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二十四話 「どっちも頑張れ」


「俺の相手をしろ。ザン」


 魔王は、冷たいトーンでそう言い放った。

 ザンの木刀に込められる力が、強まっていく。


「ルールは『互いに殺さない・過度な後遺症は残さない』で良いかな?」


「構わん」


 それを聞くと、ザンは木刀を構え、にやりと笑った。

 木刀から、神々しい魔力が溢れ出していく。


(最初は信じられなかったが……今考えれば、私は『初代魔王』と一対一で刃を交えていたんだな……)


「私は、随分と幸運だ」


「……ようやく理解できたか」



 ザンと、魔王は同時に踏み込み、一気に距離を詰める。

 木刀と槍が、大きな炸裂音を立てかち合った。



 二人の表情かおは、笑っていた。

 ザンは最初、魔王の事を『純粋な子供』と表現していた。

 今、目を輝かせているのは、魔王だけではなかった。



 二人の刃がカチ合い、互いに吹き飛ばされる。

 ザンは直ぐに構え直し、魔王へと木刀を振りかざす。


(『上位魔法障壁』……!)


 魔王は、目の前に虹色に光る魔法障壁を展開する。

 そして、ザンの背後に『槍』を生み出す。


(エヴァルシオン君が編み出した魔法か……! だが……)


 ザンは展開された魔法障壁を蹴り上げ、空中でバックフリップをすることで、向かい来る槍を回避する。


(やはり、この男は常人ではない……魔力量こそ俺と大差は無いが、やはり実力者だな……)



「ハッ……!」


(年甲斐も無く、『喧嘩』が楽しいだなんて、なんて私は血の気の多いジジイなんだろうな……)


 魔王は、ザンが着地した時の一瞬のスキを狙って、拳を振りかぶる。


(『滅獄掌メゴノテ』……!)



 その瞬間、ザンが使用したのは、『スタン』

 魔王の脳へと干渉し、思考を停止させる魔法。


(『スタン』は既に看破済だ……!)


 魔王は既に自身にスタンを付与し半端に守ることで再現する『思考加速』を再現するに至っていた。


 魔王に、『スタン』は通用しない。



(それは織り込み済み……!!)


 しかし、ザンも当然無策ではなかった。

 既に魔王がスタンを看破していることなど、百の承知。


 ザンの狙いは、『思考加速の解除』だった。

 スタンから脳を防ぐ、それすなわち、思考加速を再現するための半端な防御を強めてしまう事に繋がる。



 その時、ザンの思考が、一瞬だけ途切れた。


「っ……ガハッ……!?」


 ザンが木刀を振ろうと構えたときには、既に魔王の拳が腹に直撃していた。

 『時間が飛ばされたような感覚』。


(『スタン』……!!)



 ザンは大きく吹き飛ぶも、大したダメージは負っていなかった。


(……『魔法耐性を貫通する術式』は……使用していなかったか……が、まさかエヴァルシオン君がスタンをかけてくるとは……油断してしまったな)


 ザンは立ち上がり、木刀を構える。

 そこに、魔王がゆっくりと姿を現す。


「どうした? ザン……まだまだだろう?」


 魔王の挑発に、ザンは悔しそうに笑ってみせた。


「あぁ、来なさい。エヴァルシオン君……!」


─────


 『国家魔法騎士教会・本部』


 そこに、一人の男が立たされていた。

 確約された平和の勇者カンフィデンス・ピース・ジン。


(ネタが割れてから裁判が開かれるまでが早すぎるだろ……主要な上位層の連中しか居ないみたいだけど、これ、前々から準備してたりする……?)



 壇の上で、長いひげの男が、やけに響く声で話し出す。


「ジン、貴様はこれで何度目だ……? 魔物を適切に『処理』しないと言うだけで迷惑千万なのだ……だが、ついには『魔物と取引をした』だと……!?」


 その言葉に、周りの壇の上に立つ者たちもぶつぶつと話し出す。


「勇者といえど、出身は下民に過ぎん……」

「魔物と共存などと言うイカれた思想を広めおって……」

「勇者の地位を剥奪するべきだ……! 裏切り者が……!」


 ジンは、目元を手で擦った後、ひげの男を見上げる。


「ハリボテの『勇者』の肩書きは、僕にはもう必要ない。剥奪したいなら勝手にしてくれ。……でも、『逮捕』とか『処刑』とか言い出すなら、こっちにも手はある」


 その時、壇の上に立つツォルンが、手を挙げた。


「ならば、勇者の地位を私に明け渡せ。必ず魔族を根絶やしにして、『真の平和』というモノを貴様に見せてやる」


「いいよ。じゃあそれで」


「何……!?」


 あまりにもあっさりとした受け答えに、ツォルンは訝しむような目をジンに向ける。


「勇者の地位はツォルン君に譲るよ。それでいい?」


「……貴様……!!」


 ツォルンは壇上から飛び降り、ジンへと詰め寄る。

 そして、胸ぐらを掴み上げた。


「……本当に……最低だ。貴様は……!」


「『勇者の地位』なんてモノは、もう世界に要らない段階まで来てるんだよ。……それはツォルン君だって例外じゃあ無い」


「何だと……!?」


「いずれ、分かると思うよ。ただ……」


 ジンは、光の無い目でツォルンを見つめ返した。


「その時は、多分同じ方を向いて戦ってはいないだろうね。『勝利の化身(ザ・ビクトル)』・ツォルン君」


「っ……!」


 ツォルンは、ジンの胸ぐらから手を離す。

 ジンは、笑顔で『ピースサイン』をした。


「それじゃ、そっちも急ピッチで開いてくれてありがとうね。でも、こっちも急ぎの用ができちゃったから」


「チッ……そんなもの……!」


 ツォルンが『魔法を発動』しようとしたときには、既にジンの姿はそこには無かった。


「……ジン…………!!」



 その時、壇上から声が響く。


「ツォルンよ。貴様を今、新たな『勇者』として認める」


「っ……」


「人間の平和のために、その素晴らしい力を尽くしてくれ給え」


 ツォルンは、両腕を前で組み、壇上へとひれ伏した。


「はっ……私ツォルンは、これより『勇者』として、世に真の平和をもたらす事を誓います」


─────


 ザンと魔王の二人が鍔迫り合う轟音は、村十に轟いた。


 村人たちは、最初は村長ザンが襲われているのかと思った。

 しかし、それは違った。


 二人は、本当に楽しそうな、それでいて、無邪気な表情を浮かべていたからだ。

 もはや、二人の『熱』を冷ますことなど、誰も考えなかった。



「まだ、終わりじゃないぞ……!?」


「あぁ……来てみろ……!!」



 魔物と人間が、火花を散らし合い、互いに一歩も引かず、互角の展開を見せる。

 その光景は、村人たちにあるモノを想像させた。

 伝説の、『魔王と勇者の決戦』。


 もちろん、実物を見たことがあるわけではない。

 だが、今の二人にはそれを錯覚させるほどの世界からの『疎外感』。

 そして、『圧巻』があった。



 その戦闘を、ソラも観ていた。

 ソラは、直ぐに理解した。これは本気の殺し合いなどではない。ただ『戯れ合っている』だけなんだと。


 だからこそ、自然とこの言葉が出てきた。


「村長さ〜ん!! 頑張って〜!」



 その言葉を聞いて、ザンはソラをちらりと見ると、嬉しそうに笑ってみせた。

 そして、魔王へと渾身の一撃を叩き込む。


「っ……!!」



「うぉぉ……!!」

「村長、本気だ……!」

「あの人は前、騎士目指してたからな……実力は本物だよ……!」

「頑張れ〜!」「頑張れ! 勝ってくれ〜!!」


 村人たちのザンへの鼓舞が、次第に大きくなっていく。

 それを見て、ソラはまた叫んだ。


「エーちゃんも頑張れ〜!!」



 その言葉に、魔王は少しも反応しなかった。

 しかし、村人たちは『エーちゃん』が誰を示しているのか、察知した。


 一人の村人がつぶやいた。


「魔物も……頑張れ…………どっちも頑張れ!!」


 一瞬、場が静まり返った。

 それでも、直ぐに熱狂が取り戻された。


「そうだ!! どっちも引いて無いぞ!」

「やれ〜! 村長〜!! 意地見せてくれ〜!!」

「頑張れ魔物〜!!」



 この状況に、魔王は心のなかで呟いた。


(見世物ではない……が……)


 ──悪くはない。

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