【26】領主様との面会~会う~領主様の前で大風呂敷を広げてしまう
アランにとって二度目の領都訪問。今回は観光もできるぞ~。
やってきました2度目のロックブリュン子爵領都。途中で前回と同じ宿場にて一泊したよ、もちろん。前回の領都訪問は駆け足だったのでろくに観光もできなかったけど、領主様の謁見は到着してから申し込むので2,3日待たされるらしい。わが男爵家はまだ財力がないから領都に別邸を構えられていない。維持費が大変だもの。だから領都内の宿屋に泊まって謁見まで観光ができるよね。父様があちこち案内してくれるらしい。思春期少年としては少々気づまりだが一人で見て回るのは危険だから仕方がない。
さすがに領都の宿は貴族向けに建てられているから部屋の広さも宿場のものより広く、前世日本の2DKくらいはあるかな。主寝室が1つのツインルームを取ったけど、やっぱり側仕え用の部屋がある。領都と地方を行き来するうちのような貴族の夫妻が泊まる前提の作りかな。貴族の当主とその息子が泊まるのでシングルとするわけにはいかない。そこは見栄を張る必要があるようだ。僕は父様と並んだベッドで寝たりはしたくないので、側仕え用の部屋にするよ。父様は小さいとき以来久しぶりに一緒に寝たそうだったけどごめんこうむる。こっちでは子どもでも中の人は思春期男子なので。
ここにはお風呂もあるのが嬉しい。この世界の基準では湯浴みは贅沢なので週に2度なら良い方らしく、普通は体を拭いて済ませてしまう。日本人の習慣はなかなか抜けず毎日でも湯船に浸ってリラックスしたいのだ。
◇
翌日はパンとミルクと目玉焼きの朝食を部屋でとって、店が開き始める時間帯に領都の中心街に繰り出した。
前世日本なら地方の急行電車の停車駅の商店街くらいの規模かな。シャッター街とかない分、こっちの方が栄えている感じがする。物品を売っている店は品物は店内に並べているのでちょっと高級な雰囲気がする。少し離れると屋根だけあるオープンな売り場の食料品店があるし、串焼きや飲み物の屋台もある。それなりに賑わっているようだ。父様が飲み物を買ってくれた。自販機とは違うので陶器のカップに入ったお茶をその場で飲む。ホットでもアイスでもない常温だ。冷たい飲み物が恋しい。水筒を持参すれば一杯いくらで入れてくれるらしい。
雑貨屋や本屋をひやかして歩いた。本は装丁が豪華なものではない、質素な紐で綴じた実用書のようなものを売っていた。ハウツー本の類らしい。冠婚葬祭の常識集など。ちょっと興味を惹かれたけれども、今すぐ必要なわけではないので買わなかった。立ち読みでフォトメモリーするのはずるいのでやらない。知識にはちゃんと対価を払わなくちゃね。
ランチは屋台で肉の串焼きと固いバゲットのようなパンにジャムが塗ってあるものを食べた。ジャムはペクチンとかで増量していない混ぜ物無しの本物だから美味しい。この世界の果物自体は甘さがそれほどでもないからジャムに適しているかも。だけども元の世界のような柔らかなパンが食べたい。ライ麦なんか混ぜているとグルテンが少ないから固いんだよね。柔らかパンのレシピも開発テーマに加えておこう。
噴水のある広場には大道芸人もいて、ジャグリングを披露していた。お手玉のように3個のボールを投げ上げて回したり、ナイフを2本投げ上げていた。ちょっとハラハラする。他にもストリートミュージシャンならぬ吟遊詩人がギターのような楽器を弾きながら王都での出来事を歌っていた。こうやって各地にニュースを伝えるのか。
その日宿に戻ると領主様からの使いが来て、明日の昼前に領主邸へ来るようにとの言伝があった。いよいよ領主様と面会か~。夕食を食べ入浴してすぐに寝床についた。
◇
翌日は朝食を済ませ正装をして、馬車を呼び領主邸へ向かった。慣れない首のタイが苦しい。父様が門番に要件を告げると、すでに通知済みだったようですぐに通された。馬車を降りると玄関で執事が出迎えてくれて中に通された。おお、玄関ホールとそれに続くボールルームが広いこと。映画で見た吹き抜けの二階から降りてくる階段がある。ここでダンスパーティが開かれるのだろう。映画サウンドオブミュージックでマリアが修道院から来た初日に一人で踊るシーンを思い出した。
その先の応接室に通されて待つように言われた。応接室は位の高い貴族も来るのだろう。さまざまな美術品が飾られていて、調度品も装飾が施されている豪華なものだ。壁には領主さま夫妻とご家族のものと、先代領主様ご夫妻の肖像画が飾られている。かなり写実的な肖像画でかなり大きい。さすがに威厳がある。
「よく来た。」
領主様がそう言いながら部屋へ入ってきた。濃い栗色の髪と深い琥珀色の目をして年齢は40代前半ぐらいだろうか。精悍で落ち着いた雰囲気だ。
父様と僕は立ち上がった。父様が僕たちの紹介をする。
「お久しゅうございます子爵閣下。新年の領主会議以来でございますな。こちらがわが三男のアランでございます。」
「まあ座れ。その方がアランか。まだ幼いながらも色々と面白いものを考え出して領地の発展に尽くしてくれているようだな。ぜひ一度顔を見たいと思って呼んだのだ。」
「そのようなお言葉を頂戴しまして教説至極にございます。」
「そなたはまだ成人しとらんのでそのような改まった話し方はせんでもよい。公式の場でもないし、ここではもっと気楽にせよ。」
「ありがたいお言葉、そのようにさせていただきます。」
「して、五目ならべやらカルタやらの玩具はなかなかに面白いの。わしも遊んでいるぞ。どのように思いついたのだ?」
「妹に何か面白い遊びはないかとせがまれ頭をひねりました。合戦ゲームは大人向けですので、子どもでもルールが簡単で遊べるものはということで思いついたものです。」
まさか前世の遊びですとは言えず考え出したことにした。
「そうか、なるほど。それからネコ車というのか、あれと台車もこの館で使っている。使用人がたいそう便利だと言っておった。あのアイデアはどこから来たのだ?」
「車輪は乗用馬車や荷馬車で使われています。車輪は少ない力で重い荷物が運べます。それなら人が運ぶ荷物を車輪の力で楽に運べるのではないかと考えたのです。」
心苦しいがこちらもウソをついてしまった。
「面白い。では一つ尋ねよう。わしを驚かせるような、まだ形になっていないアイデアを一つ聞かせてもらおうか!」
ありゃ、本当に僕に発想力があるか試してる?こんな子どもだもの疑われるのも無理ないか。じゃあ、ひとつあれをぶち上げてやろう!
「馬なしの馬車、つまり自分で動く自動車というものを作りたいと思っております。」
「何、馬なしの馬車だと!?どうやって動くのだ。」
おお、領主様が食いついてきたよ。
「人や動物の力を使わない動力を使おうと考えています。機械の動力ですね。閣下も水車はご存じでしょう。あれは水が流れる力を利用しています。川は持ち運べないので、移動可能な自然の原理を利用した動力を作り出せないかという考えです。」
温めていた蒸気機関の応用として蒸気自動車を持ち出した。
「これまた大した発想力だ。お主が成人した暁にはなんらかの領の役目を担ってもらいたいものだ。大いに期待しているぞ。面白い発明をどんどんしてわが領の発展に力を貸してくれ。」
「ありがたきお言葉、しかと承りましてございます!」
領主様との謁見を終えてほっとした。
「あ~緊張した。」
「わしもだぞ、アラン。しかし見事な受け答えだった。父も誇らしいぞ。それに馬なし馬車は初耳だ。こうなると男爵家の跡取りも考え直さなければいかんかもしれん。」
「父様、それはおやめください。私は兄様たちと違って貴族としての教育を受けていません。だから他のことでお役に立とうと考えています。これまで通り男爵家の跡取りはカミーユ兄様で。」
「そうか、確かに兄弟仲が悪くなる可能性もあるだろう。まあ、お前はいずれ王都に出ていくことになるかもしれないしな。ハハハ。この話はしまいだ。」
自分の発想力を示すために蒸気自動車のアイデアを披露してしまったアラン。もう後には引けないぞ。蒸気機関の実現に向けて動き出す?




