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十八話 「意地悪極まれり」


 魔王は、頭を地に付けているルシウスへと歩み寄る。


「もういい。面を上げろ」


 ルシウスは、ゆっくりと顔を上げ、魔王をみあげる。


「さて……不敬に対する罰は後に決めるとして……お前は何をしに来た?」


 ルシウスには、もはや最初の余裕は残されていなかった。


「……先程述べた通り、また魔王として、貴方様に指揮を執って頂きたいのです」


「……現代にも『魔王』は居るだろう」


 ルシウスは、唾をゴクリと飲み込み、はっきりと告げる。


「今の魔王は『人魔共存』などと言う腑抜けた理想を掲げています……もはや、魔族は断裂状態です」


「……ほう」


 魔王は、ルシウスの訴えを笑みを浮かべ聞き流す。

 そして、ルシウスの目の前へと屈んでみせた。


「先ずはお前がどの程度か、見せてもらおう」



 魔王が向かったのは、畑。

 そこから、一本の立派に育った大根を引き抜く。


「……?」


 呆気にとられるルシウスに、魔王は採れたての大根を見せつけた。


「……これは俺が水をやって育てた大根だ。食え」


「……え、その」


「何だ? 『俺が』育てたモノが食えないと言うのか?」


「…………ありがとうございます……」


 ルシウスは両手で恐る恐る大根を受け取ると、目を硬く瞑り、一気に食いちぎった。


「…………美味いよな?」


「……はい…………」



 この全く意味のわからない行動が、ルシウスの『王』への畏怖を深めさせた。

 もはや理解出来ない領域にある存在だと言うことが、本能的に伝わってくる。



「エヴァルシオン君……?」


 事の一部始終を見ていたザンが、魔王へと声をかける。


 ルシウスの悪名は、辺境の地のザンですら知っていた。

 異名『拷問官・ルシウス』の通り、気まぐれに騎士や一般人を襲っては、嬲り殺し、その映像を王都へと送りつける鬼畜の所業。

 彼の手によって、先代の『勇者』は殺され、代替わりさせられている。


 その存在が、共に畑作業をして暮らしていた一体の魔物に、頭を垂れ、従っている状況。


 かつて、エヴァルシオンは自らを『魔王』と名乗った。

 その意味が、ザンの中でようやく確信へと繋がった。



 魔王はザンに声をかけられると、「今は待て」と言わんばかりにジェスチャーをした。

 そして、ルシウスに視線を戻すと、大根を全て平らげている事に気付き、ふっと笑った。


「……そうだな。この大根を与えた対価として、お前が先程行使した魔法を教えろ」


 先程、ルシウスが行使した、『広範囲かつ、物質にまで作用する『スタン』。

 それは、魔王の興味を大きく唆った。


 その意図をルシウスも察し、献上する。


「……先程私が使用したのは、『世界を止める指先イメンスワールド・スタン』。広範囲のスタン付与に、私の固有能力ユニークスキルである『概念干渉』を用いて、物質にスタンを付与したものになります」


「概念干渉……そのユニークスキルというモノは何だ……?」


「……固有能力ユニークスキルは、その存在ただ一人にのみしか扱えない能力や魔法の事です」


 それを聞いて、魔王は理解した。


(……概念干渉自体、凄まじい魔力を使用するはず……コイツの魔力量も、俺とはもはや比較にならない。……固有能力ユニークスキル……千年前には無かった概念だが、存在自体はしていたのか……?)


「……なるほど。……最後に、お前に与える罰則だが……」


「……はい」


 ルシウスがもはや自身に逆らわない事を、魔王は理解していた。

 『王』は、どこまでも尊大で、傲慢だった。


「一つ。むこう百年間、お前は人間を殺してはならない。殺さずに甚振る行為も、言わずとも分かるだろう」


 魔王はまず、ルシウスから『娯楽』を奪った。

 勿論、人間のためではない。もはや、ただの魔王の『意地悪』だ。


「一つ。ここでの出来事を、他の魔族に口外してはならない。……そして、最後にだが……」



 その後に続く言葉は、ルシウスに果てしない絶望を与えた。


「お前は、これから『現魔王を俺だと思って服従しろ』」


「……は…………?」


 ルシウスは大きく目を見開き、魔王を見上げる。

 魔王はルシウスの表情かおを見て、大きく口角を吊り上げ、嗤った。


「異論は、無いな」


「………………!!」


 ルシウスは、もはや我慢ならなかった。

 目の前に立つのは、『本物の王』。

 だからこそ、従うしか無いと思えた。従うことが恥ではないと思えた。


 だが、これだけはいくら『王』の命とあってもあり得ない。

 ルシウスは、魔王の胸ぐらへと掴みかかった。


「……貴方も……『人間との共存』を望んでいるんですか……!?」


 凄まじい剣幕と魔力を以て威圧するルシウスに、魔王は蔑むような笑みを見せつける。


「勘違いするなよ下等魔族。俺はお前を『使って』今の『魔王』を品定めするだけの事だ」


「っ……!!!」


 ルシウスは魔王から手を離すと、また片膝を付いて頭を下げる。

 そして、震える声で続けた。


「……御意ぎょいに」



 その後、ルシウスは何も言わず、一度だけまた頭を下げると、空の彼方へと飛び立っていった。


─────


 数時間後、王都では、魔王に救われた(負けた)騎士達が、未だ呆然としながら歩いていた。


 シュトラは、エレンへと声をかける。


「なぁ……あの村の冒険者の子は、今どうなってる……?」


 エレンは、よろよろとした足取りながらも、はっきりと答える。


「今……異空間牢に拘束してあります……話、聞きますか……?」


「……そうだな……」


 四人は、コウを拘束している座標へと向かう。

 その時、背後から声が聞こえた。


「その話、詳しく聞かせてくれませんか?」


 その優しい声に、四人は咄嗟に振り返る。

 そして、声の主を見た瞬間、全員の顔が一瞬、ぱっと明るくなった。


「『勇者』……!!」


「……『ジン』って名前で呼んでって、前も言わなかったっけ……恥ずいよ」


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