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異世界転生2257  作者: 自彊 やまず
第七章 警察庁動乱編
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第百十九話 いろんなきょうだい

 エクスは勝利を確信していた。


 革命軍の幹部を返り討ちにし、本隊は挟撃。

 すべてが――これまでの彼の政治と同じ。


 掌の上だった。


 余裕たっぷりにアダムを見下ろしていたその瞬間、アダムの右手がゆっくりと動き始めた。

 痛みを感じない身体の中で、唯一動かせる指先がピストルのグリップをしっかりと掴む。


「おしゃべりは上手なようだが……実力が伴っていないぞ」


「……俺ァ指さえ動けば十分あんだぜ」


 アダムは残された力を振り絞り、ピストルをエクスに向けて引き金を引いた。

 銃声が轟く。


 弾丸は正確にエクスの右耳を貫き、彼の動きを一瞬止めた。


 その隙を逃さず、アダムは壁を支えにして立ち上がり、再びピストルを構える。


「動かれると……狙いにくいな」


 エクスは右耳を押さえながら後退し、初めて焦りの色を見せた。

 アダムの復讐心が、彼を再び戦いの舞台へと引き戻している。


 誰が見ても、この試合に審判(レフェリー)がいたとしても、彼は負けだった。


 これ以上戦うことを許される状況ではなかった。


「イカれちまってる――ッ!」


 エクスが怖気づいた瞬間、アダムがもう一度銃弾を放った。

 銃弾はエクスのすぐ側を掠め、すぐさま次の弾を装填する。


 一瞬怯んだとはいえ、エクスもこれで引き下がるような男ではない。


「良いだろう……殺してやる!お前を二度と立ち上がれないよう、ズタズタに引き千切ってやる!!」


 エクスがアダムに向かって突進し始め、アダムもエクスに銃口を向けた。


 エクスは迫り来るアダムの銃弾を読み取り、鋭い身のこなしでそれを弾いた。


 金属音が響き、弾丸は壁に当たって跳ね返る。


 二発――三発――。


 そのまま勢いを保ったエクスはアダムに飛びかかり、彼を地面に殴り倒した。


 やはり手負いの人間程度では吸血族(わたし)に勝てない。

 エクスは心から、そう思った。


「虫けらめ……ッ!!笑わせてくれる」


 エクスは勝利を確信し、その邪悪な笑みを浮かべる。


――しかし、アダムの目には別の物が見えていた。


 この戦いはアダムの勝利で終わる。

 それをアダムは分かっていた。


 何故ならエクスが拳を振り下ろし、アダムの頭を砕かんとするその刹那。

 警察庁廊下から銃弾を放つクリスの姿が見えていたからだ。


「……クリス」


 あと数秒遅ければアダムは死んでいただろう、まさに奇跡とも言える救いの手。


 だが、アダムが見ているのはその救いの手でもない。

 自身の体へと無数に絡みつく、真っ黒な手の数々だった。


――ライの手、ランファンの手、リリィの手。今まで殺してきた相手の手。戦友たちの手。


 アダムの心は既に限界だった。

 いっそエクスの一撃で死のうと思っていた。


 ライやランファンの手は、愛情も、彼らのエゴも、何もかもがぐちゃぐちゃになった最も醜い手。

 リリィの手は、アダムの人生を狂わせたマッドサイエンティストの手。

 そして、これまで命を奪ってきた吸血族達、そして戦場に送り出してきた友からの、呪いの手。


 それらすべてがアダムを、アダムの人生を拘束し、雁字搦(がんじがら)めにしている。


 これだけじゃない。生きているだけで全てが煩わしい。苦しい。自分の心に何も詰まっていないことが自分を苦しめる。


――俺を、解放してくれェ!!




パァァァァァアアアン!!!!!




 エクスのこめかみを銃弾が貫通し、そのままエクスが地面に倒れる。


「アダム!」


 クリスの叫び声が警察庁に響き、彼はすぐさまアダムの下へと駆け付けた。


「助かった、クリス……救いの一手は完璧なタイミングだな」


 壁にもたれかかったアダムは素っ気無くそう言ったが、クリスは彼の目を真っ直ぐ見て言った。


「まだ死なれちゃ困る……あんたには」


「だろうな。新生ビサ王国設立には俺達が――」


「違う!!違うに決まってんだろ!!」


「……」


「俺はアンタの事、まだ何も知らない。でも、アダムが……兄貴が本当に俺のことを案じてくれているのは分かるから」


「クリス……」


「だって家族……でしょ?俺はそう思ってるよ。俺をこの世界に一人にしてほしくないし、兄貴を一人にもしたくない」


 そう言われた瞬間、アダムの瞳からぽろぽろと涙がこぼれ始めた。


 アダムを掴んでいる黒い手は、未だ彼の首や腕、腹や脚にしがみついている。

 だが、それとは反対側。

 彼の背中には、彼を包むようにして一対の光り輝く手が巻き付いていた。


 アダムは恥ずかしがり、フードを深く被る。

 一方のクリスは頭をポリポリと掻いた。


「兄貴って……なんか照れ臭いわぁ……言ってはいるけど……なんかねェ」


 それを聞いたアダムは照れ臭そうにクリスの頭を撫でると、クリスに言った。


「ありがとうな……ありがとう……クリス」




 義兄弟による感動の瞬間だったが、クリスが何かを感じ取る。

 倒したはずのエクスから、邪悪な気配が沸き起こった。


「アダム、その傷じゃ流石に無理。後は俺が決着をつけるから廊下へ……!!」


 クリスがアダムを担ごうとしたその時――アダムがスッと一丁のピストルを差し出した。


「これを使え。お前の銃じゃあいつの装甲を貫くことはできねぇ」


 黒く、そして簡素なつくりのリボルバー銃。


「……このピストルには着弾と共に爆発し、奴の装甲を破れる銃弾が一発。俺は念のため持って来たコイツを使ってやれなかったが、お前なら――」


 クリスは頷くと、アダムからその銃を受け取った。


 そしてクリスがエクスの方を向くと、彼の体から赤黒い繊維の様なものが現れ、うごめいているのが見える。


「エクス、テメェは俺が……クリストファー・ブレイブハートが倒す!」





 その頃、サンダーはアレックスと対峙していた。


「のこのこ現れるとは、頭がお悪いようで。兄、いや、姉と呼ぼうか」


 切断された片手に布を巻き、片手に手錠をかけたサンダーは、警察庁“旧ベンヌ城”の堀に掛かった橋の中央に立っていた。

 橋の石畳は雪に覆われ、足元が滑りやすくなっている。


 冷たい海風が吹き抜け、粉雪が舞い上がり、二人の間に一瞬の白い幕を作る。

 雪の降りしきる中、海風が軽い粉雪を舞わせていた。


「何をしに来た。僕は僕の居たい場所に居るだけだ。君に関係ないだろう?」


 アレックスが白い息を吐きながら言った。


 彼女は気丈に振舞っていたが、小さく震える肩を両手で抑えていた。


「お前は、痛みを知らない。愛も知らない……そんな兵器がこんなところで何を?何を学習した?どうあがいても、お前は“ヒト”じゃないんだぞ。さぁ、私と共に兵器へと戻ろう」


 サンダーはアレックスに手を差し伸べた。

 その手は冷たく、雪の中で青白く見えた。


 しかし、アレックスはその手を無視して、マスケット銃を彼の眉間へと狙い構える。

 銃口からはわずかに蒸気が立ち上り、冷たい空気に溶けていく。


「僕は人を愛す痛みを知っている。そして、これを知った今の自分を否定したくないッ!!」


 それを聞いたサンダーは手を下ろし、今度は右手でダガーナイフを取り出して言った。

 その刃は雪の光を反射し、冷たい輝きを放つ。


「そう言うと思ったよ。まぁ、最終的に、今からする私の行動は変わらない。カシム様から命令されているからね、失敗作を殺せと」


 アレックスは引き金を引き、銃弾を放った。

 銃声が橋の上に響き渡り、雪の静寂を切り裂く。


「ごめん……弟……!!」


 しかし、サンダーはその銃弾の動線に合わせてダガーを振り、軌道をずらした。

 弾丸は橋の石畳に当たり、火花を散らして消える。


「弟……ではない」


 サンダーがアレックスとの距離を一気に詰め、小さなダガーを躊躇なく振り下ろした。

 その動きは風のように速く、アレックスは即座に身を引いた。


――が、ダガーの刃先が彼女の肩をかすめ、鮮血が雪の上に滴り落ちた。


 雪が赤く、黒く染まった。


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