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異世界転生2257  作者: 自彊 やまず
第六章 ルバモシ王家過去編
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第百話 王位継承

 事件はその夜、起こった。


 何者かがジョージの家に火を放ったのだ。


「国王陛下!!生きておられますか!国王陛下!!」


 大臣の三人や警備兵が駆け付けたが、既に木製の家屋は炎に飲み込まれていた。

 火の手は天にも昇る勢いで燃え盛っている。


 火の音は轟音のように響き渡り、時折木材が爆ぜる音がその中に混じっていた。


 大臣たちはその光景に一瞬呆然と立ち尽くしたが、すぐに火消しを指示し始めた。


 ランファンが真っ先に家へと入り、火傷も厭わずにブレイブハート一家を探す。


「陛下!陛下!どちらにいらっしゃるのですかァ!」


 ランファンが叫ぶと、奥からジョージの声が聞こえて来た。


「ここだ……こっちへ来てくれ」


 ランファンが書斎へ行くと、業火の中でジョージ、アリス、クリスが床に伏せている。


 さらに近づくと、ジョージの足には焼け落ちた家の梁がのしかかっており、アリスはすでに気を失っていることに気づいた。


「ランファン……すまない。私はこれまでのようだ」


 パチパチと炎が弾ける中でジョージが言うと、クリスをランファンの方へ差し出す。


「そのようなことを仰らないでください!!まだ希望はあります!私がお救い致しますので!!」


 しかしジョージは優しそうに笑うと、ランファンにクリスを託し、一つの巾着袋を渡した。


「こうなった時のために、一つ考えておいた。家に火が放たれることは想定内。城を建てられるほど金がないのが、ここで裏目に出るだろうと……な」


 そしてジョージは、おそらく既に一酸化炭素中毒となっているであろう、意識を失ったアリスの頬を撫でた。


「すまない、本当にすまない。アリー、クリス。君らを守れなかった。国民を優先せずに、君たちの命を優先すればよかった。これが私の最大の後悔だ」


 ジョージは小さなクリスの手を握り、目を瞑って言った。


 暫くして、意を決したように目を開く。

 そして言った。


「しかし、ここまでくれば、私は私の役割を全うするのみ。行け!ランファン!君はライ、ハンス、そしてリリィを頼り、生きろ!!そして、我がブレイブハート家を、ルバモシの地に、再び返り咲かせるのだ!只今から、ルバモシ国王を、このクリス・ブレイブハートとする!!!」


 ジョージはそこまで言うと、クリスの手を離し、ランファンを押して書斎から突き飛ばした。


「国王!!アリス様!!ジョージ国王!!!!!!」


 ランファンの悲痛な叫びがこだまする。

 同時に書斎の壁が崩れ、燃えるブレイブハート邸は一瞬で半壊した。






 クリスを抱えたランファンは家から脱出し、倒れたところをライとハンスに支えられる。


「ランファン!無事か!」


 ハンスが心配そうに顔を覗き込む。


 煤にまみれたランファンは、か細い声でライとハンスに言った。


「ジョージ上皇は……クリス陛下に譲位なされた」


 それを聞いた二人はぐっと涙を堪え、すぐにクリスの小さな手の甲へと口づけをする。


 そして言った。


「「陛下。この命に代えて、貴方をお守りいたします!!」」


 近くでは国民が集まり始め、たくさんの人々が悲しみに打ちひしがれている。

 ブレイブハート邸が燃えるその様は、国民の目に、痛いほどに焼きつけられた。


 三人がジョージに渡された巾着を開けると、そこには四枚の紙があった。


 一枚はこれからすること。


 後の三枚はそれぞれへの感謝や、長所短所がまとめられており、これから三人がどんな風に生きてほしいかが綴られていた。


 ハンスが指示書を広げ、最初の部分を声に出して読む。


「私に何かあった時、まずは国民に譲位したこと、暫く亡命することを伝えなさい。そしてすぐに南の波止場にいるリリィと合流せよ。このとき、リモン、ウラギに誘導されても乗ってはいけない」


「最近顔を見なかった二人……なんという洞察力だ……」


「どちらがエクス軍と通じているかはわからんが、どちらかがいつか私の家に火を放つはず。それまでにエクス軍との交渉が済んでいることを願おう」


ランファンはそれを聞き、ゆっくりと幼子クリスを天に掲げた。


「この方が、ルバモシの王、クリストファー・ブレイブハート様である!私たちは一度亡命し、再びこの地へ戻ってくる。それまで、どうか、耐え忍んでくれ!私たちは常にルバモシのために行動すると誓おう!!」


 その時、民衆がざわつき始める。


「どけどけ!!テメェら!!ジョージ派の首は俺が全部獲ってやんだよ!!」


 人混みを押しのけて現れたのは、ルバモシ王国“元”家臣――リモンだった。

 分厚いビサ帝国性の防寒コートを着込み、両手でグレートソードを構えている。


 その正面へと、ライが一人立ち塞がる。


「ここは私に任せてください。ランファンさん、ハンスさんは陛下を連れて港へ」


「「了解」」


 ライはレイピアを腰から振り抜くと、その細く鋭い切っ先をリモンへ向けた。


「新入りかァ。本来ならそのポストは俺のものだったはず!!実力でめっためたにしてやらァ」


 リモンが踏み込むと同時にライが上体を反らす。

 グレートソードは空を切り、代わりにレイピアがリモンの左腕を突き刺した。


「グぁッ!!」


「その程度か……リモン。口ほどにも無いな。貴方の方が訓練所では先輩だった覚えがあるが……」


「この野郎、言わせておけばッ!!」


 リモンは再びグレートソードを振り上げ、コートの上からでも分かる剛腕によってライの頭上に振り下ろす。


「――ッ!!」


 ライは辛うじてレイピアで受け流すが、武器自体の強さはまるで違う。

 衝撃が腕に加わり、体が後方に弾かれた。


 リモンは歴戦の猛者。

 ルバモシ島周辺の海賊を制圧してきたブレイブハート王家の右腕だった。


 彼がこの隙を見逃すはずがなかった。

 さらに踏み込んで、グレートソードを横に薙ぐ。


 これがトドメになる――リモンはそう確信した。


 民衆が目を抑え、ライの身体が半分になるのを視界から避けようとした。


――だが、グレートソードはライの身体には届かなかった。


 代わりに、ライのレイピアがリモンの心臓に突き刺さる。


 一瞬の出来事であった。


「リモン、貴方の敗因は力に自信があることだ。他にも磨くものは大量にある。戦略性、情報戦、カリスマ性――全てが揃って初めて軍を率いることができる」


「貴様……レイピアでわざと力負けしたように見せ、俺の大振りな攻撃の隙を突いたのか……」


「海賊を相手にするのと、国を相手するのとでは違う。時世を見誤り、忠誠を貫けなかった自分の心を……恨むのだな」


 ライがレイピアを引き抜くと、血が噴き出してリモンが倒れた。


「……ッ!!」


 地面に伏したリモンへレイピアを傾け、祈りの言葉を呟くライ。

 やがて後方に迫る火の手を一瞥した彼は、刀身に付いた血を振り払うと、島の南へと向かって走り出した。


「国王陛下をお守りするため……急ぎ後を追わねば――!」


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