三話 「魔王VSゴブリン」
(たった千年の間に、単純な魔力量ですら俺を大きく上回るようになるとはな……)
「そうでなくては、遊び甲斐が無い……面白いものを見せてくれよ?」
魔王は舌をべろりと出し、そこに口を浮かび上がらせる事で、二重詠唱を可能とする。
「ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙……!!」
ゴブリンは棍棒を構え、大きく振り抜く。
その瞬間、棍棒から巨大な竜巻が巻き起こされ、魔王へと牙を剥く。
(『二重詠唱』✕『二重障壁』)
魔王は『四重』に張った魔法障壁で回避までの時間を稼ぐも、簡単に打ち砕かれる。
(凄まじい威力……大振りで分散してなおこれか……)
「俺も本気で返してやる。光栄に思えよ……!」
魔王が片手を振り上げると、黒い炎が燃え盛る槍が現れる。
「『撃臨』」
魔王はそれをゴブリン目掛け投擲する。
「ゥ゙ゥ゙……!!」
ゴブリンは魔王の攻撃を見切り、棍棒で弾こうと振り抜く。
しかし魔王の『撃臨』は着弾の直前で軌道を大きく逸らし、ゴブリンの後頭部へと直撃した。
「ゥ゙ゥ゙……」
ゴブリンは少し仰け反るも、直ぐに魔王へと向き直る。
(急所に直撃してなおノーダメージか……やはり身を守る魔力の量が桁違いだな)
「ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙!!」
ゴブリンは魔王目掛けて突撃する。
魔王は直ぐに魔法を放ち応戦するも、もはや目眩まし程度の効果しか感じられない。
(俺の魔法ではもはや破れんか……ならばこうするとしよう)
魔王は魔法を村の結界へと放った。
結界に触れた魔法は弾け、消滅する。
その時、村の結界が反応した。
結界に組み込まれた、『外敵をオートで迎撃する魔法』。
爆発的な魔力が集中しているのは、ゴブリンも魔王も気づいていた。
ゴブリンが気を取られた一瞬の隙を突き、魔王は姿を眩ませる。
そして、背後へと回り込んだ。
「『暗鎖』」
「ゥ゙ォ゙ッ?」
魔王が行使したのは、拘束魔法。
現時代の魔物にとっては、些細な時間稼ぎにしかならない。
しかし魔王は気づいていた。
現代の適正化された魔法ならば、その一瞬さえあれば十分であると。
村の結界から、凄まじい魔力の砲弾が撃ち出される。
「ゥ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ッ!!!!」
場にゴブリンの断末魔が響く。
しかし、魔王は一瞬たりとも油断していなかった。
(この程度でコイツが死ぬわけがない)
その予感は的中し、土煙の中から突撃してくる影が見える。
「ッ……」
「ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ッ!!」
ゴブリンは莫大な魔力で突風を起こし、魔王を攻撃する。
魔王は宙を舞い回避に専念することで、ゴブリンの魔法の合間を縫っていく。
「フン……!」
さらに、定期的に結界へと攻撃を撃ち込む事でオートカウンターを作動させ、ゴブリンを巻き込んでいく。
「ゥ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙!!!」
ゴブリンは、自分より遥かに弱い生物にちょこまかと攻撃を躱され、さらにオートカウンターにより蓄積していくダメージのストレスにさらされ続けていた。
(結界のオートカウンターだけでは倒し切れない。そんな事は百も承知だ……だが、そろそろ頃合いじゃないか?)
魔王は突然、ゴブリンの目の前で立ち止まった。
「玩具にして悪かったな。純粋な魔力勝負といこう」
「ゥ゙ゥ゙……!!!」
ゴブリンはここぞとばかりに魔力を放出し、暴風の弾を創り出していく。
魔王は黒い炎を纏う槍を生み出し、互いに向き合う。
そして、両者の魔法が同時に撃ち出された。
魔王の攻撃はゴブリンの暴風に飲まれ、音すら立てずに消滅する。
それを見て、魔王はふっと笑った。
(馬鹿正直に撃ってくれたな)
魔王は目の前に魔法陣を展開する。
それは、『相手の魔法を威力関係なく反射する』無敵の布陣。
しかし、魔王はそれでもなお慢心しなかった。
直ぐに暴風の直線上から離れ、範囲外へと飛び出す。
それは、正解だった。
暴風は『反射する魔法陣』すら貫通し、遠くの森の木々を荒らしながら突き進んでいった。
(やはりか……当然、『無敵』が対策されない道理は無いが。……『反射』そのものを貫通する術式か……さて、いよいよ出せる手札は無くなってきたワケだが……)
「どう殺してやろうか……?」
「ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙……!!」
ゴブリンのストレスは、もはや限界値へと達していた。
ようやくありつけるはずだった、少女。そして、それを焦らされている事実。
「ォ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ッ!!」
ゴブリンは魔王を無視し、一目散に少女へと駆け出す。
「ヒィッ……!!」
しかし、それを魔王が赦すはずがなかった。
「『滅獄掌』」
「ゥ゙ゥ゙ッ!」
魔王はゴブリンの顎先へと拳をクリーンヒットさせる。
よろけて後ずさるゴブリンに、魔王は軽蔑した笑みを向けた。
「お前は俺の提案を断ったんだ。肉片一つ分けてやるはずが無いだろう」
「……ゥ゙、ゥ゙、ゥ゙ォ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ッ!!!」
魔王が言い終わる前に、ゴブリンは特大の暴風を放った。
その射線には、少女もいた。
「いやぁぁぁっ!!!」
少女の断末魔が響く中、魔王は魔法障壁を張る。
もちろん、少女を守るためではない、回避の時間稼ぎをするためだ。
(獲物を巻き込むとは愚かな……ガキが死ぬのは癪だが、解体ける分、煽りには使いやすくなるな……)
魔王は暴風を回避するも、少女はおそらく、モロに食らった。
魔王は一応、少女の方を見た。
しかし、そこには誰も居なかった。
「う、うわぁぁぁぁっ!!!」
少女の耳障りな泣き声が、魔王の鼓膜をつんざく。
(まさか……生きているのか……? 現代人の魔法耐性は、あれすらも……?)
驚き振り返った先には、少女を抱える男が立っていた。
その手には、木刀が硬く握り締められている。
「お前は……!」
「そんちょうさぁぁぁん!!!」
少女は男に顔をこすりつけながら、泣き腫らしている。
男……『村長』は、少女を厳しい目つきで叱った。
「結界の外には出てはいけないと、いつも言っているだろう……!!」
「ごめんなさぁぁっ!!」
「……はぁ……」
村長は少女を見て小さくため息をつくと、ゴブリンと魔王に木刀を向けた。
「うちの村の子を傷つけたんだ……まとめて森に返ってもらうぞ」




