十話 「くだらん愛と冷めた世」
「はぁ……はぁ……」
魔王は畑の土に鍬を振り下ろす。
(これは……思っていたよりも単純作業だな……)
「この時代には、農作業を自動化する魔法は無いのか……?」
ザンは、鍬を振り下ろしながら、魔王に笑いかける。
「あるけど、それで作った野菜より、こうやって手作業で作った方が美味しくなるんだよ」
「…………『愛情』……というやつか……理解できんな。同じ土、同じ品種なら、できるものは同じだろう。……達成感から来る錯覚じゃないのか?」
魔王の疑問に、ザンは汗を拭いながら笑った。
「野菜が美味しくなる錯覚なんて、最高の『魔法』じゃないか」
ザンは、厳しい農作業の中でも、ずっと笑顔を絶やさなかった。
楽しそうに、それでいて、慈しむように、優しい仕草で畑を耕し、種を植える。
魔王は、自らが耕した畑の跡をさっと眺める。
「…………くだらんな」
「……!」
そう言う魔王の表情は、少しだけ笑っていた。
少なくとも、ザンにはそう見えた。
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農作業を終えると、また四人で食卓を囲み、そして、皆が寝静まるまで待つ。
そして、また屋根の上で魔王は一人『学習会』を始める。
今日、魔王が手に取ったのは、『冒険者になりたい人へ』と書かれた小さな冊子。
(昨日の教科書とは違い、これは小さいな……本……というよりは、説明書か……?)
魔王は、冊子を開く。
・『冒険者とは』
・『試験について』
・『レベルについて』
・『ギルドについて』
(『冒険者』……魔物と戦闘を行う職業のことか……? 『ギルド』と言うのはなんだ……?)
魔王は、さらに読み進める。
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・『冒険者とは』
魔物と戦闘を行う職業。
魔物が獲得した魔法耐性を貫通する技術を必要とし、それ故に責任と危険が伴うため、専門学校による資格や試験突破を必要とする。
ランクがEからSまであり、それに応じて依頼を受けられる案件の危険度と報酬が増加する。
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それを読み、魔王は嘲るように嗤った。
(読む限り、魔物と人間の共生など、馬鹿馬鹿しく思えるが……俺が正しかったのだな……魔法耐性を貫通する術式は、人間の魔法耐性も貫通できるのか……? ならば、早急に会得したいモノだ)
魔王はさらに次のページへと進む。
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・『試験について』
冒険者になるには、専門の資格を必要とする。
試験は、専門機関による教育を受ける事で受けることができ、独学での資格取得は特例を除き原則不可能とする。
試験は『座学』『技術』『実践』の三観点に分かれ、さらに『協調性』や『精神性』などの項目があり、試験で優秀な成績を残したものは最高でAランクからのスタートが可能となる。
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・『レベルについて』
魔物や人間には、『レベル』が存在する。
レベルの判別方法は専用の魔法があり、それを使用することで確認できる。
努力や日々の成長による魔力量の増加がレベルとして反映し、レベル100の状態が自身のポテンシャルの限界点といえる。
あくまで本人の限界点に相対した魔力量のみを表す指標のため、本人の技量や能力の全てを表す数値ではない。
なので、レベルの高さだけが強さを表しているわけではない。
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(なるほど……レベルという概念は他者と比較しているわけではなく、あくまで自分自身の限界点に相対しているのか……つまり、レベル100の存在は、既に限界点に達しているため単純な魔力量はこれ以上増加させられないという事…………俺の『レベル』は何だ……?)
魔王は、次のページへと進める。
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・『ギルドについて』
冒険者となったら、単独で行動するのではなく、ギルドに所属するのが勧められる。
ギルドとは、魔物と戦闘する資格を持った者が集団を組み、協力する小組織の事。
魔物はとても危険なため、信頼できる仲間と共に依頼をこなす事が必要とされる。
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(魔物というのは、この時代でもやはり人類の敵のようだ)
ここで、魔王に一つの疑問が起こった。
(だが、俺が復活するまでに千年も経過しているのだ。敵対関係を千年も続けるのは、双方にとってメリットが薄いはず…………)
魔王は、ゆっくりと月を見上げる。
そして、火をメラメラと灯してみせた。
(……人間が魔物を殺すのを職業、システム化しているように、魔物も人間を殺す事をシステム化している可能性があるな……それは両者とも正義感によるものか……いや、或いは『娯楽』か?)
「……冷めた世になったものだな」




