十二話 「紫電と魔王」
「おい、コウとやら、俺の『レベル』は何だ?」
荷造りをしているコウに、魔王は話しかける。
「……なぜ急に?」
「知りたいだけだ」
魔王は、『レベル』という概念を知って、少しの懸念を抱いていた。
それを、おそらくレベルを認識できるであろうコウへと聞いた。
コウは、質問の意図を何となく察すると、冷静に答えた。
「お前は『レベル100』だよ」
それを聞いた魔王は、一瞬だけ瞼を動かすと、斜め下を見て呟いた。
「……そうか」
「あぁ、お前の魔力量はこれ以上増えない。……が、レベル100ってのは、それだけで箔が付くもんだ」
「……何が言いたい」
コウは、少しだけ小馬鹿にするような口調で続けた。
「励ましてやったんだよ」
「は?」
「お前が何なのかは未だによく分かんないけど、村長が賭けるって言ったんだ」
魔王は、コウを鼻で笑った。
「馬鹿げた思考は親譲りか?」
コウも、魔王を鼻で笑い返す。
「いや? 俺はお前を信用してないし、村長の考えも理解出来ない。……でも、恩人だから」
「『恩』を盲目的に信じるほど愚かな事は無いぞ?」
魔王の挑発的なその言葉に、コウは少しだけ頷いた。
「確かにな。でも、身寄りのない俺達を、あの人は必死に育ててくれた。感謝しても、しきれない」
「身の上話はよせ、反吐が出る」
「……あぁ、悪かったよ。」
コウは、目の前の魔物を信じられていない。
だが、昨日、ソラに魔法を教えていた時の純粋な目。
アレが、この魔物の本体だと思った。
純粋だが、単純ではない。
だからこそ、この魔物に恩人は賭けたのだと、今なら少しだけ分かる。
「エヴァルシオン君、畑に水やりしに行くよ」
ザンの声が、部屋の外から響いた。
「あぁ、今から行く」
魔王は、自らの横を通り抜けていった。
通り抜けざまに、魔王は呟いた。
「最初に殺すのは貴様だからな」
その言葉に抱いたのは、恐怖でも、怒りでもない。
魔王へと振り返り、笑ってみせる。
「楽しみにしてるよ」
─────
魔物と村長が畑に水やりをする光景を、一人の村人が眺める。
それは、あまりにも異質だ。
村長から、『魔物を村で育てる』と聞いたときは、馬鹿げていると思った。
いくら村長の提案とあっても、さすがに従うことはできない。
魔物と共存なんて、できるわけがない。
魔物に、人間は何人も何人も殺されている。
この村の人達だって、例外じゃない。
いつ殺されるのか分からない。
村に魔物がいると言うだけで、夜も眠ることができない。
村長の『執着』を、断ち切らなければならない。
「あの魔物を……排除しないと」
─────
今日は、コウが王都へと発つ日だ。
コウは冒険者のため、王都での仕事がある。
既に荷造りを終えたコウは、魔王へと語りかける。
「俺が居ない間、村の人達を傷付けないで居てくれるよな」
魔王は、教科書を読み返しながら、コウの問いを鼻で笑った。
「価値があるうちはな」
「……頼むぞ」
「俺が知ったことではない」
「…………」
コウは少しだけ心配そうな目を向けるも、直ぐに戸を閉め、ソラとザンのところへと向かっていった。
─────
コウとソラは、身寄りが無かった。
早くして両親が魔物に食われて死んだ。
あの時の悲鳴に血濡れた光景を、ソラは知らない。
それから、村長が育ててくれた。
ザンは、まるで本当の子供のように、愛情を持って、育ててくれた。
叱る時にしっかり叱ってくれたのも、今となってありがたみを実感できる。
ザンはよく言っていた。
「魔物と人間の大喧嘩を、いつかちゃんと終わらせたい」と。
王都近くまで散歩に行った時に、現実を知った。
見たことのないような、住んでいる村とはかけ離れた、豪勢で煌びやかな街並み。
ゴミ捨て場にポツリと捨てられた冊子に書かれていた、『冒険者』の文字。
冒険者になりたいと言ったとき、ザンは少し驚いたあと、覚悟を決めたように「分かった」とだけ言った。
その日の夜、俺が専門学校に通うためのお金を、村の人達からかき集めて借りていたと言うのは、冒険者になってから知った。
俺は、そんな村のみんなに、そして、ザンに、恩を返したい。
そして、ソラを幸せにしたい。
俺は欲深い人間なんだ、全部成さないと満足できない。
必ず、やり遂げてみせる。
だから、今日も手を振るんだ。
「行ってきます」




