十六話 「本物の怪物」
「『禁術』」
自らの腕を引き千切るという行為。
その異常性が、騎士四人を場に縛り付ける。
「王の腕だ。有り難く頂戴しろ」
魔王は、千切った腕を目の前に浮かべた。
すると、ドス黒い魔法陣が現れ、腕を飲み込んでいく。
(『禁術』……自らの肉体を犠牲とすることで、相手の『魂』そのものへと干渉する奥義……犠牲とした部位は再生出来なくなるが、再生阻害を持った相手に対してのデメリットは薄い……)
魔王の圧倒的な雰囲気に、エレンは何かを感じ取った。
(これは……!!)
すかさず、手で印を組む。
「『ᚱᛖᚠᛖᚾᚾᛡᛖ ᛏᛟ ᚷᛁᚠᛖᚱ ᛟᚠ ᛚᛟᚠᛖ』」
魔王は、人間に聞き取れない発音の呪文を唱えた。
「がっ……!?」
次の瞬間、場の四人全員が吐血した。
少しだけ吐かれた血は、地面へと軽く飲み込まれる。
(軽く吐血しただけ……『魂』への攻撃を『防いだ』のか……)
エレンは、「はぁはぁ」と肩で息をしながら、呆然とする。
(これは……『過ぎ去りし魔物』なんてモノじゃない……もっと何か、別の……!)
「ハハハハハハハハハ!!!!」
突然、魔王は大声で笑い出した。
そして、またドス黒い魔法陣を展開した。
(『防いだ』……ということは、『無効』じゃない……)
「さぁ……次は何を犠牲にしてやろうか……?」
エレンは、場の誰よりも早く察知していた。
『狂った笑みが、アイツと似ている』。
(もう……『強い』だとか、そんな次元の話じゃない……!! コイツは……『怪物』……!!)
エレンは、巨大な魔法陣を展開する。
「っ……!」
次の瞬間、魔王の身体が光り輝く鎖に戒められた。
それに、三人は驚愕する。
「『秘技』……!? アイツに使うのか……!?」
エレンは、顔色を悪くしながら、震える声で続ける。
「アレは『本当にダメ』なヤツです……! 確実に、殺さないと……!!」
鼻血を出しながら、エレンは詠唱を続ける。
そのただ事ではない雰囲気に、他の三人も察した。
ゼツは大きく大剣を振り上げ、ヘリオンはサラマンダーとイフリートの炎を結集し、シュトラは巨大な光の槍を構築していく。
その圧巻の光景に、魔王は愉しそうに笑い続けていた。
「そうだ!! やってみろ!! お前らの叡智が! この俺に! 本気で!! 通用すると思うのならばなァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!!!」
パリ/ィン……
「……えっ」
その瞬間、村を覆っていた金色の結界が、割れた。
村人たちが現れ、普通に生活している。
戦闘で破壊された家も、何もかもが元通りになる。
エレンは、この状況に困惑していた。
いや、誰もが、呆然と立ち尽くした。
(『天聖異郷』を破壊するなんて、そんな事、あり得ない……)
そして、エレンの脳内に、最悪の結末が過る。
(まさか、『アイツ』じゃ……)
エレンは息を荒くしながら、恐る恐る、空の上を見上げる。
「あっ」
エレンの手から、杖が離れた。
空の上には、一体の魔物がいた。
漆を塗られたような黒髪に、銀色のメッシュ、朱と蒼のオッドアイ。
その魔物を見て、二体の精霊は反応した。
「ゥ゙ゥ゙ゥ゙……!」
「ァ゙ァ゙……!」
サラマンダーとイフリートは大きな威嚇の唸りを上げ、全身の炎を滾らせていく。
その魔物は、二体の精霊を鼻で笑うと、人差し指を立て、ゆっくりと唇に当てる。
場から、音が消えた。
「『1』……『0』」
その魔物は、指をパチンと鳴らす。
すると、時が止まったように、場の全てが静止した。
魔王を除いて。
(……これは……『スタン』……? だが、『物質も静止』している……)
その魔物は、魔王の目の前へゆっくりと降りると、片膝をついて頭を下げた。
「はじめまして。『初代魔王エヴァルシオン』様」
魔王は、冷めた口調で問う。
「……誰だ、貴様は」
その魔物は、頭を下げたまま、優しい声で答えた。
「私は魔王四天王『ルシウス』と申します。エヴァルシオン様、貴方様を、新たな『魔王』としてお迎えに上がりました」




