二十五話 「教えることで教わったモノ」
「はぁぁっ……!!」
「フン……!!」
最後にかち合った木刀と槍が、両方とも真っ二つに折れる。
それが、二人の決闘の終わりだった。
二人は同時にその場に崩れ、肩で息をする。
歓声とそれに伴う熱気が、未だ場に色濃く残っていた。
「はぁ……はぁ……できれば……五体満足な君と戦りたかったよ……」
「魔王にここまで食らいついて見せたんだ……誇れ」
「ハハッ……」
「フハハハハッ……」
─────
ザンは回復ポーションでダメージを回復し、魔王は再生を用いて回復を行う。
魔王は再生阻害や禁術を利用した影響で、手足が欠損したまま、魔力を型を作っている状態だ。
魔王は、日課のソラに魔法を教えている。
頬杖をつきながら、二人は教科書を眺める。
(再生阻害……おそらく魂に傷をつけられているな……魂を回復させる魔法は存在しているのか……? 仮に存在するならば、『禁術』のノーデメリット化も可能だが……再生を当てにした禁術など、威力が落ちるのは目に見えているな……)
「……どうしたの? ぼーっとして」
ソラが魔王の方を見て聞く。
「……お前にはまだ分からん事だ」
「えー……」
ソラは教科書に向き直り、ペンを握る。
そして直ぐに、魔王へと振り返った。
「……すごかったよ、村長さんとの試合。どっちもかっこよかった。……応援、聞こえた?」
魔王は、ノートに何かを書き込みながら答える。
「そうだな」
「嬉しかった?」
「馬鹿を言え」
「む〜……」
怒ったように頬を膨らませているソラに、魔王はこう続けた。
「が、中々面白かったぞ」
それを聞いて、ソラはぱっと明るい表情になった。
「やっぱり、村長さんは最強でしょ!?」
「…………そうかもな。俺と戦り合えるんだ」
「エーちゃんも最強ってこと?」
魔王は、ソラの無邪気な問いを鼻で笑った。
「当然だ。俺を誰だと思っている」
ソラは、魔王の凄むような表情を見て、ぷっと笑った。
「優しい魔物さん」
「……優しく無い」
「優しい!」
「優しく無い」
「優しいよ!」
「黙れ」
「……優しいもん……」
半泣きで訴えるソラを見て、魔王は小さくため息をついた。
「……ほら、続きだ。丁寧に教えてやるから、一言も聞き逃すなよ」
「優しいもん……」
魔王は「まだ言うか」と言わんばかりに顔を顰めると、天井を見上げ、またため息をついた。
「……分かった。そう思うならそれでいい」
「……うん」
「ほら、続きだぞ。『ソラ』」
それを聞くと、ソラは大きく頷いて、笑った。
「……うんっ……!」
突然笑顔になったソラに、魔王は聞く。
「……どうした」
ソラは魔王の方を向いて、大きな笑顔を向けて見せた。
「だってエーちゃん、初めて私の事、名前で呼んでくれたよね」
「…………そうか」
─────
勇者ジンの『勇者剥奪』は、王都から遠く離れた辺境の村にも、数日と経たずに広まった。
村に配られたその記事を見て、ザンは固まった。
(……ジン君の元のこの国だったから、魔物との大戦に発展することはなかった……つまり、これから本格的な『魔物狩り』が始まるかもしれない……!)
「エヴァルシオン君……これ……!」
ザンは、その記事を屋根の上でノートを読む魔王へと見せる。
「…………」
魔王は直ぐに屋根から飛び降り、その記事を見る。
「……勇者剥奪…………今の時代はそんなにコロコロ変えられるものなのか……?」
魔王のその疑問に、ザンは震える声で答える。
「ジン君は勇者の中でも異端だった……人魔共存を本気で目指すその姿を、目障りに思う人も少なく無かったんだろう……」
「……つまり?」
「……今みたいな、なぁなぁで続いている『冷戦』状態を、終わらせに来るかもしれない……!」
「『かもしれない』っていうか、ほぼ確かもしれませんね」
突然聞こえたその声に、ザンは振り返る。
そこには、件の人物であるジンがいた。
(瞬間移動か……どのような術式で成立させているんだ……?)
ジンに対して、魔王は静かに分析する。
ジンは、ニコニコしながら二人に手を振った。
「まさかこんなに早く再開することになるとは思わなかったよエヴァルシオン」
「『剥奪』されたのに、随分余裕そうじゃないか? ジン」
ジンは、頭をポリポリと掻きながら、笑みを崩さなかった。
しかし、その目が笑っていない事には、二人も気づいていた。
「勇者剥奪? 勝手に言ってろよ。僕はまだまだ『勇者』やるつもりだからね」
「フハハッ……!」
そう言い切るジンに、魔王は吹き出した。
「お前、やはり面白いな……!」
「だろう?」
ジンと魔王は互いに笑い合う。
先に切り出したのは、ジンだった。
「それで、今日も僕の話を聞いてくれるかな」
「……対価は?」
『話を聞く対価』それを傲慢にも求める魔王を、ジンは指差した。
「そうだなぁ……その『魂の傷』、肉体の欠損もろとも治す。これでどうかな?」
「……乗った」
「ありがとう。……ザンさん、またお家に上がってもよろしいでしょうか?」
「あ、あぁ。もちろん」
「何度もありがとうございます。お邪魔します」
─────
ザンの家の机を、三人は囲む。
ジンは、静かなトーンで魔王を見据える。
「エヴァルシオン。今日は頼みがあって来た」
「言ってみろ」
ジンの周りをまとう空気が、一段と張り詰める。
「……やがて起こる『人魔戦争』の戦場。『初代魔王・エヴァルシオン』に、魔族の侵攻を止めてほしい」




