第八十六話 クロノス教団内部密偵殲滅作戦➂
「ロラン……!気を付けろよ。君が悪ィ図書館だぜ」
ルーシーによれば、本の貸し出し窓口の奥へ行くとそこに関係者用の扉があり、奥は地下室まで繋がっているらしい。
気味が悪いほどに静まり返った図書館。
その中でロランとロータスはランタンを照らし、最深部にある本の貸し出し窓口を探す。
図書館南棟は二階構造になっており、二階はロフトのように一階の半分だけを覆って、吹き抜けになっていた。
「地下への入り口は、二階を通って奥にありそうですね」
「だな。物を運ぶための通路っつってたし」
ロータスが二階への階段を上ろうとすると、奥の方から扉が開く音がした。
その音に二人は警戒を強める。
「……誰ですかね?……クリス?」
ほどなくして図書館の奥から聞こえて来たのは、聞き覚えのある声。
「おうおうおう。来てたんだ。お前らの所為で俺怒られたじゃんかよ。兄貴がキレてんの久々に見たぜ」
その声にロータスが顔を歪ませた。
「テメェ、どの面下げてここに来てんだ」
ロータスが大きな斧を背中から降ろし、両手で持つ。
ルーシーの斧型アーティファクト程大きくはないが、程よい機動力と、十分な殺傷能力を発揮するロータスの斧は、暗闇の中でも禍々しく金属光沢を放っていた。
「ぶん殴ってやんよアロン!!」
ロータスが怒号を挙げ、階段を一段一段昇っていく。
一方のアロンは背中を見せ、闇夜へと姿を消した。
ランタンを持ったロランは、慌ててロータスの後を追う。
「気を付けましょう。闇の中では向こうが有利です。僕たちがここに来るのは初めてですから!!」
二人が階段を登り切った時、不気味に聳え立つ本棚の間を何かの影が通った。
ロランとロータスが背中合わせに警戒する。
夜の静けさの中で、僅かな足音をロランが聞き分けた。
「右、いや、左から来ます」
ロランがそう言って左側を見ると、本棚の陰から何かが出て来た。
「来た!」
ロータスが斧を振り下ろし、それを真っ二つにする。
大きな音を立ててそれが割れた。
「何だこれ!?」
しかしロータスが切ったものは、金属でできた子供用のおもちゃ。
手にシンバルを持った、ピエロの恰好をした猿がそこで真っ二つにされていた。
動力源であろうものは見られず、シンバルの重さでうまく歯車が回って、勝手に歩いて行く仕組みとなっているようだ。
「クソ。舐められてんなァ、俺達」
「そうですね……味方だっただけに、互いの強さを良く知ってますから」
ロランがそう言った瞬間、ロランの背中に鈍痛が走る。
何かが刺さった感覚ではなく、強く殴られた感覚に近かった。
ロランは膝を付き、後ろを振り向く。
「今確かに殺ったと思ったけど、まさか背負ったマチェットに阻まれるとはね」
そこにはアロンがいた。
手で口元を隠してはいるが、緩んだ目の様子から、どうやら笑っているようだった。
ロランはランタンを床に置き、背負っていたマチェットを両手に持つ。
「僕はまだ君が敵であることが信じられないよ」
ロランが眉を顰め、立ち上がった。
ロータスも振り向き、裏切り者と相対する。
アロンが不敵な笑みを浮かべ、二人を見て言う。
「君達は二人で、俺は一人。そっちずるくね?てかダサくね?」
アロンが如意棒を取り出すと、先の尖った方を伸ばしてロランの方へ向けた。
挑発に乗り、ロータスが一歩踏み込んで斧を振り上げる。
「野郎……たたっ切ってやる!!」
それに対してアロンが如意棒で構え、そのまま振り下ろされた戦斧を受け流す。
如意棒はさらに伸び、後ろにいるロランの脇腹を掠めた。
「ぐぅっ」
ロランが流血する脇腹をそのままに、すぐさまマチェットでアロンへと距離を詰める。
ロータスとロランが同時に得物を振り上げてアロンへと飛び掛かるが、アロンはそれを軽々と避け、再び二人の方へ如意棒を構えた。
「俺の如意棒が火を噴くぜ?」
アロンがにやけながらそう言うと、如意棒を横に振って、そのままロータスの脇腹に思い切りぶつける。
脇腹を負傷したロータスは二階の手すり部分にもたれかかり、斧を地面に突き立て、何とか二階から落ちずに踏みとどまった。
ロータスが一階に落ちなかったのを、意外そうな顔をしてアロンが見る。
かなり劣勢でも、その瞳からは闘志が消えることは無かった。
「そういえばそれ、刺すだけじゃなかったなァ!!後輩だった時のことを思い出すぜ」
ロータスはそう言って、またアロンに飛び掛かった。
二人の間で何度も武器がぶつかり合う。
暗闇の中で火花が散り、猛々しい金属音が図書館に響いた。
そこへロランがマチェットを振り下ろす。
ロータスの攻撃を捌くのに必死となっていたアロンは、ロランのマチェットで右腕を深く切りつけられた。
しかしアロンは近づいたロランの体へ蹴りを入れ、逆にロランを吹き抜けから一階へと付き落としてしまった。
「!!!!」
スローモーションになるロランの視界。
落ちる途中、ロランがぶつかって砕け散った柵の木片がロランに刺さる。
ドッ
さらに、二階から落ちたロランの体が、重い音と共に地面に打ち付けられた。
ロータスが手すりから一階の方を覗く。
「大丈夫か!」
ロランは骨の折れた痛みを耐えながら、無言でロータスの方へ親指を立てる。
「おいおい、獣人プラス人間 対 人間なのに、こっちが勝っちゃうよ?何か悩んでんのかな?ロランちゃん」
アロンはそう言うと、続いてロータスへと如意棒を向けた。
「次は君の番だぜ!!ロータス!!」
ロータスはそれに激怒し、叫び声を上げながらアロンへと立ち向かう。
「うおおおおおおおお!」
アロンは軽々と本棚の上へ乗ると、高い場所から如意棒を振り回した。
ロータスはそれに翻弄されながらも的確にアロンの行く先々へ斧を繰り出すが、なかなか斧は当たらない。
「じゃぁ、こうすんのはどうだ?」
アロンがそう言うと、今度は自分が乗っている本棚を思い切り蹴り飛ばした。
それに連鎖して、次々と本棚が倒れていく。
「クソッたれェ」
ロータスはそう言って本棚を避けた。
雪崩のように溢れ出る本が、地響きを鳴らしながら二階を埋め尽くす。
「これじゃアロンに近づけねぇ!」
二階の本棚が全て倒れた後、埃の舞う図書館の中で、ロータスは遠く吹き抜けの辺りに立つアロンを見た。
「どうした?勢いがないぞ」
アロンがそう言うと、懐から一本の杖を持ちだす。
ロータスには見覚えのない武器だったが、ロランにはそれが何か分かった。
鳩小屋での一件で見た空気銃。
「まずいです!逃げてください」
ロータスと反対側から二階へ上る階段の途中で、すぐさまロランはそう忠告した。
だが、既に空気砲の一発目は放たれていた。




