第九十七話 どんでん返しの仕方➁
クロノス教本部協会の近くへバイクを止めたクリスは、エマと共に本部へと歩く。
「あ、そう言えばエマ、これあげる」
クリスはそう言ってポケットに入っていた音楽プレーヤーをエマに渡した。
「え、これ良いの?せっかくクリスが見つけたのに」
エマがそう言うとクリスはにっこりと笑って顔を縦に振る。
「全然よき。むしろ聞いてほしい。それ、俺らの世界の音楽も入ってるから。俺のおすすめは、前聞いてた……“バーズ”かな。すごくいい曲だよ」
エマは大切そうにそれをポケットへしまうと、満面の笑みで「ありがとう」と言った。
♢
クリスが教会の扉を開くと、中央の大広間には軍部のほとんどのメンバーが集まっていた。
勿論ロランもいる。
「これは――どういうこと?ルーシー、説明を」
皆の中央に立つリリィが怪訝な顔をして言う。
「今から大事な話があって、皆さんには集まってもらいました」
ルーシーは辺りを見渡しながら誰かを探しているようだ。
警戒したキリがリリィの前に立つ。
そこで、前に出て来たキリとクリスの目が合った。
「クリス……まだ生きていたのか」
キリは片手剣を抜くとクリスへと飛び掛かる。
クリスはそれを左手の剣で防ぎ、右手でリボルバーの銃口をキリの眉間に突きつけた。
「諦めろ、キリ」
クリスがそう言うと、キリもニヤリと笑って言う。
「いや、君もまずい状況かもよ?」
クリスが自分の胸を見ると、キリの持つダガーが心臓すれすれに構えられている。
「あ?テメェは今ここで死ぬべきクソ野郎。大人しくくたばりやがれ!」
「君はクロノスの害だ。ここで死んでもらう!」
二人の怒声が交錯したところで、甲高い声が教会に響く。
「二人共やめて!どうしてそんなことをするの!二人共優しいはずなのに!!」
エマが今にも泣きそうな顔で二人に言った。
彼女は二人の持つ剣の刃を素手で掴むと、二人の体からその切っ先を離した。
当然手は切れ、真っ赤な血が腕を伝っていく。
「キリは私の兄同然の人だし、クリスはすっっごく大切な人。そんな二人が争っているのなんて、私じゃ耐えられない」
エマは血の流れる手をそのままに、頬を伝う涙を拭った。
その一言にクリスは少し力を緩めたが、キリはその片手剣を引き、左手にダガーを掴む。
「すべてはクロノスのために!」
キリが隠し持っていたダガーを振り上げたとき、群衆の中からフードを被った全身黒づくめの男が現れる。
彼はダガーを持ったキリの手を掴むと、そのままキリの手からダガーを奪った。
「落ち着けガキ共。こんな話をするために呼んだんじゃない――」
男はそう言い、ダガーを床に投げ捨てる。
彼がフードを取ると、白くなった右目と、右耳から眉にかけてできた傷が露わになった。
群衆が謎の人物の登場にどよめく。
しかし、二十代前半であろうこの男は、特徴的な姿にもかかわらず誰の記憶にもなかった。
「ジジィ、こいつがクリスだろ?」
男がそう言うと、群衆の中から白髪で筋肉質な老人とその隣に立つキッドが出て来る。
「そうだ。お前はいいかも知らんが、わしはクリス様と呼ぶからな。久しぶりです。クリス様とロラン少年」
老人がクリスとロランに向けて会釈する。
二人共その老人に見覚えは無かった。
――が、クリスもロランも、特徴的な、優しそうな声でそれが誰か分かった。
ロランが戸惑いながらも言う。
「あなたは、僕たちが暗殺組織にいた時、ステティアまで連れてきてくださった、運転手さん?」
「そうだ。二年ぶりくらいか?逞しくなったな。二人共」
老人はそう言うとリリィの方を向く。
リリィはその顔を見ると何故か狼狽え、焦り始めた。
「なぜ、貴方がここに……!」
リリィが怯えるのを見て、老人は忌々しそうに言い放った。
「勿論、ゼリクを倒すためだ」
そこで松葉杖を突いたロータスが皆の前に出る。
「どどど、どういうことだァ!?俺ァ全く意味が分からん。アンタらは誰なんだ?今何のために集められてるんだ?」
ロータスがそう言うと、ルーシーが全員に向かって言った。
「今から、クロノス教と、革命軍は同盟を組みます。最終目標はゼリクの撃破と、新王政国家の樹立。文句はないですね?」
リラが手を挙げる。
「それってつまり――」
「いや、受け付けません。これからよろしくお願いします」
「えぇ……」
「私は革命軍副代表ルーシー。彼が代表のライ・ナスギ。そして直属行動部のキッドとアダム」
ルーシーがそう言うと、白髪老人のライは皆へゆっくりと手を挙げる。
「ワシは因縁へ決着をつけに来た」
ライはリリィにそう言うと、全員を奥の講堂へと誘った。
皆が訳も分からず、全く動けずにいると、リリィが教徒達に彼の後について行くように言う。
キリとクリスは互いに武器をしまい、目線を合わせることなく奥へと進んだ。
♢
講堂にはクロノス教の他部幹部も集め、リリィとライが正面に立った。
「わしから話がある。これはわしらの組織の、今までの話だけじゃない。この世界の真の姿と、吸血鬼と人間との因縁の話だ」
ライは頭をもたげ、口を押さえた後、意を決したように頭を上げた。
「獣人種には辛い話になるだろうが、是非聞いてくれ。そしてクリス、エマ。これは異世界の話じゃない。紛れもない、地球の話だ――」
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――今から時を遡ること、地球史にて……紀元前30万年。
地磁気の逆転や異常な太陽フレア、その他さまざまな要因により、地球上では特異的な環境が形成されていた。
その影響を受けて旧人類、ネアンデルタールから誕生したのが、“吸血鬼”ヘマト種。
彼等は同じく旧人類から派生した“人間”ホモ種とは異なり、自身の生命力を維持するためにホモ種の血液を利用することができる体の構造を持った。
それにより格段な長寿を実現し、ホモ種の約10倍の寿命を持つことになる。
しかしただ一人、その中でもさらに異常な回復力を持った者がいた。
それが、かつての”ゼリク”だった。




