十九話 「確約された平和の勇者」
『人間と魔族の戦争が始まったなら、ほぼ確実に魔族が勝利する。』
それは、何年も前から言われ続けてきた、人間界の顛末。
それはなぜか。
一つ、現魔王に武力で対抗できる存在が、人間界には居ない。
二つ、全体の平均値、中央値共に魔族の方が遥かに強力である。
三つ、人間には、『情』がある。
ではなぜ、未だ人間は魔族に支配されていないのか。
それは、『現魔王』が人魔戦争に消極的であること。
そして、もう一つ。
『確約された平和の勇者』──ジンの存在である。
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先程まで、暗い顔でとぼとぼと歩いていた四人の表情が、『勇者』を見た途端に少し元気を取り戻した。
ジンは、照れ隠しのように微笑むと、真剣な表情を四人に向ける。
「それじゃあ、僕にも教えて下さい。村に現れた魔物の事を」
ジンは、エレンら四人から、例の魔物の話を聞く。
「……あの魔物は、人語を解し、高い知能を持っていました。そして、あのルシウスを目の前で服従させました」
その情報は、ジンですら驚きを隠せなかった。
「ルシウスは現魔王にも従わないんじゃ……!? 本当に、あのバケモノが……!? 信じられない……」
エレンは、驚くジンに向けてさらに続ける。
「あの魔物は、ルシウスにこう呼ばれていました……『初代魔王・エヴァルシオン』と……」
「嘘ぉ……とんでもないのが復活しやがったぁ……」
ジンは目を手のひらで擦り、半笑いを浮かべた。
「……でも、復活してから少し経ってるんですよね? …………初代魔王に接触する前に、その捕まえてる冒険者の子にも話聞きたいですね……」
ヘリオンは、ぼそりと呟いた。
「アイツ、『人間と共存の可能性がある』って言ってたよな…………確かに、高い知性があったし、合理性的には協力関係は築けるかもしれない。……でも、『共存』は根本的に無理っすよ……」
「どういう事?」
ジンは、興味深げにヘリオンに聞いた。
ヘリオンは、魔王の最後の表情を思い出して、少し震えた。
「アレは魔物とか、そういう枠越えちゃってるタイプの、『怪物』でした」
「……な〜るほど…………とりあえず、その冒険者君に聞きたい事が、たくさん出来ました」
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コウは、異空間の牢に幽閉されていた。
罪状は、『魔物を庇った共犯者』と言ったところだろう。
何度か壁に魔法を放っては見たが、全く変化が感じられない。
「チッ……」
その時、異空間の扉が開けられた。
コウが咄嗟に振り返ると、目の前には『勇者』がいた。
「ジンさん……!?」
「やっぱりコウ君だったかぁ……名前覚えててくれてて嬉しいよ」
ジンは、頭を掻きながら苦笑いで空間の中に入る。
その様子を見て、エレンが聞いた。
「知り合いですか……?」
「うん、少し。前にギルドで挨拶しただけだけど…………今は二人で話したいから、ごめん」
「わかりました……」
エレンは異空間の外へと出て、扉を閉めた。
「……早速で悪いんだけど、君の村に来た魔物は、『エヴァルシオン』って名乗ったんだよね?」
「……はい。…………アイツは、人魔共存の鍵になるかもしれないんです……!」
コウの訴えに、ジンは真剣な表情で答えた。
「正直、僕もそう思う」
「えっ……!?」
呆気にとられるコウに、ジンは続ける。
「おそらく、エヴァルシオンは復活した『初代魔王』だ。……魔族との架け橋になってくれるかもしれない」
「いや……は…………!?」
コウは、村で生活していた魔物が『初代魔王』であるという予測に、驚愕する。
その様子を見て、ジンはふっと笑った。
「僕はエヴァルシオンと話をするために、君に情報を聞きに来た」
「………………」
場に、重たく緊迫した空気が流れる。
先に口を開いたのは、ジンだった。
「なんでわざわざ君に、エヴァルシオンの事を聞くんだと思う?」
「……関わりがあるから……ですか?」
「それももちろんそうなんだけどね……?」
ジンは、戯けた口調で言い放った。
「当時の文献、初代勇者が『燃やしちゃった』らしいんだよね〜……だから、まっったく記録が残ってないんだ」
「えぇ……!?」
「だからもう正直言っちゃうけど、めっちゃ怖い! 何だよ初代魔王って! てかそもそもなんで燃やしてんだよぉ……!!」
大げさな身ぶり手ぶりを加えて、ジンは地団駄を踏む。
それを見て、コウはふっと笑みをこぼした。
ジンはそれを見ると、また落ち着いた口調に戻った。
「……初代勇者が唯一遺して、現代まで伝わってる言葉に、『英雄蔑まれること無きよう、後世に我ら生まれざらんことを信ず』ってのがあるだろう……?」
「……はい」
「……これの『英雄』って、誰の事を指してると思う」
コウは、ジンの問いを聞いてから、長く考えた。
そして、口を開く。
「『自分自身』……ですか」
「そういう説もある。他には、『自分を庇って死んだ戦友』や、あるいは『本来自分より勇者の適正があった者への懺悔』という意見もあるんだ」
「そう……なんですか……」
「うん。でも、それらが文献を燃やした理由とするなら、辻褄が合わないか、初代勇者はとんだ臆病者って事になると思わないか?」
それを聞いて、コウはハっとした。
確かに、『自分自身』や『懺悔』ならば、後世に名を残したくない程の『後悔』や『悪行』を犯した事にもなり得る。
そして、それを『蔑まれたくない』と。
『戦友』ならば、わざわざ文献を燃やす理由としておかしい。
「なら、どうして……」
ジンは、浅く息を吸って、吐いた。
「これは完全に僕の持論でしか無いんだが、この『英雄』は、『魔王』の事を……エヴァルシオンの事を指しているんじゃないかと思うんだ」
「えっ……」
「初代勇者は、何らかの要因から、魔王を『英雄』と呼んだ。そして、『蔑まれること無きよう』と…………これは、人間の歴史上として、魔王が『悪』として記録されるのを拒んだ結果、文献を燃やしたんじゃないかと、僕は考えている」
そこまで聞いて、コウは疑問を口にした。
「じゃあ、『後世に我ら生まれざらん事を信ず』……っていうのは……?」
ジンは、その問いに対して、「うーん……」としばらく考え込む。
「…………今起きている実情を考えると、『魔王が復活しませんように』みたいな意味にも捉えられるけど……」
「けど……?」
「僕の仮説から考えると、おそらく初代勇者は『人魔共存』を望んでいたんじゃないかと思うんだ。……つまり、『今後、自分たちみたいな争い事が起きませんように』って意味にも訳せるんじゃないかって……思うんだよね」
「!……」
ここまで話すと、ジンは大きく深呼吸して、微笑んだ。
「なんて、本当に全部仮説でしかないんだけど。……でも、僕もエヴァルシオンに賭ける価値はあると思う」
ジンはコウに、優しく、鋭く、真剣な眼差しを向ける。
「一緒に来てくれるかい?」




