二十一話 「初代魔王とピースサイン」
ジンは、その禍々しい一雫の魔力へと向かっていく。
そして、魔王も、凄まじい力の塊が接近してきていることを理解していた。
一つの核となる魔力に、『他の魔力が大量に背負われている』ような、異質な魔力。
魔王としての本能が察知する。
(この魔力……コイツが現代の『勇者』か……!)
しかし、魔王は一つの違和感に気づいた。
(……異空間が展開されない……戦う気が無いのか……村人を避難させるまでもない……ということか……?)
魔王は、大きく口角を吊り上げる。
「魅せてみろ……『勇者』……!!」
「こんにちは〜。村長さん……と、『初代魔王』エヴァルシオンさん」
「っ!!」
魔王とザンは、その声に咄嗟に振り返る。
そこには、満面の笑みを浮かべながらピースサインをしてみせる『勇者』の姿があった。
「村人さんたちが中々離してくれないんで、『瞬間移動』して来ました。なんで、いきなり現れてすみません。……あ、コウ君人混みの中に置いてきちゃった……」
ジンが突然現れた時、魔王は魔法を放って迎撃しようとした。
しかし、『魔法が発動しない』どころか、『攻撃意識そのものを消された』
(『敵意』を消す事は、結界のルールを突破する上で身につけているはず……『暴力』そのものに干渉するのか……?)
魔王は、ジンの『ピースサイン』へと目を向ける。
「……奇天烈な魔法だな」
ジンは、ピースサインを魔王へと見せつける。
「本当に話をしに来ただけなんですよね。こっちは戦うつもりも全く無いんです」
「……これは……どういう魔法だ……?」
魔王に聞かれ、ジンは「う〜ん……」と考える素振りをした。
「じゃあ、教えるんで、自分の話聞いてくれるっていう条件でどうですか!?」
魔王は堂々と交渉をするジンを見下して嗤った。
「俺は『魔王』だぞ……?」
「僕は『勇者』ですよ」
「…………ハッ……」
「…………へへっ……」
魔王は、目の前の男に向けて、笑いかける。
「良いだろう、聞いてやる。何の話をしに来た……?」
「ありがとうございますね。それじゃ早速本題に入らせて貰うんですけど……」
ジンは、二人の会話を呆然と眺めるザンの方を、ちらっと見た。
「『人魔共存』に、協力してくれませんか?」
魔王は、「またそれか」と言わんばかりに大きなため息をついた。
「断る。そんな話をしに来たならば、二度と姿を見せるな」
「………………」
二人の間に、少しの沈黙が流れる。
しかしザンは、これは絶対に逃してはならない『人魔共存』のための好機だと理解していた。
「エヴァルシオン君、ジン君、こんなところで話すのもアレだ、うちに上がってくれないか?」
ジンはそれを聞いて、ぱぁっと顔を明るくした。
「良いんですか!?」
ザンは、魔王の方へと視線を預ける。
「エヴァルシオン君も、『勇者』は『価値』があると思わないかい……? 興味は、あるんだろう?」
「…………はぁ……少しだ。見限ったらそれまでだ。いいな」
「……ありがとう」
ジンは、ザンの魔王への扱いを、鋭い目で冷静に分析していた。
─────
「はい。コーヒーだよ」
「え……! 家に上がらせてもらったのに、コーヒーまで頂いちゃっていいんですか……!? やったぁ……!」
勇者は、魔王が想像していたものとは大きく違った。
甘ちゃんのような能力と性格。
覚悟や信念はそれなりに見えるが、だからといって『人魔共存』などと生温い事をほざく奴の信念などくだらない。
だが、既に目の前の男は、ピースサインをやめていた。
(……チッ…………)
ジンは、コーヒーをフーフーと冷ましてから、口につける。
そして、ほっと一息ついた。
すると、たちまち真剣な顔つきになり、魔王を見据える。
「そうだ。先に質問に答えるんだけど、さっき僕が使った魔法は『とりあえずの平和』って言って、僕がピースサインを作っている時、周囲に争いは『絶対』起こらなくなるんだ」
それを聞いて、魔王は静かに言い放った。
「それがあれば、『人魔共存』などお前一人の力で可能ではないか」
ジンは、少しだけ笑ってみせた。
目はそこまで笑っていなかった。
「そんなに便利なモノじゃないさ。あくまでピースサインを『見て』もらわないといけないし、本物の戦場じゃあ、大して役には立たない。襲撃しに来た魔物を無血で追い返すくらいで精一杯なんだ」
「ピースサインを作っている間に攻撃すれば、一方的に蹂躙できるんじゃないのか? 勝利も貴様の言う『共存』とは遠からずだろう」
魔王のその問いに、ジンはふっと笑った。
「チートじゃんそれ。この魔法は発動した時点で、『自分から暴力を一切振るわない』っていう制限で成り立ってるんだ。因みに、既に自分から攻撃を加えていた場合も不発になる。相手から既に攻撃されている場合は効果あるけどね」
それを聞いて、魔王は顎に手を置いた。
「固有能力と言うやつか……だが、そんな制限を付ける意味はあるのか?」
「……制限が多い分、効果は本物だよ。今は制限なしでズルみたいな魔法たくさん使えるのに、わざわざ制限付けてるんだから」
「……なるほどな」
魔王は、それを聞いて怪しげな笑いを零した。
ジンは、また一度深呼吸し、低い声で魔王へと問う。
「……千年経って貴方は復活したからこそ、問いたい。魔族と人間の争いが終わらないことについて、どう思う」
魔王は、その問いを聞いて、一度天井を見上げた。
そして、ジンへと視線を戻す。
「……『殺し』をシステム化しているんだろう。もはや当然の所業としか思えんな」
「……やっぱり、それが一番の問題だと思うか」
「…………もう一つ、問う」
魔王は、ジンに目を合わせる。
「お前は人間と魔物、それぞれ何人殺した」
ジンは、かつてないほどに真剣な表情になった。
「……人間は二人。魔物は一人だ」
「えっ……」
部屋の外で盗み聞きしていたコウは、唖然とした。
(ジンさんが……『人を殺した』……!?)




