十五話 「圧倒的理不尽」
「あれ……エヴァルシオン君……どこいったのかな……?」
ザンは、突如居なくなった魔王を探す。
いつもいるはずの屋根の上に居なかった時、どこか嫌な予感を感じた。
「…………出かけた……のか……?」
ソラは一人、ノートとペンを持って、魔法を勉強する。
「ここ分かんない……エーちゃんどこかな……教えて欲しいな……」
その独り言は、誰にも届かなかった。
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「ぶった斬れば同じでしょ」
ゼツは、人間の背丈よりもなお大きい大剣を、高く掲げる。
すると、周囲から魔力が集められ、大剣へと結集していく。
そして、一気に魔王へと距離を詰める。
「っ!!」
(早い、身体能力強化も桁違いだな)
そして、大きく魔王へと振り抜く。
ズ/ァ/ァ/ァ/ァ/ン……!!
振り抜かれた大剣からは、真っ黒な斬撃が放たれ、轟音とともに雲を切り裂いていく。
(空間を裂いた……馬鹿げた芸当だな……)
それを躱した魔王は、ゼツへとカウンターを仕掛ける。
「これで終わりなワケないだろう」
次の瞬間、裂かれた空間に亀裂が入り、裂け目が魔王へと向かっていく。
魔王はその場から離れ避けようとする。
しかし、隙を逃さぬようにシュトラの光が魔王を襲う。
(チッ……!!)
魔王は既に欠けている方の足でシュトラの攻撃を蹴り上げ、軌道を逸らす。
光が直撃した魔王の脚は、もはや腿から下が消え失せていた。
魔王は魔法障壁を張り巡らせ、シュトラの攻撃を避けながら、空間の裂け目から逃げていく。
「鬱陶し」
ゼツはもう一太刀、魔王に向けて振り被る。
再度轟音と共に次元が裂け、亀裂が走っていく。
「『焔獄』」
「っ……」
魔王は広範囲に魔法を放ち、煙幕のように視界を埋め尽くす。
(馬鹿が。こんなもん、魔力探知で直ぐに分かる)
ゼツは躊躇いなく魔力が反応した方へと太刀を降ろす。
しかし、手応えはなかった。
(魔力弾を放って意識を逸らさせたか……こんなベタな手に引っかかるなんて)
ゼツは「フーッ……」と深呼吸をした。
「……落ち着いて狩る」
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魔王はゼツ達の意識を逸らした後、遠く離れた民家へと飛び込んだ。
(これは別次元の空間……しかし、家や物体の位置は変化していない……ならば……)
魔王は、一目散に『台所』へと向かった。
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ヘリオンは、魔王が民家へと逃げ込んだ事を察知していた。
「纏めて吹っ飛ばしてもいいすけど……アイツ、割とアタマ回るんすよね……罠かも」
その疑問に、シュトラが答える。
「どんな策でも、先手を打って潰せば、意味はなくなる」
「ははっ……確かに。行くよ、サラマンダー」
サラマンダーは、魔王の気配を感じる民家へと火炎弾を放射する。
火球は凄まじい轟音を立てながら民家を吹き飛ばし、正面一帯を消し飛ばす。
(さて、どう出る? 『過ぎ去りし魔物』……!)
その瞬間、イフリートの周りに、無数の『黒い炎を纏った槍』が出現する。
「っ!」
(狙いはイフリートか……!)
「グッォ゙ォ゙……!!」
イフリートは無数の槍を突き刺され、指をジタバタさせながら悶え苦しむ。
そして次の瞬間、イフリートに刺さっていた槍が、四方八方へと分散し飛び散った。
「っ!」
即座に全員は魔法障壁を展開し、魔王の魔法を防ぐ。
魔王の狙いは、それだった。
魔法が唯一通用するのは、精霊のみ。
効かないと分かっていても、目の前で苦しむ様を見せつけられた攻撃が、自分に向けられる。
反射的に、『魔法から』身を守ろうとする。
「エレン! 後ろ!!」
「えっ」
シュトラが叫んだ時には、もう遅かった。
魔王は、エレンの背後へと回っていた。
一度に大量の『撃臨』を放ち、魔王は『意図的に』魔力を枯渇させた。
それが、エレン含め、全員の魔力探知を掻い潜った。
(まずい、もうこんなに距離を……! でも、この子の攻撃は通用しない……!)
しかし、魔王の行動はエレンの予測から大きく外れていた。
魔王は、ビンのなかに入った『液体』を、エレンへと投げかけた。
「きゃっ……!?」
(これは……『油』……?)
魔王の手に握られたマッチに火がつけられていることに気づいた時には、もう遅かった。
エレンの身体に、『本物の炎』が引火する。
「っ……!!」
魔王が次に狙ったのは、ゼツだった。
それに、ゼツ自身も気づいていた。
詰められた間合いの中で、大振りな大剣を振り回す事は出来ない。
さらに、この位置はシュトラの射線とゼツが覆い被さるように取られ、援護はできない。
(チッ!!)
それでもなお、ゼツは大剣を振りかざす。
そんな愚行を、魔王が許すはずがなかった。
魔王の手に握られていたのは、『包丁』。
逆手に構えた刃は、ゼツの顎先をカチ上げる。
「っ……!!」
しかし、魔王はある事に気付いた。
『手応えがない』
「『蒼空星』」
背後から、詠唱が聞こえた。
既に葬ったはずの、エレンの声。
「っ!!?」
魔王は直ぐに魔法障壁を展開する。
しかし、エレンの魔法は簡単に障壁を打ち砕き、魔王へと直撃した。
「がっ……!!」
魔王は吹き飛び、家屋を何戸も突き破っていく。
エレンは、吹き飛んでいく魔王を見て、ほっと胸をなで下ろした。
「『環境変化無効化』と、『物理ダメージ無効化』……どっちも間に合って良かったです……」
ズタズタの状態で倒れ伏す魔王。
その口は、大きく笑っていた。
「魔法……環境……物理……全て無効化か……! ハハッ……ハハハハハハ!!!」
狂ったような笑い声は、騎士全員の耳に焦げ付いた。
「まだ終わりではない」と、全員が本能で感じた。
魔王は、ゆっくりと、そして、堂々と四人へと歩み寄っていく。
魔王の奥底から、沸々と異質な魔力が溢れてくる。
「貴様ら人間に使うつもりは無かったが……ここまで足掻いた褒美だ。……見せてやろう」
魔王は、魔力で補強した腕で、まだ欠損していない腕を握り締める。
そして、大きな音を立てて引き千切った。
「『禁術』」




