八話 「子供の教科書と初代魔王」
「『魔法を使ってみよう!・基礎編』……か……馬鹿にしているとしか思えんな……」
星の明かりに書物を照らし、表紙をじっくりと眺めてみる。
おちょくっているとしか思えないタイトルだが、今の魔王にとって確かに有用であることは間違いなかった。
(今では俺も稚児同然……か……)
魔王は、一ページ目を開く。
その内容は、この本に対する印象を完全に改めさせた。
(これは……)
そこには、簡略化され、それでもなお分かりやすく纏められた属性相性関係図が載せられていた。
(なるほど……八芒星のように記すことで相互相性を簡潔に纏めているのか……これを一ページ目に……これは期待できるかもしれんな)
目次を開くと、次のように書かれていた。
・1章 「魔法の面白さを知ろう!」
・2章 「色んな魔法を使ってみよう!」
・3章 「魔法はどんなふうに使われているのかな?」
・発展 「空気にも魔力がある!? 空気の魔力を使ってみよう!」
(『空気の魔力を使ってみよう』……?)
魔王は、『発展』の内容に目をつられた。
確かに、言われてみれば空気中の魔力を読んで、時代にアタリを付けたりもしていた。
だが、それを『使う』と、この書物は記している。
(最も気になるのはそこだが……まずは最初から学ばねばな……)
─────
・1章 「魔法の面白さを知ろう!」
(面白さ……か……俺は魔法をずっと面白いと思っているが……)
魔王は、次のページを開く。そして、知らない知識を探し求めた。
それは、直ぐに見つかった。
『魔法で出てきた〈火〉や〈水〉、〈光〉は、本物の火や水とは別のものだよ! 魔法で作った〈火〉や〈水〉は、魔力だけでしかできていないんだ!!』
(……つまり、魔法の〈火〉や〈水〉などは、『物質』とは違い、魔力のみで構成されている別物ということか……意識したことは無かったが、確かにな)
さらにページを進めるにつれ、1章だけでも多くの知見を得られた。
(……現代の家屋が燃えないのは、『魔力』で構成されたものに耐性を持っているからか……つまり、本物の『火』で燃やせば、焼ける。それは人間や魔物も同じだろう……)
『ちなみに、魔法の〈火〉が熱いのは、実際に温度が高いから! それでも、本物の火とは違うから、あまり燃え広がらないんだ! 魔法でできた〈水〉を飲んでも、水分で出来ていないから喉が渇くのと同じだね!』
(確かにな……)
─────
・2章 「色んな魔法を使ってみよう!」
(さて……次は実践的な内容になるのか……?)
魔王は期待しながら、ページをめくる。
『魔法を使うと言っても、イメージは難しいよね! だから、簡単に、魔法で何がやりたいかを、紙に書くイメージでやってみよう!』
(『紙に書く』……確かに、『術式』の効果を文字として捉え、それを書くイメージを身につけるのは、初歩としても重要……この書物を編集した人間はよく分かっているな……)
『紙をイメージして、そこに〈炎を出したい〉と書いて、発動! 魔力を込めれば、炎が出るね!』
魔王はそれを読み、指先からろうそくのように炎を灯す。
『今度は、紙に書くイメージで、魔法によって使う魔力の量、それに込める魔力の量について、解説していくよ!』
「『紙に書く』イメージで、魔力量と込める魔力について……か……」
魔王は、食い入るようにページをめくる。
『強い魔法は、紙に大きく書かないといけない。この文字の大きさが、必要な魔力の量だね。そして、文字をどのくらいの濃さで書くのか、それが、魔法に込める魔力のイメージになるよ!』
(……! なるほど……そう来たか……!)
魔王はその一文を読んで、現代魔法への理解を深めていた。
現代の魔法の多くは、『小さく、濃く』書かれた魔法なのではないかと。
だから、少ない魔力消費で強力な効果を発揮できる。
魔王は、灯した炎の術式の『文字』を、より小さく、そして、より濃く記すイメージに集中する。
すると、炎が小さく、より一点で煌めき出した。
(分かりやすいな……)
しかし、そのページを読んでいた魔王には一つ疑問があった。
(だが、コウとやらが使用していた雷の魔法……あれは本人の魔力量、もとい、『紙の大きさ』を優に超えていた……ただ濃く記すだけでは不可能な芸当……何故扱うことができたんだ……?)
─────
・3章 「魔法はどんなふうに使われているのかな?」
(これは現代魔法の進化を知る手掛かり……一つ残らず盗んでやろう)
魔王はページをめくる手を止めない。
そして、次の瞬間に目に入ったのは、今いる村とは大きくかけ離れた、美しい街並みだった。
(これは……)
『魔法は、王都で活発に使われているよ! 例えば───』
記されているのは、すべて、村では見られないような技術の髄を凝らせた魔法学の賜物。
そして、『空気の魔力』を利用したシステムにより、都が栄える光景。
(『王都』とやらとこの村では、大きな格差があるようだな……)
そして、手を止めずに進み続けた先、魔王はついに目的のページへとたどり着く。
(『空気の魔力を使う』……というのは、どういう事か……)
─────
・発展 「空気にも魔力がある!? 空気の魔力を使ってみよう!」
魔王は、もはや教科書の虜になっていた。
一文字も余すことの無いよう、極度の集中を向けている。
『2章では、紙に魔法を書くって言ったよね。でも、強い魔法や難しい魔法は、紙に収まらないかもしれない! じゃあ、どうしよう!』
(どうするんだ……?)
魔王は、勢いよく次のページをめくる。
そこに書かれていた内容は、魔王の認識を一変させた。
『紙に書ききれないなら、机に書いちゃおう! ってことで、空気中にふわふわ浮かんでいる魔力! これを使って、魔法を書くんだ!』
(そういう事か……!!)
魔王は早速、空気中に散らばる魔力へと意識を向ける。
しかし、魔力を込める先が中々定まらない。
(……やはり一朝一夕で出来るものではないか……だが、これはかなり有益……! おそらくコウとやらもこの技術を利用し、強大な雷の魔法や障壁貫通の術式を実現していたのだろう……!)
「ククク……ハハハハハハ……!!」
魔王は、空の先の明けかけた太陽に向け、不気味な笑みを見せつける。
「これだから魔法は、人間は面白い……!!」




