十四話 「現代の強者」
屋根の上で、魔王はまた一人本を読み、ペンを握る。
現代にも通用し得る新たな魔法。
それを生み出すため、ノートに術式を書き殴る。
「……そろそろ水やりの時間か……」
─────
上位騎士四人は、離れた崖の上から村を一望する。
「報告があったのは、あの村ですね」
「……よし。エレン、頼むぞ」
「はい。……術式発動『天聖異郷』」
エレンは、杖を握りしめ、ぶつぶつと術式を呟く。
すると、金色の魔法陣が現れ、村の結界を塗り替えるように、金色の結界が村を覆い被していく。
やがて、村全体が金色の結界に包まれた。
「……完成しました。村の人間たちは、これで『別の軸』に逃がせたはずです」
エレンの報告を聞くと、シュトラは頼もしく頷いた。
「……行くぞ」
─────
「………………」
魔王は、村に起きた異変に気づいていた。
(人間の魔力が……全て消えた……?)
魔王は、村を突如覆った金色の結界を眺める。
(……知らない術式だな……だが、これが現れた瞬間、人間の気配が消えた……おそらく、魔族や特定の人間のみを隔離する疑似空間のようなものだろう……)
それが導き出す結論。
(何者かが俺を狙っている)
魔王は教科書を屋根に置き、地上へと降りる。
その瞬間、魔王を襲った、圧倒的な忌避感。
(……四人。『精霊』が二体。……いずれも俺の数十倍以上の魔力量)
そして、その正体は直ぐに目の前に現れた。
「目標、発見」
四人が、魔王の前に立つ。
ヘリオンは、魔王の姿を見て、シュトラへと振り返った。
「……本当にコイツっすか……? 魔力、全然無いっすよ」
白けた口調のヘリオンを、ゼツが睨む。
「よく見ろ。……レベル100だ」
「え、マジ。マジじゃん、なんで?」
魔王は、冷たい目で四人を視界に捉える。
「……俺を斃しに来たんだろう? ……遺言は今のうちに決めておけよ」
シュトラは、一歩を踏み出し、魔王に相対する。
「裁きの時間だ。魔物よ」
魔王は、静かに分析する。
(……結界が塗り替えられた事で、敵意に反応し魔力を封じる結界が消失した。……コウが比較にならない程の魔力、目の前にいるのは、『現代の強者』だろう)
魔王はニヤリと笑い、出したベロから口を開かせる。
(『四重上位魔法障壁』……!!)
シュトラは、ゆっくりと魔王へ手をかざす。
「……さぁ、魅せてみろ」
パキャ/アン……!!
言い終わる頃には、結界は全て打ち砕かれ、魔王は右腕を削がれていた。
(……思考加速込みで視認すら出来なかった……光魔法……ついには光速の攻撃を可能としたのか……!)
魔王は、直ぐにその場から離れ、家で射線を切り飛び回る。
「っ……」
しかし、その一瞬にも、魔王は左足の先を消し飛ばされていた。
魔王は削がれた右腕と左足に再生の術式が付与された魔法陣を浮かべる。
しかし、それは直ぐに掻き乱され、崩れた。
(『再生阻害』……存在するものだとは感じていたが、もう出会う事になるとはな……)
魔王は魔力を欠損した箇所に集め、魔力で代わりとなる『型』を取る。
(これは対策されていない、行う者が少ないのか、ピンポイントで対策する必要が無いからか?)
思考しながらも、魔王は常に障壁を張ることで光速の攻撃のタイミングをずらし、家で射線を切る事で寸前で躱していく。
「『火炎』」
魔王が放ったのは、何の変哲もない火球。
飛ばされた火の玉を、シュトラは片手で軽く弾く。
(小手調べに放ったとはいえ、手応えがおかしい。……耐性、というよりは『無効』といった感覚……)
「すばしっこいっすね」
ヘリオンが、自らの周りに浮かぶ二つの太陽のような紅い珠に触れる。
「でも、相手が炎使うなら、負ける気しないな。……おいで、『イフリート』『サラマンダー』」
ヘリオンの周りを廻る珠が、紅々しい光を放ちながら変貌していく。
そして、中心に目のついた巨大な炎の手と、人間サイズ程度の真っ赤な龍が現れた。
(『イフリート』と『サラマンダー』……どちらも最上位格の精霊……面白い)
「焼き尽くせ、サラマンダー」
「ゥ゙ゥ゙ゥ゙……」
ヘリオンが合図をすると、サラマンダーの口に火炎が集められ、凄まじい威力を以て放出される。
「!!」
魔王は直ぐにその場から離れ、別の家の影へと隠れる。
魔王が先程までいた場所は、真っ直ぐ跡形もなく焼き飛ばされ、跡形もなくなった。
(……仮にも人間の家、大規模な破壊はしないと考えていたが…………おそらく、この結界内は『同じ座標』の『別の時間軸』。結界を解除すれば、戦闘の痕跡は無くなるということか?)
「避けられた……しぶといっすね」
「あぁ……」
シュトラは、この魔物に対して違和感を抱いていた。
不自然な『レベル100』、明らかに知恵を持った戦闘技能。
(まさか……コイツは……)
「『撃臨』」
魔王が放ったのは、黒い炎を纏った魔力の槍。
向かい来る攻撃にも、ヘリオンは動じなかった。
(懲りずに炎魔法か……だが、イフリートには通用しないぜ)
巨大な炎の手の中心に付けられた目が、魔王の魔法を直視する。
そして、紅く煌めいた。
「グウッ……!!」
しかし、槍はイフリートの目に真っ直ぐ突き刺さった。
「なっ……!?」
(イフリートの炎は最高純度だぞ……!? 威力はともかく、炎の『質』でイフリートを上回った……!?)
シュトラは光魔法を放ちながら、考察する。
(イフリートを上回る魔力の質に、不自然なレベル100……)
「……もしかするとコイツは、『過ぎ去りし魔物』かもしれない……」
「……なんすかそれ」
ヘリオンのきょとんとした反応に、エレンが説明する。
「『過ぎ去りし魔物』は、過去の魔物が封印を解かれるなどして復活したモノの事です。過去に一度だけ、前例があります」
「そうなの?」
「はい。確か文献には、当時から250年前程の存在と推測される高位の魔物が復活し、大きな被害を与えたと記されていました」
「……相当レアな事象ではあるが、私の仮説が正しければ、あの魔物への違和感にも説明は付けられる」
シュトラが語っている時、ゼツは背中に担いでいた大剣を抜いていた。
「……御託はいいんで、ぶった斬れば同じでしょ」
ゼツの大剣から、凄まじいオーラが溢れ出る。
魔王は、場を埋め尽くすほどの攻撃を寸前で対処しながら、冷静に思考し続けていた。
(この結界は、先程のサラマンダーの爆撃でなお無傷だった……俺が破壊することは到底できないだろう。……術者はおそらく神官の女……結界を消せさえすれば、戦況は変わる)
その時、光が魔王の脇腹を抉る。
「グッ……!」
(時間軸を操る結界をはじめ、光速攻撃、再生阻害、高位精霊使役、果ては魔法の完全無効……)
魔王は口角を吊り上げ、狂気的な笑みを張り付けた。
(二人は殺すか。一人は生け捕り、最後の一人は都に返して、より強い者をおびき寄せるエサにしてやろう……!)
「ハハッ……!!」




