【23】呪文:メモワール(写真記憶)~唱える~なぜそこで詠唱を?
アランが突然「メモワール!」と唱えると…。
「アラン様、一輪車のネコを別な用途向けに改良することはできますか?」
とブランシュ先生。先生によると、滑り止めをつけて完成したネコを見たピエール店長が、
「これは農作業や土木作業に便利ですが、店の商品を運ぶのにも便利かなと思って使ってみたのです。でも、商品を載せるならもっと平らな形がいいし、高さも低い方が使いやすいですね。商店用途に改良したものがあれば便利です。」
と言ったそうだ。それをレイモン商会長さんが聞いて、ブランシュ先生に手紙で知らせたのだ。メートルに言って改良してもいいのだけれど、ネコの発案者で権利を持っているのは僕だから、僕に言って来たというわけだ。
「商店で扱う商品の多くは木の箱に入っていて、積み重ねることができます。今は数個を重ねて人が運んでいます。数が多いと何度も往復しなくてはならないし、まれに落として壊してしまうことがあります。それを運べる手押し車があったら便利だと思うのです。」
と先生。
そうか、ネコはどちらかと言えば不定形のものを運ぶために作られている。箱入り商品だったら車輪を増やした台車の方が使いやすいはずだ。
「メモワール!」
「な、なんですかそれは?」
魔術を行使する時のような呪文に驚く先生。どうせ中二病ですよ僕はと思ってもおくびにも出さず続けた。
「気にしないで。記憶を探す時のおまじないだから。」
「へぇー、そう唱えると記憶を呼び出せるんですか?私もマネしてみようかしら。メモワール!…あら、だめだわ。」
何をやってるんですか先生。でも先生の呪文はキャワイイ。
「それならこういう形の手押し車はどうですか?台車っていうんですけど。」
「台車?また聞いたことがない品物の名前を持ち出しますね。アラン君は。」
それには答えず僕は実物の台車の形状を思い浮かべながら、この世界用にアレンジしたマンガを描いた。ネコは一輪車だが台車は四輪車だったな。三輪だと傾いて商品が落ちるおそれがある。
「ネコよりは車輪を小さくして、車高を低くします。安定性がよくなるので。そして2つの前輪は根元の部分を回転できるようにすると、方向転換が簡単になります。持ち手も横の方が使いやすいでしょうね。」
「なるほど、作るのもそれほど難しくないですね。アラン様、このマンガに説明書をつけて実家に送ります。回転する前輪の部分だけ追加の絵を描いていただけますか。それがあれば打ち合わせ無しで試作できるでしょう。」
先生はワクワク顔で言った。
「わかりました。早速台車の製作のための仕様書を作りますね。」
僕はすぐさま作業にとりかかって、その日の内に書き上げて送ってもらおう。
「また新しい商品ができますね。楽しみです。」
とブランシュ先生。僕は文明開化を興したいのに、町の発明家みたいになっているな。異世界のドクター〇松か。よく選挙に出馬してたな。
「呪文 醬油ちゅるちゅる!」「スーパーぴょんぴょん!」
とはいえ、この世界の人の暮らしに役立つなら小さな改善でもいいよね。庶民の暮らしはそういうところから変わっていくのかもしれない。
◇
しばらくして先生の所へ工房から手紙が届いた。
「アラン様、台車の製作で少し困っているようです。ネコに比べると車輪が小さいですよね。台車の台となる部分の平たい板に車を取り付ける部品を打つ釘の強度が足りなくて、少しの段差にぶつかると抜けてしまうそうです。何か解決策はありますか?」
ああ、そういうことか。確かにキャスターの車が小さくなると、その留め金もサイズダウンして、さらに留める釘も小さくなり摩擦力が小さくなるので簡単に抜けてしまうのか。
「ブランシュ先生、工房にネジというものはありますか。とんがっていて、釘の針の部分に溝を掘ったものです。」
「ああ、木ネジですね。少し前から箪笥などに使われ始めました。工房にもあります。」
「その木ネジを使えばしっかりと木を噛むので抜けにくくなると思います。なるべく大き目のものがいいでしょう。それから木ネジをねじ込む前に、木ネジよりも直径が大きな穴の開いた丸い鉄の円盤、ワッシャーって呼ぶんですけど、それを通すとより抜けにくくなりますよ。」
「わかりました。ワッシャーのマンガを描いてもらえますか。それと合わせて方法を伝えますね。」
木ネジが開発されて間もないのだと、ボルト・ナットもないだろうな。ワッシャーも段違いのスプリングの役目をするものにすればもっと抜け防止になるんだけど、スプリングの強度が出せる加工法はまだ難しい。
地球では産業革命の頃には、こうしたネジ類は普及していたみたいなので、この世界でもあと少しの時間があれば発明されるのかもしれない。だとしたら、ネジについては口を出さないでこの世界の技術の進展に任せようかな。少なくとも種類やサイズの規格統一は必要だと思うけれど。
しばらくしたら完成した試作台車が送られてきた。ブランシュ先生は
「アラン様のほぼマンガの通りのものができましたね。ここにネジも使われていますし。」
先生は台車をひっくり返して裏を見ながら言った。
「本当ですね、これなら大丈夫でしょう。」
と僕。使用人全員を呼んで皆に見せながら、
「ジョゼフ、屋敷で荷物を運ぶのにみんなで使ってみて。手直しをした方がいいところに気づいたら教えてよ。」
と台車を披露した。
「これは食料品運びが楽になりますね。」
と料理人兼メイド頭のマノンが、そして
「庭の手入れの道具をまとめて持っていくのに使いたいでさあ。」
とシルヴァンが言った。うん、屋敷で実用になるのなら売れるだろう。
台車が完成して喜んでいたが、この後思わぬところから邪魔が入るのだった。
あらら、どんな邪魔が入るのでしょうか。




