第九十五話 明かされていく真実➀
クリスとルピナ、ロータスは医務ベッドに横たわって馬車に揺られていた。
幌の中で、男三人がむさくるしく並んでいる。
「まさかお前がロランの幼馴染、クリスだとはな」
ルピナはそう言い、クリスの方を見る。
「まっさかお前がロランのチームメイトとはなァ」
今度はクリスがルピナに言った。
二人は顔を見合わせ、フッと笑うとそれぞれ馬車の天井を見る。
その後しばらくの沈黙が続き、クリスはポケットから小さな四角い機械を取り出した。
それにロータスが気づく。
「クリ坊、それ、なんだ?初めて見たな」
ロータスの質問にクリスは嬉しそうに答える。
「たーぶんこれはカシムの発明なんですが、異界から来た設計図を見て作ったかも。どおりで奴が電気を使えるわけですよ。さてさて、これは使えるかな?」
クリスがいくつかボタンを押すと、小さな機械から急に爆音が流れ始めた。
「うるさい!!!」
急な音にびっくりしたルピナがクリスに怒る。
「悪ぃ悪ぃ。イヤホンなしの直スピーカーに改造されてるとは思わなくてよ」
クリスがそう言って少しボタンをいじくると、音が小さくなる。
そこから流れてくるのはカシムの声だった。
「テステス、このスピーカーをアーティファクトの胴体に入れて、いずれ彼が喋れるようにしようと思う」
ロータスは小さな機械に驚いた。
「何だそれ!過ごすぎる!どういう仕組みだ!小人がその中に居んのか!?」
クリスは自慢気に質問に答える。
「まぁ、スピーカーですかね。見た目的に、音楽が鳴ると思ったんすけど……」
クリスがさらにいくつかのボタンを押すと、メニューが表示されて曲名の一覧がずらっと並んだ。
その一番上を押すと、音楽が流れ始める。
クラシックが馬車の中を流れ始めた。
ロータスがもう一度食いつく。
「今度は何だクリ坊!その中に小さいオーケストラがいんのか!?」
クリスは満足げに答えた。
「だから違いますって!へへん。これはウォークマンっていうんすよ。すごくないスか!俺が元いた世k……じゃなくて、本を読んで知ってたんす!」
クリスはロータスにそう言うと、すらすらと曲を変えながら様々な音楽を聴く。
すると、急にイントロに聞き覚えのある曲が流れて来た。
「これ、あれか?」
暫くすると、聞き慣れたボーカルの声がすんなりとクリスの脳に響く。
その曲はクリスが生前、佐藤雄志として生きていた時によく聞いた曲。
洋楽で、佐藤雄志は歌詞の意味が分かっていなかったが、何となくの雰囲気でその曲を楽しんでいた。
それから次の曲にすると、また聞いたことのある曲が流れて来た。
「これも、……これも!」
それだけじゃない。さらに進むと、他バンドや他歌手の歌でも聞き覚えのある曲が流れて来る。
「懐かしい!そうそう、前から、こういう壮大な世界観の歌が好きだったんだ!」
クリスは興奮し、急に鳥肌が立つ。
さらにウォークマンについたボタンをいじくってみると、急に“■生間▲信●”という文字が画面に出た。
クリスはそれに驚く。
「日本語!?え、じゃぁ、これはカシムの発明じゃねぇ。多分、向こうの世界から来たやつですやん!いや、絶対そうだろ!」
クリスが大きい声でそう言うと、ルピナがクリスの頭を叩く。
「……はい、静かにします」
クリスはそう言い、再び画面に目を移すと、そこには邦楽がずらりと並んでいた。
そしてクリスは思わず叫んでしまう。
「すげぇ!!!久々の日本語だ!!!」
ルピナに殴られ、腫れたところをさすりながら、クリスは三度ウォークマンに目を移した。
そこにはあらゆる曲があり、項目を変えればどんな言語の曲だって入っていた。
クリスは迷わず日本語を押し、曲名を眺める。
クリスは暫く曲一覧を見つめた後、ニヤニヤして一つの曲を選んだ。
前奏のドラムが鳴り始める。
「あーこれこれ。クソ、懐かしいな」
ドラムだけが響く中で、だんだんとAメロに近づく。
歌が始まると、クリスはごく小さな声で口ずさみ始めた。
「フフッフフフ―」
ロータスとルピナが驚き、ロータスが聞く。
「クリ坊、初めて聞く言葉だな、それ。地元の言語か?」
クリスは二人の方を向いてにっこりと笑うと、途切れることなく歌い続ける。
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クリスと繋がれた無線機から流れる曲を口ずさみながら、パソコンの画面をじっと見つめるエマ。
「ルーシーさん、この”パソコン”、どこで手に入れたんですか?」
エマが聞くとルーシーは悩んでから言う。
「多分すぐにわかるよ。やっとここまで来たんだから」
ルーシーは意味深なことを言うと、静かに部屋を出て行った。
エマは一人になった部屋で歌を口ずさみ続ける。
「ふふふふん」
♦
クリスは目を瞑り、前世の記憶を辿っていた。
仲の良かった少女にいつも病床で聞かせてたこの歌。
くじけない気持ちを与えてくれる、暖かいこの歌。
何となく、この歌を歌っていればもう一度彼女と会えるのではないかという気持ちになる。
「ロータスさん、これファイト!って曲です」
クリスの頬を一筋の涙が流れ、彼は一番を歌い終わった。
そしてクリスは目を擦りながら言う。
「思い出した。俺、ゆーじだ。前世の名前、雄志だ。で、あの子はナッちゃん?なっちゃん、夏ちゃんだ!ハハハ。何か、久しぶりに会えたみたいで嬉しいな」
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エマは無線から流れる曲を無意識に歌っていたが、それが前世で何度も聞いた曲だと分かる。
「……ト!!」
そして無線機から流れるクリスの声。
“夏ちゃんだ。ハハハ。なんだか、久しぶりに会えたみたいで嬉しいな”
「え、い、今何て?――なっちゃん?――ゆーじ!?」
エマは愕然とした。
――どういうこと?
まずその疑問が来たが、彼女の脳内には、程なくして暫く思い出すこともなかった、セピア色の記憶が流れ込んで来る。
それと共に包まれる懐かしさ、感動。
すぐにエマは納得し、改めて確認した。
クリスに惹かれる理由と、これまで感じていた違和感。
バイクを知っていることだってそう。
そして彼女は再確認する。
佐藤雄志、つまりクリスに会いたいという気持ちを。
薄暗い部屋に、パソコンの光だけが浮かんでいる。
その中でエマは、一人、笑いながら泣いていた。




