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異世界転生2257  作者: 自彊 やまず
第二章 教団編
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第二十六話 情報戦はちゃんとしとけバカ➁

 槍の穂先が前へ突き出された。

 ロランの反応がわずかに遅れる。


「――ッ!!」


 肩口を掠め、ローブが裂けた。

 布の下で生温(なまぬる)い熱が広がり、赤い液体が滲む。


 階段を上ってきた敵兵の最前列は槍を持っていた。


「ここが踏ん張りどこだぜぇ、ロラン!」


 クリスが銀製のダガーで穂先を叩き落とすと、乾いた金属音とともに火花が散った。


 だが、この数はさすがに受け止めきれない。

 槍を弾いても、その後ろからさらに槍兵が押し寄せた。


 狭い階段を塞いでいるおかげでどうにかなっているものの、このままでは突破されるのは時間の問題だった。


「わが蒸気鎧(スチームメイル)兵団は吸血族様に雇ってもらっている身。下手な仕事はできんぞお前らァ!!――今まで通り、無敗を貫くのみよォ!!」


 声の主は一歩後ろにいる。


 敵はざっと見て二十人ほど。

 前列に盾役と槍、その後ろに剣持ちが控える、無駄のない配置。


 ロランは応戦しながら、敵ながら整った隊列だと感じていた。


 その時、クリスが懐から何かを取り出す。


「ロラン。このままじゃ押される。一回、目ェつぶってくれ!!」


「了解っ!」


 ロランが短く返すと同時に、クリスは丸い物体を掴んだ。

 躊躇なく、それを階段下へ転がす。


「いくぜい!!ボカァーン!!」


 クリスが叫んだ直後、空気が割れた。

 光が来て、そのすぐ後に音が来る。


――パァァアアアアアア!!


 階段一面を覆う白い光。

 蒸気兵達には、もう何も見えなていなかった。


「何だこれはァッ!!め、目が見えんぞ!!」


「うぎゃあああ!!」


 さらに遅れて、耳が潰れたような感覚が襲ってきた。

 叫び声なのか悲鳴なのかも判別できない音が、階段を満たす。


 ロランは直前に目を覆っていたが、耳への衝撃までは防げなかった。


「何だよこれ、クリス!!」


「なんか……フラッシュバン……ゲームとか、映画とかで見るやつ……つっても分かんない感じだよな」


 クリスは悶える敵兵を前に、リボルバーを構えた。


「ごめん――」


――パン。


――パン。


 短く、乾いた音が屋敷に響く。


 一拍ごとに、何かが崩れる気配がする。

 誰かが倒れ、誰かがぶつかり、誰かが叫ぶ。


 ロランの耳に、ようやく音が戻り始めたころ――。


「ク、クリス……!」


 呻き声の中に、驚きに満ちた声が響いた。


 皆の視界が戻る。


 階段下は混乱していた。

 槍は揃わず、兵士たちは目を押さえ、頭を抱えたまま立ち尽くしている。


「ひ、ひぇええええ――!!」


 いや、立っている者もいるが、床に伏して悶えている者もいた。

 床に伏す者は皆血を流し、激痛に顔を歪めている。


 そしてその隙間を縫うように歩く青年は――クリスだった。


 カツカツとブーツの音を鳴らす。


 手にあるのは、見慣れない黒い塊。

 リボルバーである。


――撃つ。


 敵兵の肩から血が噴き出す。

 隊列は崩れ、兵士は恐れおののく。


「ぎゃぁあああ!!何だこれはッ!!」


――また撃つ。


 引き金を引く動作に迷いはない。

 反動を抑え、ただ淡々と距離を詰めていく。


 殺してはいない――だが、一方的な暴力が彼らを襲った。


 蒸気兵達の肩に、これまで感じたことのない痛みだけが残る。


 不意に、彼らの中の一人が叫んだ。


「ま、魔術だ! 魔法を使いやがったぞ!」


 さらに誰かが叫ぶ。


「一回退け!こりゃぁ……俺達に負える仕事じゃねぇ!!」


 命令と同時に隊列が崩れ、兵たちは負傷者を抱えたまま後退していく。

 混乱した足取りのまま、引きずられるようにして次々と階段の下へ消えていった。


「す、すごい……圧倒的だよ……クリス」


 敵兵が一度退避するとクリスは辺りを見回し、安全を確認してから、ピストルの銃口から出る煙を口でフーっと吹いた。


「ま、俺にかかればこんなもんかな……」


「カッコつけすぎだよ、クリス。気持ち悪い」



♢



 一方のロータスとカトレアは、ラムズスの待つ部屋の前で足止めを食らっていた。


 護衛兵は十人ほど。

 廊下を塞ぐ形で陣を取り、奥には短弓を構えた女がいる。


 無闇に踏み込めば、視線の先から矢が飛ぶ。

 狙いは正確で、牽制のつもりで前に出ただけでも眉間に照準が合った。


「……厄介だな……どうする?」


「牽制します。隙を作るので、距離を詰めてください」


 カトレアは答えると、小刀を数本指の間に挟んだ。

 一本を弓手へ投げる。


 命中はしない――が、弓がわずかに下がった。


「オーケー、ここだなッ!!」


 その瞬間、ロータスが踏み込んだ。

 相手の近接兵が前に出て来て槍を構えるが、ロータスは槍ごと兵士を真っ二つにする。

 敵兵の血がロータスにかかり、鬼神の様な気迫が相手を恐れさせた。


「オラァ!次の犠牲者は誰だ?出てこい!」


 叫びと同時にフロア全体へと圧が走る。


「お前、よくも俺の仲間をォ!!」


 次に立ち塞がったのは、同じ戦斧を持つ男だった。

 互いの巨大な斧がぶつかり、火花を散らす。

 廊下の壁や天井ごと、辺りを全て破壊していった。


 カトレアはもう一度、弓手にダガーを投げるが、相手はそれを見事に弓ではたき落とし、すかさず矢を打ち返した。

 放たれた矢は廊下の中央で戦う二人の僅かな隙間を抜け、カトレアの右頬を掠って飛んでいく。


「……思った以上ですわね」


 頬から血が落ちる。

 弓手は次の矢を番え、狙いをロータスに移した。


 丁度カトレアの位置からでは敵が邪魔で、矢の進路へ干渉できない場所で矢が放たれようとしている。


 そして、それにロータスも気づく。


「まずい――」


「避けて――ッ!!」


 相手の弓手は表情一つ変えず、ロータスの頭へ向けて寸分の狂いもなく矢を発射させた。


 恐ろしいスピードで接近する矢に、ロータスは避ける暇も無い。

 矢は動いているロータスの眉間に吸い寄せられるように、着実に迫っている。


 ロータスも敵の斧と矢を同時に避けようとするが、どうしても矢の軌道上に頭が来てしまう。


 もう手立ては――無かった。


「クソッ!!カトレアぁ!!俺はァお前が――」


 ドスッ。


 血が跳ね、ロータスの顔が赤く染まる。







――だが彼の頭を染めたのは、敵兵の返り血だった。


 矢が突き刺さっていたのは、ロータスと組み合っていた戦斧男のこめかみ。

 弓手が一瞬、理解できずに動きを止める。


 戦斧の男は訳が分からず、味方からの凶刃に弓手を睨んだ。


「……何を……ッ!?」


 そして間もなく、廊下に崩れ落ちる。 


 それを見たカトレアは、艶やかな口元を歪めた。


「私程にもなれば、小刀で人を転ばして……矢の着弾点に頭を持ってくるくらい造作もないです。流石に急ごしらえの作戦ですけど、うまくいきましたね。ウフフフフ……」


 敵兵の足元を見ると、小刀が深く刺さっている。


 矢の進路に干渉できない、味方を動かせない――なら、その間に敵を割り込ませて、敵に矢を当てる。


――それが彼女の戦術。


 矢が刺さったのは、体勢を崩したその一瞬。

 寸分の狂いも無かった。


 これにはさすがのロータスにも冷や汗が伝う。


「……お、おぉ……え、怖ァっ(小声)――いやいや、そんなことやってる場合じゃねぇ!!」


 あっけにとられた敵兵を前に、すぐにロータスが敵の中へ突っ込み、一気に数人ずつ薙ぎ払っていく。




 カトレアも後方から援護し、気づくと部屋の前にいた敵は一人もいなくなっていた。

 

 二人はドアの前に立ち、お互いを見て頷く。


「オラァ!!おうおうおうおう、一芝居やってくれたなァぁあああ!!」


 ロータスがドアを蹴破り、ガタガタと震えているヒッタ派の首領(ドン)、ラムズスを見つけた。

 二人は彼を覗き込み、武器を携えて言った。


「さぁ、私達に洗いざらい、喋ってもらいましょうか。ラムズスさん……?「ラムズスさんよォ!」」



♢



「まずい!こいつ強すぎる!」


「やべぇ……銃弾が弾かれんだけどっ!!」


 同刻、クリスとロランは新たな敵と出くわす。


 怯えきった兵士たちの奥から出て来たのは、厚い鋼鉄の鎧を被った巨漢の狂戦士(バーサーカー)。


 魔法や科学なんて関係ない。

 圧倒的力(フィジカル)でごり押してくる秘密兵器が、彼らの前に立ち塞がっていた。

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