表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
27/28

二十七話 「終わりと始まり」


 魔王は、ジンから受け取った『魔導書』と、ノートを広げ、屋根の上に寝転がる。


 それに記されていたのは、かつてには無かった魔術、技法、カラクリ、概念の数々。


「ハハッ……」


 千年後に復活した魔王は、ついに千年分の知識を得るに至った。


─────


 一ヶ月が経った。

 日を増すごとに、騎士や冒険者たちの緊張が高まり、『人魔戦争』が現実味を帯びてきているのが、人々の空気を感じて伝わってくる。


 あの日から、ジンが村にまた来ることはなかった。

 しかし、ジンは去り際に、村に結界を張っていた。


 魔王が村にいることは、密告によりバレている。

 だからこそ、魔王が狙われないよう、匿っていた。


 だが、王都の騎士や冒険者は来たる『人魔戦争』に気を取られ、もはや魔王を襲撃する余裕など無かった。


 

 コウは、ジンの手により村へと帰されていた。

 魔王を匿っている村の住人とバレている以上、過激化した騎士たちに、何をされるか分からない。

 それを見越して、コウも匿われている状態だ。



 コウは、屋根の上で魔導書を読む魔王へと話しかけた。


「なぁ、エヴァルシオン……今いいか?」


 魔王は、コウへと目を向けることなく、魔導書を真剣に読み続けている。


「なんだ……?」


「……本当に、人間と魔族は戦争になるのか……?」


「そうらしいな」


 コウは、魔王を見上げながら、静かに続ける。


「止められるのか……? ……俺にできることは……無いのか……?」


「知らん。自分で考えろ」


「……そう……だな……」



 辺境の村で生まれた。

 無理を言って、魔法を学んで、冒険者になった。


 魔族との共存なんて、夢のまた夢。

 あったのは、血生臭い『本能』との邂逅かいこう

 戦争に向かうのは、当然の定め。


 でも、それを止められるかもしれない。

 止めようとしている奴がいる。


 本気で共存を目指し続けたジンさん。

 魔物を止めるために、知恵と力をつけ続けているエヴァルシオン。



「っ……」


 エヴァルシオン(アイツ)が読んでいる本を、俺が読む資格はない。



「そうだ、コウ。覚えているか?」


 魔王は、魔導書を置き、コウへと語りかける。


「『お前は俺が最初に殺す人間だ』……とな。『共存』なんてものが出来てしまったら、俺はお前を殺せなくなってしまう……」


 魔王は、ゆっくりと屋根の上から飛び降り、禍々しい魔力を放出した。


「今、殺しておくとするか……?」


「っ……!!」



 エヴァルシオンは、ザンと試合をしたと聞いた。


 だが、それと自身に挑んだのは、理由が違うと分かった。

 あくまで、魔導書の魔法の『試し台』として利用しようとしている。



 それを察して、コウは笑った。


「エヴァルシオン……まさか、そんな本一冊読んだ程度で、本気で勝てると思ってんのか……?」


「…………」


「ずっと楽しみにしてたんだぜ、お前が俺に挑んでくるのをさ……なのに、そんな本にばっか気ぃ取られやがって……」


 コウの周囲に、紫電の雷鳴が轟く。


「俺はここに居る」



 勝負は、ほんの刹那の出来事だった。


 「パチッ」というプラズマ音と共に、コウの姿が消える。

 コウはまるで自身が一本の雷の槍のように、魔王を貫かんと突撃する。


 かつて、魔王を一瞬にして破壊したその一撃を、今の魔王は完全に捉えていた。


 今まで無理やり再現していた『思考加速』の適正化。

 それにより生じた、かつてとは比にならないほどの『倍速認識』。


「っ……!!」


 魔王はコウの一撃を回避し、魔力を溜めていく。


 それは、ようやく掴みかけていた『空気中の魔力を利用する技術』。

 魔王の右腕に、黒い雷が集約されていく。



 しかし、コウは『純粋なスピード』で魔王を上回っていた。

 魔王の振りかぶった拳に合わせ、蹴りを打ち込む。



「グッ……!!」


「っ……ハハッ……」


 二人は同時に吹き飛び、砂を散らす。

 そして、距離をとって互いに見合う。


「どうだ、殺せそうか?」


「……どうだろうな」


「まだ付き合ってやってもいいぜ」


「いい。村が保たん」


「……確かに」



 二人は、同時に魔法を解除した。

 その瞬間だった。


「がっ……!?」


 コウの背中に、魔力の槍が突き刺さる。

 それを見て、魔王は嘲笑った。


「魔王に隙を晒せば、そうなるのは当然だ」


「てめぇ……」


(大して痛くない……耐性貫通の術式は使っていない……か……にしても……)


「卑怯なマネしやがって……」


「はっ……リベンジは明日、受け付けてやる」


「………………」


─────


 次の日から、魔王とコウは静かに、そして着実にしのぎを削りあった。


 魔物が畑の水やりをして、コウと戦い、屋根の上で魔導書を読み、ソラに魔法を教える。


 そんな光景は、もはや村人たちも慣れてきていた。


 水やりを手伝えば、「要らん」と断りはするが、止めようとはしない。

 育てた野菜を食べさせれば、素直に「美味い」と言う。


 エヴァルシオンは村にとけ込み始めていた。


 本人も、それを自覚しながらも、もはや否定するのも面倒といった様子で、日々を送っていた。


─────


 そんな日常も、やがて、終わる。

 ジンと話してから丸二ヶ月経ったころ、再度ジンが村に訪れた。



「人魔戦争が始まる」


 コウ、ザン、ジン、そしてエヴァルシオンの四人は、机を囲む。

 ジンが口にした言葉は、衝撃的だった。


「人間側……騎士団が魔族に、大々的に宣戦布告を行った。決行は一ヶ月後だそうだ」


 コウがジンへと聞く。


「でも、一ヶ月って言ったって、魔族側から先に来る可能性もあるんじゃ……?」


 ジンは、落ち着いた口調で答える。


「多分、無い。……これから始まるのは、歴史に残る『人魔戦争』なんだ。単純に『勝つ』『負ける』だけが重要じゃない。フライングして先手を打ったとしても、それは向こう千年以上、魔族のメンツに関わる行為になりかねない」


「……なるほど……」



 ジンはまた、エヴァルシオンを真剣な眼差しで見据えた。


「本当に、頼んだよ」


 エヴァルシオンは、ふっと鼻で笑って見せた。


「俺を誰だと思っている?」


─────


 本格的な宣戦布告を受け取った魔族側もまた、空気が張り詰めていた。

 もはや、戦争を避けることができないと、誰もが察していた。


 一人を除いて。


(もしかしたらまだ……宣戦布告の取り消しがあるかもしれない……! 何もこんな事……しなくたって……!)


 現魔王は、未だに現実を受け入れられない様子だった。


 それでも、もはや避けられない。

 『決戦の日』へのカウントダウンは、刻一刻と進んでいく。


─────


 そして、一ヶ月後、ついに『決戦の日』が訪れた。



 屈強な魔族の猛者たちが、開戦に備え、隊列を成している。


 その先頭に立っているのは、現魔王。

 黒い鎧を身にまとい、顔が見えないような兜を深く被っている。


 側近の老人は、現魔王へと語りかける。


「人間を滅ぼす覚悟は……決まりましたか……?」


 現魔王は、兜の奥で言葉をくぐもらせながら、震える声で答える。


「……はい。もう、戻れません……!」


 その言葉に、側近は静かに頷いた。



 ───開戦の時刻まで、あと一時間。



「っ……!?」


 その時、場の全員が感じ取ったのは、軍勢にゆっくりと向かい来る、小さな魔力の一雫。

 あまりにもドス黒く、そして、雄大な気配。


 やがて、それは目の前に姿を現した。


「お前が現魔王か……随分と『着飾って』いるんだな……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ