二十二話 「愚かな勇者」
『確約された平和の勇者』ジン
それが、『人間は二人、魔物は一人殺した』と告白した。
それを聞いた魔王はニヤリと嗤った。
「汚れた手で今更何を言うんだ、お前は」
ジンは、臆することなく魔王から目を逸らさない。
「あぁ、汚した。汚したからこそ、僕はもう本当の『共存』以外は見えない。終わらせたいんだ」
「……イかれてるのか。お前」
「……否定はしない」
「どういうことですか……ジンさん……!!」
コウは、勢いよく扉を開け、ジンへと懐疑の目を向ける。
ジンは、コウを一瞥すると、軽く目を瞑って俯いた。
「自分語りは聞きたくない性分かな……?」
魔王は、目の前の男に対して抱いていた『甘さ』は、もはや感じなかった。
あまりにも重たい雰囲気に、魔王も口を開く。
「……言ってみろ」
ジンは大きく、ゆっくりと深呼吸した。
そして、淡々と話し出す。
「どちらも、その時の僕に力が無かったから起こった事だ。……人の二人は、魔物に人体を改造されていて、もはや人間の原型を留めていなかった。治せなかった。殺してくれと懇願されて、殺した。……魔物は、子供の頃に幼馴染が『襲われ』ているところを見て、衝動的に殺した」
「なっ……」
コウは、ジンの過去に硬直してしまった。
ジンは、それでもなお、魔王から目を離さない。
「僕は、もう絶対に誰も殺さない。殺す必要のある世の中に、完全に終止符を打ちたいんだ」
真剣で、覚悟の決められた表情。
それでもなお、魔王は嘲笑った。
「……所詮は綺麗事に過ぎん。お前は本当に『共存』など、信じているのか……?」
ジンの目が、一気に鋭くなる。
「弱者の綺麗事は妄言にしかならない。『綺麗事』は強者だけの特権だ。力が有っても綺麗事一つほざけないならばただの『愚者』だろう」
「っ……」
「僕は『綺麗事』を押し通す。そのためにここに来た」
魔王は、少しだけはにかんだ。
その目には、紛うことなき『勇者』が映っていた。
「人間と魔族では、ルールもモラルもまるで違う。何より、互いに殺し合う事が千年の歳月をかけ『常識』となったんだぞ……?」
「法律は手探りになると思う。でも、人間と魔物が互いに同じ法の下につくようにする。そして、『魔物が魔物を傷つける』行為も、裁く」
魔王はそれを聞いて、鼻で笑った。
「魔物が人間基準の法を守るとは思えんな。仮に共存が実現できたとして、直ぐに足元から瓦解するぞ。魔物の縄張り争いや闘争本能までコントロールするつもりか?」
嘲る魔王から、ジンは片時も目を逸らさない。
そして、はっきりと告げた。
「……今の技術なら、それができる」
「……何……?」
ジンは、強く、真っ直ぐ、はっきりと魔王に言い切った。
「僕は、『全ての魔物に知能を与える』」
「っ……はぁ……!?」
魔王の口元に、本物の笑みが溜まっていく。
そして、大きく溢れ出した。
「フッ……ハハハハハハハハ!! クフハハハハハハハハ……!! 傑作だ……! お前、本気で言っているのか……!?」
「魔物にも、もちろん人間にも、満足してもらえるような世界。本能や闘争では得られなかったモノを、知性として理解してもらう。……理には適ってると思わないかな?」
「ハハハハハハハハハ……!!! 確かに、理解はできるが……! それでも……! ハハハハハハ……!! 第一、可能なのか……!?」
「僕はずっと、これについて研究してきた。そして、ついに完成したんだよ。『魔物に知恵を与える魔法』がね」
「ククク……そうか……ハハハ……」
魔王はひとしきり笑い終わった後、またジンへと視線を戻す。
「だが、知性を得たことで溢れる問題も山積みだろう? 千年の溝はそうそう埋まらないぞ……?」
「千年かけて溝ができたなら、千年かけて『共存』で塗り固めれば良い。その一歩目だよ」
魔王は、大きな笑みを張り付けながら、ジンを見据える。
「お前は『愚か』だ……!」
ジンもまた、魔王を見据えて大きく笑った。
「上等。」
ジンは、冷めかけのコーヒーを一気に飲み干した。
魔王は、ずっと愉しそうな笑みを浮かべている。
「……千年ぶりに本気で笑わせてもらった礼だ。名前くらいは覚えておいてやるぞ。『勇者・ジン』」
「……ありがとう。『初代魔王・エヴァルシオン』」
─────
ジンはその後、村人達と少し話してから、王都へと帰って行く。
ジンは国内の様々な場所へと駆けつけているため、国で知らない人は居ない。
だからこそ、その存在を邪魔に思う者もいる。
黒いマスクに、巨大な大剣を背負った、国家魔法騎士『ゼツ』。
「何が『共存』だ……ふざけるなよ……」
ゼツは一人、騎士協会へと足を運ぶ。




