第二十七話 ビサ最強の男➀
怯えきった兵士たちの奥から出て来たのは、鋼鉄の鎧を被った巨漢の狂戦士だった。
何か薬物でもやっているのか、奇声を上げながら襲ってくる。
「見るからにやべー奴が来たぞおいっ!」
クリスが銃を撃っても弾が弾かれ、当たったとしても変わらず奇声を上げてハンマーを振り回す巨漢。
その姿はまるでゾンビの様だった。
ロランのマチェットではまるで相手にならないほど強力な一撃が放たれ、一度戦線から下がるロラン。
二人は完全に攻めあぐねていた。
「ガードしてても、力が強すぎて吹っ飛ばされる!!まずいよクリス!」
ロランが声を張り上げた。
次の瞬間、狂戦士が踏み込んでくる。
横薙ぎの一撃が廊下いっぱいを塞ぎ、避けようにも逃げ場を許さない。
数々の戦闘で血濡れてきたハンマーが、また新しい獲物を飲み込もうと二人を襲った。
壁に背を打ちつけるほどの衝撃。
床石が砕け、粉塵が舞う。
「ぐあッ!!」
廊下の端から端へ、三階へと続く、次の階段付近まで飛ばされた二人。
「――くぁwsでftgyふじこlp!!!!!」
バーサーカーが謎の言語を叫んだ。
「こいつ頭いかれてやがる!先輩二人はまだかよ!!」
クリスの体力もかなりしんどくなってきた。
息遣いは荒くなり、汗が額に浮かび上がる。
ロランは先輩の姿が見えないのを確認すると、無言で首を振った。
まだ耐える必要があることをクリスに伝える。
それを見たクリスは、ポケットからライターと、一つの鉄塊のようなものを取り出した。
「じゃあ、とっておきの武器を使うしかねぇな!ロラン!」
敵の攻撃を避けつつ、クリスは背負っていた丸い筒に鉄塊を入れて、何やらいじり始める。
「クリス、なぁに……それ?」
ロランが相手の攻撃をすれすれで躱しながら問うた。
「これはロケランってやつで、砲身にアルマト・クータスの石、弾に爺ちゃんからもらった弾丸詰め込んで作った、コスパの悪い武器!」
「な、何を言ってるのかわからないよクリス!わかるように言ってくれ!」
「ま、カウントを始めたら下がってくれたらいい――はずッ!!」
そう言うとクリスは大筒を構え、導火線に火を点けた。
変わらず押されるロラン。
火がチリチリと音を立てながら砲身へと近づく。
「――3」
「やっっぱり……とても僕じゃ相手になってないよ!一度下がるね!」
「――2」
「あsl@mjcるんrbmr!!!!」
「――1」
そして導火線を伝った火が、ロケットランチャーの火薬へと届いた。
「こいつは出力調整なしなんでね……撃てば、最後!!」
クリスは一瞬だけ歯を食いしばり、砲身をがっしりと掴んだ。
――ドォォォォォォォォォォォォオオオオオオンッ!!
刹那、腹に響く爆音と、フロア全体を揺るがすほどの衝撃波。
砲身から放たれた弾は飛び出した瞬間に火をまとい、空気を引き裂きながら前方へと突き進んだ。
原始的な構造ゆえか、火は途中で消えることなく燃え上がり、太い火柱となって廊下を埋め尽くす。
まるで大きな竜のごとく太い火柱が雄叫びを上げながら打ち出された。
「――ッ!!」
敵は巨漢の男ごと吹っ飛ばされ、後ろにいた敵兵も全員爆風に飛ばされる。
なぎ倒された全ての敵兵達。
もう一度起き上がるものは一人もいなかった。
だが――
「……痛ってェ」
爆炎は味方にも容赦しなかった。
砲口から噴き出した火の粉がクリスとロランの腕を掠め、ヒリヒリとした痛みが走る。
二人とも、無言で腕を押さえた。
廊下は瓦礫と焦げ跡に覆われ、先ほどまでの形をほとんど留めていない。
その向こうから、笛の甲高い音と、慌ただしい叫び声が近づいてくる。
――どうやら次の波が来るようだ。
「と、とんでもない武器だね、クリス」
「ホントだぜ、お前らよォ」
その時、不意に二人の後ろから声が聞こえて、ロランとクリスが飛び上がった。
「派手にかましやがって。想像以上の大物ルーキーだったみてーだな」
「「先輩!」」
そこにはロータスとカトレアの姿。
その様子を見るに、ゼリクに関する情報が聞き出せたようだった。
「帰りましょう。表は警官でいっぱいだから、裏口から出るしかないですね」
♢
四人は一階まで下りて、裏口のドアから外に出た。
表口の辺りでは、爆発音に驚いて夜中に起こされた人々の騒ぐ音が聞こえる。
しかし、誰もいないはずの裏口へと出た瞬間、四人はおぼろげながらそこら中に人影があるのが分かった。
「――これはッ。チクショウ!!どんだけ俺達を殺して―んだよ!!」
よくよく見てみると、黒いマントを羽織り、手にサーベルやダガーを持った者たちが何人もいる。
彼らは皆目に見えそうなほどの殺気を放ち、こちらへと冷酷な視線を向けている。
赤い目、色白の肌、そして夜にその真価を発揮する身体能力。
「あらら……吸血族協会直属で動く吸血族の皆さん……ゼリクさんを怒らせすぎましたね……」
カトレアがそう言っている間に、一番前にいた男が身を屈めた。
クリスが次に瞬きをすると、彼はその一瞬でクリスに肉薄する。
数秒、いや、それよりも速い速度――0コンマ数秒で動く刺客。
――人間であるクリスには、目で追えるはずがなかった。
「クリス!危ない!」
ロランが叫んだとき、吸血族の男は既に、クリスの頭めがけてサーベルを振り上げていた。




