表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
19/27

十九話 「確約された平和の勇者」


 『人間と魔族の戦争が始まったなら、ほぼ確実に魔族が勝利する。』


 それは、何年も前から言われ続けてきた、人間界の顛末。


 それはなぜか。


 一つ、現魔王に武力で対抗できる存在が、人間界には居ない。

 二つ、全体の平均値、中央値共に魔族の方が遥かに強力である。

 三つ、人間には、『情』がある。


 ではなぜ、未だ人間は魔族に支配されていないのか。


 それは、『現魔王』が人魔戦争に消極的であること。


 そして、もう一つ。

 『確約された平和の勇者カンフィデンス・ピース』──ジンの存在である。


─────


 先程まで、暗い顔でとぼとぼと歩いていた四人の表情が、『勇者ジン』を見た途端に少し元気を取り戻した。


 ジンは、照れ隠しのように微笑むと、真剣な表情を四人に向ける。


「それじゃあ、僕にも教えて下さい。村に現れた魔物の事を」



 ジンは、エレンら四人から、例の魔物の話を聞く。


「……あの魔物は、人語を解し、高い知能を持っていました。そして、あのルシウスを目の前で服従させました」


 その情報は、ジンですら驚きを隠せなかった。


「ルシウスは現魔王にも従わないんじゃ……!? 本当に、あのバケモノが……!? 信じられない……」


 エレンは、驚くジンに向けてさらに続ける。


「あの魔物は、ルシウスにこう呼ばれていました……『初代魔王・エヴァルシオン』と……」


「嘘ぉ……とんでもないのが復活しやがったぁ……」


 ジンは目を手のひらで擦り、半笑いを浮かべた。


「……でも、復活してから少し経ってるんですよね? …………初代魔王に接触する前に、その捕まえてる冒険者の子にも話聞きたいですね……」


 ヘリオンは、ぼそりと呟いた。


「アイツ、『人間と共存の可能性がある』って言ってたよな…………確かに、高い知性があったし、合理性的には協力関係は築けるかもしれない。……でも、『共存』は根本的に無理っすよ……」


「どういう事?」


 ジンは、興味深げにヘリオンに聞いた。

 ヘリオンは、魔王の最後の表情を思い出して、少し震えた。


「アレは魔物とか、そういう枠越えちゃってるタイプの、『怪物』でした」


「……な〜るほど…………とりあえず、その冒険者君に聞きたい事が、たくさん出来ました」


─────


 コウは、異空間の牢に幽閉されていた。

 罪状は、『魔物を庇った共犯者』と言ったところだろう。


 何度か壁に魔法を放っては見たが、全く変化が感じられない。


「チッ……」



 その時、異空間の扉が開けられた。

 コウが咄嗟に振り返ると、目の前には『勇者』がいた。


「ジンさん……!?」


「やっぱりコウ君だったかぁ……名前覚えててくれてて嬉しいよ」


 ジンは、頭を掻きながら苦笑いで空間の中に入る。

 その様子を見て、エレンが聞いた。


「知り合いですか……?」


「うん、少し。前にギルドで挨拶しただけだけど…………今は二人で話したいから、ごめん」


「わかりました……」


 エレンは異空間の外へと出て、扉を閉めた。



「……早速で悪いんだけど、君の村に来た魔物は、『エヴァルシオン』って名乗ったんだよね?」


「……はい。…………アイツは、人魔共存の鍵になるかもしれないんです……!」


 コウの訴えに、ジンは真剣な表情で答えた。


「正直、僕もそう思う」


「えっ……!?」


 呆気にとられるコウに、ジンは続ける。


「おそらく、エヴァルシオンは復活した『初代魔王』だ。……魔族との架け橋になってくれるかもしれない」


「いや……は…………!?」


 コウは、村で生活していた魔物が『初代魔王』であるという予測に、驚愕する。

 その様子を見て、ジンはふっと笑った。


「僕はエヴァルシオンと話をするために、君に情報を聞きに来た」


「………………」


 場に、重たく緊迫した空気が流れる。

 先に口を開いたのは、ジンだった。


「なんでわざわざ君に、エヴァルシオンの事を聞くんだと思う?」


「……関わりがあるから……ですか?」


「それももちろんそうなんだけどね……?」


 ジンは、戯けた口調で言い放った。


「当時の文献、初代勇者が『燃やしちゃった』らしいんだよね〜……だから、まっったく記録が残ってないんだ」


「えぇ……!?」


「だからもう正直言っちゃうけど、めっちゃ怖い! 何だよ初代魔王って! てかそもそもなんで燃やしてんだよぉ……!!」


 大げさな身ぶり手ぶりを加えて、ジンは地団駄を踏む。

 それを見て、コウはふっと笑みをこぼした。

 ジンはそれを見ると、また落ち着いた口調に戻った。


「……初代勇者が唯一遺して、現代まで伝わってる言葉に、『英雄蔑まれること無きよう、後世に我ら生まれざらんことを信ず』ってのがあるだろう……?」


「……はい」


「……これの『英雄』って、誰の事を指してると思う」


 コウは、ジンの問いを聞いてから、長く考えた。

 そして、口を開く。


「『自分自身』……ですか」


「そういう説もある。他には、『自分を庇って死んだ戦友』や、あるいは『本来自分より勇者の適正があった者への懺悔』という意見もあるんだ」


「そう……なんですか……」


「うん。でも、それらが文献を燃やした理由とするなら、辻褄が合わないか、初代勇者はとんだ臆病者って事になると思わないか?」



 それを聞いて、コウはハっとした。

 確かに、『自分自身』や『懺悔』ならば、後世に名を残したくない程の『後悔』や『悪行』を犯した事にもなり得る。

 そして、それを『蔑まれたくない』と。


 『戦友』ならば、わざわざ文献を燃やす理由としておかしい。


「なら、どうして……」


 ジンは、浅く息を吸って、吐いた。


「これは完全に僕の持論でしか無いんだが、この『英雄』は、『魔王』の事を……エヴァルシオンの事を指しているんじゃないかと思うんだ」


「えっ……」


「初代勇者は、何らかの要因から、魔王を『英雄』と呼んだ。そして、『蔑まれること無きよう』と…………これは、人間の歴史上として、魔王が『悪』として記録されるのを拒んだ結果、文献を燃やしたんじゃないかと、僕は考えている」


 そこまで聞いて、コウは疑問を口にした。


「じゃあ、『後世に我ら生まれざらん事を信ず』……っていうのは……?」


 ジンは、その問いに対して、「うーん……」としばらく考え込む。


「…………今起きている実情を考えると、『魔王が復活しませんように』みたいな意味にも捉えられるけど……」


「けど……?」


「僕の仮説から考えると、おそらく初代勇者は『人魔共存』を望んでいたんじゃないかと思うんだ。……つまり、『今後、自分たちみたいな争い事が起きませんように』って意味にも訳せるんじゃないかって……思うんだよね」


「!……」


 ここまで話すと、ジンは大きく深呼吸して、微笑んだ。


「なんて、本当に全部仮説でしかないんだけど。……でも、僕もエヴァルシオンに賭ける価値はあると思う」


 ジンはコウに、優しく、鋭く、真剣な眼差しを向ける。


「一緒に来てくれるかい?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ