二十三話 「それぞれが示された道」
「よぉ、ルシウス」
「……シトリー…………」
ルシウスの棲む城の空間が歪み、中からシトリーがゆっくりと歩み寄る。
シトリーはルシウスに懐疑的な目を向けた。
「……何があった」
「……何の話ですか?」
「初代魔王と話して、何があったかって聞いてんだ」
ルシウスは、真っ赤なワインを薫わせると、一口含み、少しずつ流していく。
その間を待ちきれず、シトリーはルシウスへと詰め寄った。
「いつからあの魔王につくようになったんだよ。お前」
ルシウスは、物凄い剣幕を叩き込むシトリーに、薄ら笑いを浮かべてみせた。
「……何だよ」
「『王』は、存在していましたよ。シトリー」
「……は……?」
何を言ってるんだと言わんばかりに、シトリーは両手を大きく広げる。
ルシウスは唖然とするシトリーを無視し、再度ワインへと目を向けた。
「現魔王の『共存』論も、聞いてみれば中々笑えましたよ? 『人間と魔族で協力した方が、双方のメリットが大きい』らしいです」
「いや、そんな話をしてるんじゃ……」
「『人間を食べる必要もありません』とも言っていましたね。人間と魔族で協力して食物を栽培すれば解決するんだと」
「だからさぁ……!」
延々と語るルシウスに、シトリーはついに噛みついた。
「いつから、なんで、現魔王に従うようになったんだよお前……!」
ルシウスは、ワインを飲み干すと、指をパチンと鳴らした。
すると、グラスの中にワインが注がれている。
それを手に取り、グラスを傾け、ワインを眺める。
そして、その視線をシトリーへと移した。
「気が変わっただけです」
「はぁ……!?」
グラスを置く音が、静まり返った部屋に響く。
「それと、現魔王に従っているわけではありません。ただ……権力があの側近のジジイに渡るのを抑止しているんですよ」
「何……?」
「あのジジイが現魔王を『利用』しようとしているのは、お分かりでしょう? 先に手を打っておいて損は無いです」
「今さらになってかよ……?」
疑いの目を止めないシトリーを、ルシウスは鼻で笑った。
「人間が滅ぼされるのは、少し都合が悪いでしょう?」
「……本気で『人魔戦争』やる気かよ、あのジジイ……」
「……分かったならば、今日は帰ってください。貴重なリラックスタイムなので」
シトリーは小さく舌打ちをすると、空間をこじ開け、その歪みの中に消えていった。
シトリーが去った後、ルシウスは大きくため息をついた。
(エヴァルシオンは一体何を考えている……人魔共存……そんなもの、今さら不可能だ……)
─────
ジンは、エヴァルシオンとの会談を終えた後、王都へと帰っていく。
しかし、王都に着くという時、一人の男が立ちはだかった。
「ジン……貴様、魔物と手を組もうとしているらしいな」
白く派手な軍服に、長い白髪。
そして、腰に据えられた剣。
「『ツォルン』……久しぶり……かな?」
ツォルンは、ジンに向けて剣を抜き、鋭利な先端を目の前に向けた。
刃先を、ジンは臆することなく見据える。
「…………密告があった。教会まで来い」
「密告一つで確定できる案件じゃ無いはずだよね?」
「うるさい、黙ってついて来い。ここで切り捨てられたいのか……?」
「チェッ……」
ジンは両手を挙げ、ツォルンの刃が下げられるのを待つ。
ツォルンはやがて剣を納めると、ジンに背を向けた。
「ついて来い。逃げようだなどと思うなよ」
「分かってるよ。ツォルン」
─────
「じゃあ、俺も王都に戻らないといけないからさ……! あんまり居られなくてごめん」
ジンが村から出た後、コウも村を後にする。
「お兄ちゃん、もう行っちゃうの?」
「まぁ、また一ヶ月くらいしたら帰ってくるから。じゃあね」
「いってらっしゃーい」
互いに手を振り合うコウとソラを、ザンは微笑ましい表情で眺める。
魔王は、その様子を静かに眺めていた。
「ザン。少し来い」
「え、いいけど、どうしたんだい?」
ザンは魔王につられるがまま、付いていく。
そして、村の倉庫へとたどり着いた。
「……?」
魔王は倉庫の中に入ると、『木刀』を一本手に取って戻ってくる。
そして、ザンへと投げ渡した。
「これは……?」
木刀を受け取り呆然とするザン。
魔王は、『黒い炎の槍』を創り出し、ザンへと見せつけた。
「前に『相手をする』と言っていたよな? 久々に、俺の相手をしろ。ザン」
「……!!」
ザンは、堅く木刀を握り締めた。




