第87話 シーリスとアルベリット
隣人。
壁一つ隔てて僅か数メートル以内にいる謎の生物。
そんなに生活音の気にならないアパートに住んでいますが、
朝お弁当を作る時間に出て行き、帰りは深夜近く。
一体、何をしているのかと気になったりします。
他にも、一人暮らし用のアパートに複数で住んでいたり、
日中もずっと部屋にいたりして働いていないの?とか……。
さて、ケージとロジーナの再会は近づいています。
もう少しの辛抱です。
永遠の一秒の中で、アルベリットは諦めたように術の発動を停止させた。
「うん、キミは何者ですか?」
「私は……ごめんなさい、制約で話せません。嘘ではありません……」
人族が時間停止などという力を行使できる理由は、神か悪魔が干渉している事以外あり得ない。
ならば……制約がかかっていることも理解できる。
「そう、ならいいや。それとボクは巷で有名な悪魔さ。とある人に頼まれて、そこのソフィアを保護しに来たんだよ」
「あ、悪魔……。ならケージという少年の居場所を知っていますか? 私達はケージを探しているのです」
「う〜ん。顧客情報だからなーっ。言えないや。メンバーを見れば、アンナ・ハーリンの関係者が多いし……信用ならないんだけど?」
直接、アンナの関係者ではないアルベリットだったが、一纏めに見られても仕方ないと思った。
「理解ってます。確かにアンナ・ハーリンの関係者に依頼されました。ですが……」
「裏切ると? 彼はただの性奴隷だよ? そんな価値はないけどね」
確かにアルベリットにとって、ケージのことは殆ど知らないが。
「はい。ですが彼には何かがあると……」
「ふ〜ん。で? ペチタはボクを殺そうとしているけど? 戦うなら手加減できないよ?」
この悪魔には勝てない。
必死にペチタを生かす方法を必死に考える。
違う、考えるべきは、もっと他にもあった。
「ロジーナを知っていますか?」
「うん、知ってるけど?」
ロジーナの現状を言葉に出すだけで心が痛い。
正直、ロジーナのことも知らないが、あのような少女が瀕死の状態で、ケージに会いたいがため命を繋ぎ止めている姿は心を打たれた。
「あの洞窟の奥、触れれば消えてしまいそうな命……。そんな状態で必死に生きています。恐らくケージに会いたいがために……。きっと会えば満足して死んでしまうでしょう。ですが……会わせてあげてください……。もう、彼女には時間がありません……」
ゾッとするような殺気が辺りに満ちる。
この少年にとってケージを悲しませる事象は許しがたいものなのだろう。
「うん、わかったよ……。邪魔しないでね」
「はい。ペチタは私が抑えておきます。その間に……」
シーリスは永遠の一秒の中、レッドスコルピオンのアジトである天然洞窟へと姿を消した。
時の流れが元の速さに戻ると、ペチタはシーリスが洞窟の奥に消えたことを瞬時に察した。
「待って。彼はケージの使いと言っていました。それが嘘でも真実でも私達にどうすることもできません。彼が私達を殺さなかったのが、きっと答えでしょう」
ケージというキーワードを聞いてソフィアが目を見開くが、アルベリットとペチタの様子、先程の死神の出現、それらを加味するとソフィアが口を挟んで良い状況ではないことを察たため、二人のなりゆきを見守ることにした。
ペチタは過去に戦った悪魔などと比べられない程強大な力を持つシーリスに絶望した。
何故、これほどの悪魔が近くに居ながら気付けなかったのだ?
いや、存在すら歪めてしまうほど強力なのだろう。
葛藤しているペチタにアルベリットは慰めるように語りかけた。
「彼はロジーナを知っていました。ロジーナの命が尽きようとしていると告げると、世界を滅ぼすのではと思うほどの殺意を放ちました。それは恐ろしいことですが、たった一つの命に対して怒りを思えたのです。彼も命の大切さを知っているのです」
「しかし……」
「はい、彼は悪魔です。ですが悪魔だからと言って、全て滅ぼす対象でしょうか? 私には彼が邪悪には見えませんでした。もし彼が滅ぼすべき存在であれば、私は……命を賭して戦ったでしょう」
双子ドワーフの兄ライズと妹のララが口を開く。
「ペ、ペチタ。シーリスは、シーリスだよ。奴は邪悪じゃない」
「ふっ、私は悪魔に勝ったし!!」
「そこに転がる聖騎士の死体を見ても、お前たちはシーリスが邪悪ではないと言うのか?」
「だって、私達も聖騎士殺したし!!」
「悪魔だからと言って、色眼鏡で見るなということか……。ならシーリスと話してみるか……」
ペチタは天然洞窟へ振り返った。
そこに天空から強烈な光が一直線にレッドスコルピオンの天然洞窟のアジトへ突き刺さった。
「なっ!? 何だ、この強烈な力は!?」とペチタが叫ぶ!!
アルベリットは知っていた。
アルベリットに輪廻転生という呪いをかけた神々と同じ力の波動であることを。
そして、アルベリットは絶叫した。




