十七話 「王」
「私は魔王四天王『ルシウス』と申します。エヴァルシオン様、貴方様を、新たな『魔王』としてお迎えに上がりました」
ルシウスは、止められた世界の中で、魔王へと頭を下げる。
伏せられた表情は、不気味な笑みを浮かべていた。
(やはり……初代魔王はもはや木偶。今、恩を売るのが得策ですね)
魔王は、ルシウスと、固まった四人の騎士を交互に眺める。
四人は、ルシウスの姿を見た瞬間、真っ青になって震えていた。
あれほどの術者だったエレンは、もはや目をかっ開き、大粒の涙を溢れさせている。
(……『ただの強者』に対する恐れ方ではないな……)
魔王は、ルシウスを冷たい目で見下ろした。
「……お前、あの四人の中で二人殺していいと言ったら、どうする?」
ルシウスは、その質問の意図を直ぐに察知した。
(『品定め』……ですか? 随分余裕ですね……ならば、こちらも貴方を品定めさせてもらうとしましょうか)
ルシウスは、少し笑いを交えながら続ける。
「そうですね……男二人、ですかね」
「……何故?」
「男の悲鳴に需要ありますか……?」
魔王はルシウスのその答えを聞いて、吹き出した。
「ふふっ……ハハハハハハ……!! お前、嫌いじゃないぞ」
「……ありがとうございます。では……」
ルシウスは指をパチンと鳴らす。
すると、場の停止した時が動き出した。
「いやぁぁぁぁっ!!!!」
その瞬間、エレンの悲鳴が響いた。
ルシウスはゆっくりと立ち上がり、四人を見て舌舐めずりをした。
その異様な光景を、村人全員も硬直し傍観する。
ルシウスは、騎士達へと一歩を踏み出そうとする。
しかし、魔王はその全てを無視して続けた。
「嫌いじゃないが……誰が面を上げていいと言った?」
「えっ」
ルシウスは驚き、魔王へと視線を移す。
その瞬間、ルシウスは直ぐに頭を下げた。
『跪け』と言っているのを、本能で感じた。
(な……私は……!? ……何をした……?)
「……お前……ここが何処だか、理解出来ているのか……?」
魔王はルシウスを見下しながら、零度の声色で言い放った。
「『魔王の御前だぞ』」
ルシウスの身体が、ビクッと跳ね上がる。
もはや溢れる冷や汗を、誤魔化す事は出来なかった。
それを見ると、魔王は「フン」と鼻であしらった。
「不敬にも薄汚い欲望をこの場で吐き散らした罰だ。お前に俺を直視する権利は無い」
「っ……!!」
自らより圧倒的に弱いものに、初めて恐怖を覚えた。
長らく『あの』魔王と接することで忘れかけていた、『本物の王の威厳』。
それを、身を持って思い知らされた。
魔王は、さらにふっと笑った。
「そうだ……悲鳴が聞きたいんだったよな? ……ならば、お前には誰の悲鳴も聞かせてやらん」
魔王は、立ち尽くす四人の騎士達へと視線を移す。
「帰れ」
「……えっ」
魔王のその言葉に、一同は呆然とする。
魔王は、その反応を無視して続けた。
「……そうだな……俺を斃したくば、次は『勇者』でも連れてこい」
怪しげに笑う魔王に、一同はもはや畏敬すら覚え始めているのを感じた。
本来ならば、魔王四天王 ルシウスに殺害されていた。
いや、殺されるだけでは済まされなかった。
エレンの耳には、彼に陵辱された姉の悲鳴がこびりついている。
だが、目の前の『怪物』は、あのルシウスすら喰った。
もはや、四人は何も答えなかった。
ただ、言われるがまま、魔王に背を向け、震える身体を抑えながら歩いていく。
その様を見て、魔王は嗤った。
「敗北の凱旋か……良い眺めだ」
それは、あの騎士達を嘲笑うと共に、自分自身を笑っていた。
魔王は、奇妙な感覚を覚えていた。
あの四人に『禁術』が通用した時、ついに見出した勝機に興奮した。
しかし、同時に少しの落胆と寂しさに似たモノを感じていた。
(そうか……俺は、何もかも捻じ伏せられて、完璧に負けられないと、満足出来ないのか……)
「はっ……」
魔王は、未だ頭を下げ続けているルシウスへと向き直る。
「……悪かったな。変態は俺も同じだったようだ」




