検分に行ったアランはブランシュ先生に褒められて思わぬ行動に出てしまいます。
「坊ちゃん、なんとかパーツがそろいやした。」
工房から連絡を受けて確認に行ったらメートルが笑顔でそう言って来た。
「よくやってくれましたね。メートル。お疲れさまでした。」
「アラン君、部品を並べてみるとすごいですね。これだけの数が必要なんですもの。ここまで複雑なものはこの世の中にはなかってのではないかしら。」
蒸気機関を中心とした駆動部分だけでなく、車輪や車体を構成するパーツもそろっていた。先生の言う通り並べてみると壮観だ。
パーツと言ってもバラバラではなく、ユニットごとにくみ上げたいわゆるサブアッセンブリーという形になっている。それでも数十点の部品点数になる。
「そうかもしれませんね。それだけに上手く動くかどうか心配です。早く試してみたいです。」
なんとか部品をそろえることはできた。しかし一つ大きな問題がある。仮に組み立てたとして試走できる場所までどうやって運ぶ?うまく走るかどうかもわからない上に、圧力が高まりすぎてボイラーが破裂する可能性だってある。安全装置を組み込んでいるが、それが期待通りの動作をするかもわからない。そんなものを商会の前の通りで動かすわけにはいかない。何事にもテストが必要なのだ。それに完成車を運ぶカーキャリアなんてのもないんだし。
僕が難しい顔をして考え込んでいたら
「アラン君どうしたのですか?部品がそろったのにあまり嬉しそうじゃないですね?」
先生が僕の思案顔に気づいてくれた。
「いえ、組み立てる場所と組み立てた後のテストや試運転をどうしたもんだかと思っていたんです。」
「そうですね。私に当てがないわけでもないのでお父様に相談してみますね。」
しばらくして先生が戻ってきた。
「うちの商会が懇意にしていてご領主様の館に近いところに、商会長様の広い邸宅があるんです。パーティーを催す時は何台もの馬車が車寄せに着けられるんですよ。あそこならぐるぐる回って走らせることもできるでしょう。そして組み立て場所も納屋を借りられるみたい。なんでも納屋は2つあって、1つは今は使ってないんですって。お父様が頼んでくださるそうよ。」
「それは願ってもないことです!先生、ありがとう!」
僕は思わずブランシュ先生に抱きついてしまった。先生が
「えっ!?」
と小さな声を上げたので、僕は慌てて先生から離れようとしたら反対に先生に引き寄せられてギュッと抱きしめられた。
「よく頑張りましたね。アラン君は私の誇りです。」
そう先生はねぎらいの言葉をかけてくれた。僕は涙ぐみながらも、思いがけず先生の胸の感触を感じて、その部分に意識が集中してしまった。僕は顔が赤くなっているにちがいない。恥ずかしさのあまり思わず
「ご、ごごめんなさい!」
と口にしながら先生から体を離した。
「いやだアラン君たら、かえって照れるじゃないの。」
さすがにもういっぱしの大人のレディである。年下の僕をうまくあしらってくれる。恥ずかしさが少し薄まった。でも先生を抱きしめたときの香水の良い匂いが僕の鼻孔に残っている。僕はゆっくり深呼吸をした。
さて工場も確保できたのでパーツを運びい、よいよ組み立てを始める。場所を貸してくれるルナール商会へ荷馬車を伴い工房を出発した。今回は父様は同行していない。ブランシュ先生とメートルと新しく父様の側近候補兼護衛に雇われたカイル・ヴァンが一緒だ。カイルは姓を持っている通り貴族の出だが、父様の学友の紹介で来たヴァン家の四男だ。20歳で成人している。それなりに経験があり剣の腕も確かなようだ。親しみやすく誠実な印象だ。これから僕が家を離れる際には同行してくれるので安心だ。
蒸気自動車の完成までは時間がかかるので、その間にサイドストーリーを挟みます。




