第94話 ケージの日常 その2
新しい仕事場なんで、当たり前だが新しく覚えることが多い。
技術的なことは事前に勉強できるが、業務のことは現場のルールや伝統があり、その場でしか理解らない事が多い。
そりゃ、年下にもペコペコしながら教えてもらったりしているさ。
でも、仕事に年齢は関係ないと思っている。
要するに俺が、《こいつすげー》と思えるかどうかだ。
勿論、教えてもらっている限り、相手の方が知識と経験があるということで、少なからず《こいつすげー》となっている。
しかし、頭のスペックも学歴も低い俺は、何故かそこそこ仕事に関しては優秀だ。
モウスグ、そこらの先輩方を抜いてしまうだろう。
でも、横暴になったり威張ったりせず、腰を低くペコペコしていくことにしている。
いつまでも初心を忘れるなということだ。
さて、ケージの日常は何処へ行っても同じような展開になってしまいますね。
六歳の幼女にも殴り殺されるケージは、脱出のタイミングを見計らっています。
頑張れ、ケージ、そして俺。良いアイデアが思いつきますように。
早朝、持ち回りで男娼館、娼婦館、中央館を掃除する。
ちなみに中央館とは男娼、娼婦、その他従業員の居住場所だ。
今日はその中央館の掃除当番。
あ、ちなみに自分がマダムと使っていた部屋は俺専用の部屋で、まだ売り出される前の男娼たちが専属で掃除してくれている。
うん、流石はエース級の俺、待遇が良いぜ!!
「イブリット、おはよー」
埃である針を抜かれてしまったハリネズミ族のイブリットは人族を恨んでいる。
当たり前の話だ。
しかし、同じ性奴隷で気さくなケージには、少しだけ警戒心を緩める。
「お、おはよ……」
「早く、掃除終わらせて、良い飯食べようぜ」
ビュッフェスタイルの朝食なのだ。
早く掃除を終わらせれば好きなものを好きなだけ食べられる。
「う、うん……」
イブリットは必死に掃除するケージの後ろ姿を見つめた。
最初イブリットはケージのことを性行為好きの変態でエース級だとか言われて、天狗になっている嫌な奴だと思っていた。
だけど、掃除は手を抜かず誰よりもしっかりやるし、ウダウダと遅い自分を責めたりせずに、さり気なく手伝ってくれたのだ。
「俺さ、叶えたい夢があるんだ。いつか館を出て探したい仲間がいるんだ」
イブリットは困惑する。
何を言っているのだ?と。
性奴隷が生きて館から出るには、誰かに買われるくらいしかない。
後は、商品価値が無くなり処分されるか、性病で死ぬか……死んで生ゴミとして捨てられるだけだ。
もしかして、ケージは知らないのだろうか?
知らないなら教えて……いや、もしも知らないのなら、絶望を与えるのは可愛そうとイブリットは思った。
「私も……チココリという妹がいたの……」
うん?
チココリ……。
何処かで聞いたことが……。
ケージは腕を組んで考える。
「あっ、思い出した!! ハリネズミ族のチココリ……。ストゥーピッド島、小都市リゼンダの子爵ブルシュマンさんが、人族から救い出して保護しているはずだよ」
「えっ!?」
興奮したイブリットはケージに詰め寄る。
もしも針を抜かれていなかったらケージは串刺しになっていただろう。
まさか妹の居場所が理解るなんて……。
でも、性奴隷は生きて館を出られない。
「妹は……安全なの?」
「うん。他にも保護している子が沢山いるっぽいから」
「よ、よかった……」
イブリットは泣き崩れてしまった。
そこの運悪く、イブリットを迎えに来たメイと目が合った。
「こらっ! イブリットを虐めちゃ駄目でしょ!!」
「ち、違うって……」
ぐふぇっ!?
俺は強烈な右ストレートを食らって意識を失う。
またこの展開かよ……。
いい加減、このパターンは止めてくれ……。
俺は夢の中で、ノディールと再会した――
ノディールのいるストゥーピッド島は、丁度夜らしい。
夢は夢でも、確実にノディールと意識が繋がっていると実感できた。
「ケージ、ケージにゃ!?」
「うん、久しぶり。何だか恥ずかしいな……」
「ど、何処にいるにゃ……」
「えっと、フロント大陸の……確か……」
「それは知ってるにゃ!!」
「えっ? 知ってるって? 何で?」
「にゃ!? 何でもニャイ!! それよりも……」
「……」
「ケージ!? どうしたにゃ!?」
「……」




