七話 「学びへの欲望」
千年後の食べ物の圧倒的な進化。
魔王が復活してから最も驚いたのは、これだった。
味わい深く、それでいて食べやすい。どれも最高級の逸品だと感じた。
初めて見たときは貧相な村だと感じていたが、並んだ食卓は千年前に魔王城で口にしていたものに見劣りしないほどに素晴らしかった。
魔王は、率直な疑問を村長にぶつける。
「……何故これほどに美味い……?」
村長の皿洗いをする手が止まった。
そして、嬉しさを隠そうともせずにっこりと笑った。
「じゃあ、付いてくるかい?」
ザンは皿洗いをコウとソラに頼むと、魔王を連れて家を出る。
家を出ると、村の人々は好奇と恐怖を交えた目で、魔王を見る。
「魔物の件は村の人達には話してあるから、堂々としてて良いよ」
「もとより隠すつもりもない」
「ははは……らしいね」
しばらくザンに付いていくと、広い畑へと出る。
「今日のご飯は、ここで採れた野菜を使ってるんだ」
魔王は、畑を眺めると、ゆっくりとしゃがみ、土に触れた。
「良い土壌だな」
「あぁ。質のいい大地の魔力がとけているんだ。……でも、それだけじゃない」
ザンも魔王の横にしゃがみ、野菜へと視線を落とした。
「こうやって、毎日愛情を込めて、野菜に語りかけるんだ。『美味しくなれ』って」
「……それで美味くなるのか?」
「実際に食べただろう?」
「………………」
魔王は少し考えたあと、葉を掴んで野菜に顔を近づけ、睨めつけた。
(美味くなれ美味くなれ……これは命令だ……さもなくば…………)
「そういう感じじゃないと思うけどね……でも、よければ一緒に育てるかい?」
魔王は、村長へと視線を戻す。
そして、ニヤリと笑った。
「そうさせてもらおう」
ザンは、この魔物に対する印象が固まってきていた。
予想通り、子供のような好奇心旺盛さを持っているのと同時に、時折成熟した大人のような行動を見せる。
だからこそ、
(この魔物とは…………分かり合えるかもしれない)
ザンの提案に答えた魔王は、心の中でほくそ笑んでいた。
(農耕にもおそらく、現代の魔法を使用しているはずだ……根こそぎ学んでやろう……)
─────
「それじゃあ、エヴァルシオン君はしばらく、ソラとコウと一緒の部屋で寝泊まりしてもらう」
「えっ……」
「ええっ!!」
その言葉に、最も大きな反応を示したのは、ソラだった。
「本当に!? いいの!?」
ソラは最初こそ魔王に少し怯えてはいたが、今ではそれを遥かに好奇心が上回っているようだ。
「俺はお前らと共にするなどとは言ってな……」
「お布団二つしかないから、エーちゃんが一つ使っていいよ! 私はお兄ちゃんと一緒に寝るから!」
「……物分かりが良いじゃないか」
しかし、それを良く思わない者もいた。
コウは、ザンへと近寄り、耳打ちする。
「……どうしてですか……?」
ザンは真剣な表情で答える。
「やっぱり、魔物にはソラとの交流が最も効果的なんじゃないかと思うんだ。それに、もし魔物が暴れても、コウなら対処出来るだろう?」
コウは、躊躇いがちに続けた。
「……でも、俺はソラとあの魔物を一緒にするのは……怖いです」
それに、ザンも応える。
「私も正直、怖いところはある。でも、私はあの魔物と、ソラに賭けてみたいんだ。人間と魔物は、共に生きられるのかを」
コウは、ザンの言葉の意図を汲み取った。
そして、静かに答えた。
「…………怪しい動きをしたら、俺はあの魔物を殺す覚悟はできていますから」
「………………ありがとう」
─────
「……………………」
村中が眠りにつく深夜に、魔王は起きていた。
二人を起こさないよう布団から出て、一冊の書物を手に取る。
それは、『子供向けの魔導書』
要するに、魔法の教科書と言ったところだ。
(稚児向けの書物も、今の俺には有用か)
そして、窓から出ると、屋根の上に腰掛ける。
空には眩い星が散らばっている。
そして、本のページを開いた。




