第八十七話 裏切り者には何を与えるか➀
不可視の弾丸はロータスの右腕を貫き、肉を円形に削り取る。
「ガッ!痛ぇ!んだこれ、わけわかんねー武器使いやがって」
ロータスは地面に膝を付いて、血の出ている右手を咄嗟に抑えた。
「ハハハハハ。時代遅れの馬鹿ども。残念ながら俺らのアジトも、未来も、てめーらにはこれ以上見せねーよ!」
アロンがロータスにゆっくり近づいていく。
右手に如意棒、左手には空気砲が備えられており、首からはクロノス教団のネックレスが掛けられていた。
「ここで一旦ロータスを殺したいけど――」
アロンがそう言ったところで、背後から声が聞こえる。
「待て……そうはさせない」
見るとそこにはロランがいた。
「だろうな」
アロンは空気銃を天に向けると、ロランへ向き直る。
ロランは折れているであろう肋骨を庇ってはいるが、先ほどまでとは違い、目が青く光って犬歯が鋭く伸びていた。
ロランが一歩踏み込んだ瞬間、アロンもそれに合わせて動いたつもりだった。
――が、気づくとロランの、獣化した右手の爪がアロンの首に食い込んでいる。
アロンと獣化ロランだと、その力の差は歴然だったが、それでもアロンは余裕だった。
「おっと。不殺のオリバー班じゃなかったのか?初めてお前の獣化を見たかもな」
それを聞いたロランがさらにアロンの首へ爪を食い込ませる。
真っ赤な血が爪を伝って流れて来た。
「お前、まだ迷ってんだろ」
アロンがそう言うとロランの力が少し弱まる。
「ウジウジウジウジ、何やってんだ。オリバー班が優しい奴ばっかで助かってんだろうが、そんなんじゃやってけないぜ。この世界は全部じゃんけんで決められるわけじゃない」
「分かってるさそんなこと……!」
「殺し合いで決めんだよ。それはお前が一番わかってるはずだ。実際、お前の元相棒も殺人鬼と化してんじゃねーか」
ロランはその言葉に一瞬頷きかけたが、すんでのところでとどまる。
「ロラン君もそう思うよねェ……世の中じゃんけんでみんな決められらんねーのかな。だって暴力、嫌だよな」
アロンがそう言った瞬間、空気砲がロランの方へ向けられた。
ロランが咄嗟に対応するが、既に空気砲の先は、ロランの眉間ど真ん中へ当てられている。
そしてアロンが弾を打ち出そうとした時、直前でロータスが左手で斧を投げた。
さらにロータスが渾身の力で叫ぶ。
「アロン!武器を正確に投擲できんのは、カトレアだけじゃぁないぜ。さぁ来い!」
アロンがすぐさま振り向いた時、投げられた戦斧はすでに目の前まで来ていた。
「テメェ!!!」
アロンはそう言ってロータスに数発空気弾を撃ち込む。
放たれた弾丸は暗闇の中を切り裂いてロータスを襲うが、ロータスには全く見えない。
そのうちの二発がロータスの腹部へと当たった。
「ガハッ、ガ、ウゥッ」
吐血するロータス。
ロータスがその大きなダメージに嗚咽を持らすが、アロンの左前腕を斧が抉った。
左肩からは大量の血が流れている。
「痛ってェェエエエエ!!!!」
そして両者は再び睨み合って叫ぶ。
「「こんの野郎ォォォォォォォオオオ!!!」」
アロンとロータス、互いの叫び声が図書館に響き渡った。
二人が踏み込むと本棚が揺れ、空気が震える。
「テメェをぶちのめすまで、俺はくたばれねんだよ!!」
「やれるもんならやってみろ!!ロータス!!」
アロンが再び空気弾を放つが、ロータスはそれを避けて本棚へと刺さった斧へと手を伸ばす。
「武器の回収が目的かよッ」
アロンはすぐさま振り向くが、ロータスも斧を手に取り、そのまま体を回転させた。
二人の間で如意棒と斧が交差し、金属音を立ててぶつかる。
武器を間にして、彼らは互いの目を覗いた。
恨みに、憎しみに、怒りに満ちた瞳の奥に、朽ち果てた友情の残骸を見る。
「友情ってのは脆いなァ?ロータス」
「そうだな。その点は俺も同意する――だがよ」
「……?」
「ヤンキーってのは仲間に優しく、敵に厳しい。俺を裏切る……その覚悟がテメェにあんのかオラ?」
「ギャハハハ!!お前が?俺を倒すつもりでいんのか?無理に決まってんだろ」
「そう思うか?なら、俺はこの戦いに勝てる――!!」
「やれるもんならやってみゃがれェェエエエエ!!!!」




