表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生2257  作者: 自彊 やまず
第六章 ルバモシ王家過去編
104/131

第百一話 出航

 途中エクス軍に追われながらも南端へと辿り着いた三人。

 彼らの前には、錆びついてボロボロとなった船が現れた。


 帆も波風にさらされて劣化しており、もっと良い船があったのではないかとランファン、ハンスが話すが、そんな贅沢を言っている暇も無い。


「心もとないですが……これに乗るしかないですね」


「そうだな――待て、ハンス。ライが来たぞ」


 ここでライがハンス達に追いつき、息を上げながら彼らの前で止まった。


「陛下は、ご無事か?――大丈夫そうだな」


 クリスはすやすやと寝息を立てている。

 ランファンは彼を抱えたまま頷いた。


「行こうぜ、あの船に乗るっきゃねぇ」


 よく見ると、甲板には怪しげな若い女性が立っていた。


 恐らく彼女がリリィなのだろう。

 彼女が三人に気づくと、上品お辞儀をして見せた。


 三人は船に乗り込み、すぐさまルバモシを離れる準備に入る。

 大臣の三人は自己紹介を後にして、黙々と作業を始めた。


 もはや彼らは、互いに互いを信用するしか生き残る道はないのだから。


 リリィは目を閉じた小さな国王に会釈すると、周囲へ聞こえるように言った。

 

「この方がクリス王ですね。私、カムチャツカ・リリィは前国王からお話を聞いております故、何なりとお申し付けください」


 リリィは船のエンジンを付けながら、簡単に自分が何者なのかを説明した。


「皆様、私はクロノス教教祖、リリィと申します。先代ジョージ王から、教団の資金を使い、クリス様が再び国王になられるまで補佐するよう命ぜられました。これからよろしくお願いいたします」


 そうして彼らは、リリィによって船の奥へと招かれた。


 船のエンジンが本格的に動き出すまでの、わずかな時間。


 ハンスは船室でジョージからの指示書を最後まで読み、あとはリリィに任されていることを知る。

 そしてリリィに行き先や計画を聞くと、リリィからある程度の説明があった。


 リリィによると身を潜める場所は“旧日本(ジャパン)”という場所であり、大陸東端の島らしい。





「ジャパン?聞いたこともないぞ……本当に大丈夫なのだろうか」


 ライは本当にそんな場所まで行けるのかと不安になっていた。


 ライは皆と別れて自分の船室に入り、巾着にあったジョージからの手紙を出す。

 中にある四枚の内から、自分に向けられた一枚をテーブルに広げた。


 揺れる船の中、弱い光を放つカンテラの下で、前屈みになって一文一文読み進めていった。


 力の籠り、武骨でありながら綺麗な字。

 職務中は気が付かなかったが、まさにジョージの性格そのものというような字の書き方が、ライの口角を少し上げる。


 静かに、ゆっくりと時が流れた。






 ライは最後の一文を読み終え、椅子に座って、背もたれにどっしりと体重を預けた。

 僅かな期間ではあったが、共に修羅場を乗り越え、かつ最も尊敬する存在からの別れの言葉は、ライの胸に深く、重く沈んでいった。





 ライは暫く余韻に浸ると再び甲板へと戻り、鼻水を拭いながらハンス、ランファンとリリィに話しかけた。

 どうやら何か揉めているらしく、なぜかランファンが困った顔をして誰かに話しかけている。


「どうして付いて来た!駄目だ。君はここにはいられない。今すぐ帰るんだ」


 ランファンの向く先には、まだ五歳くらいの少年がいた。

 ライにはその顔に見覚えが無く、リリィも困っていたが、ハンスが二人に説明する。


「彼はアダム。ジョージ公の弟、スリーリーブス・ブレイブハートの息子。一応王族ではあるが継承権はなく、生まれてすぐに病で父親を亡くし、安全面の理由からランファン邸で育てられていた。で、彼がこっそり私達に付いて来てしまったようなんだ」


 リリィが首を傾げて大臣三人衆に聞く。


「この子の……お母様は?」


 ハンスが答えた。


「すぐ祖国のイーリス皇国にお帰りに。政略結婚でしたからね」


 アダムはランファンが直接育てることは無かったものの、彼にとって乳母が母であれば、ランファンが姉のような存在で、冷たい実の家族と違いよく慕っていた。


「ランファンさん!おねがい。ぼくころされちゃうよ。ぼく王族なんでしょ?」


「分かってる。でも、この旅だって途中で死ぬかもしれない危険な旅。お前を連れて行くわけにはいかない」


 ランファンがそう言うと、アダムの顔がくしゃっと崩れる。


「えーん。ひどいよランファンさん!かぞくだとおもってたのに!」


 しかしランファンはアダムを抱き上げて船から降ろそうとする。


「このままその道をまっすぐ行けば帰れる。この地は私達と行くよりも安全なはずだ。信じてくれ」


 しかし、その途中で岸にある茂みから一人の男が出てくる。


「おい、いたぞ!あれがハンス一行だ!間違いない。このウラギ様が言うのだから間違いなァい!!」


 男は大声でエクス軍を呼び、その声に呼応して奥からたくさんの松明が近づいてきた。


「あーもう!!アダム、いい子にすると約束しろよ?」


 ランファンはそう言うとアダム、クリスを船室に入れる。

 すぐさまハンスが、全員に出航の合図を出した。


 クロノス教から助っ人としてきた三人の船乗りがアンカーを巻き上げ、帆を広げる。

 ライは迫りくるエクス軍に弓矢を放ち、僅かながらも牽制した。


「早く出してくれ!」


 ライがそう叫ぶと同時に船は離岸し、深夜、真っ黒な大海原へと進み始めた。





 道中様々なトラブルがありつつも旅は進み、一行はユーラシア大陸に到着、そして上陸した。


 そしてさらに、しんしんと雪の降るユーラシア大陸の山中まで来たときのこと。

 始め三人はリリィを信頼していなかったが、長く旅を続けていく中で、段々互いを信頼するようになっていた。


 先頭で、リリィが馬に乗りながら言う。


「ここも十分寒いですが、ここから先はさらに気温が下がり、高度も上がって過酷な環境になります」


 ハンスはクリスを抱え、熊の毛皮でできたコートを羽織って馬に乗っていた。

 乾燥してカサカサになった唇を動かし、リリィを誉めた。


「君は何でも知っているんだな。見たところ私よりも年下のようだが、大したもんだ」


 リリィはそれに答え、にこりと笑った。


「ありがとうございます。知り合いが多いんです。それで沢山の情報が私に」


「そうか。多くのものに慕われているんだな」


「――それと、言い忘れていましたが、これから行くのは旧日本という場所の中でも、私が以前お世話になった病院があるところ。そこまで行けばビサ軍も来ないかと」


 少し後ろから付いて来ているランファン、ライとアダムは、現地の荷物持ちに急かされながらも、馬の操作に手間取りながら一生懸命山を登っていた。


 ハンスはリリィに、さらに問うた。


「君は何故、私達を補佐する?この質問はこれまで何度も聞いてきたが、いつだってはぐらかされてきた。そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」


 リリィはしばらく考えると、馬を止めて言った。


「私には二つの夢があります。一つは私の病を治すこと。これは、旧日本にある病院が稼働していれば叶うかもしれません」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ