第41話 ただ待つ人たちのそれぞれ
「アンナ、駄目だ!! 落ち着け!! 真言教と九尾主義とのいざこざ。手出しすればボレオが巻き込まれる。真言教の恐ろしさを忘れたわけではあるまい?」
冒険者ギルドの受付嬢アンナ・ハーリンを制したのは、なんと冒険者ギルドマスターであった。
「理解ってるわ!! でも……」
「わかってない!! ボレオ最高戦力のペチタ達を異界に飲み込まれた屋敷なんぞに行かせる訳にはいかない! 生きて戻れるかもわからない。初級冒険者の命などと比べる価値が無いことぐらいわかるだろ!!」
「でも……引率者として……ナインもいるのよ!?」
「あいつも冒険者ギルドの受付嬢だ……。引率する時点で……覚悟ぐらいしているだろう」
現在、幽霊屋敷は半壊しており崩れた外壁からは、異界からの瘴気が噴出してて、誰も近づけない状態なのだ。
今は丁度、早朝からクエストに出かけていた冒険者たちが戻ってくる時間である。
戻ってきた冒険者たちは、冒険者ギルドのホール内の空気に緊張感を走らせ、この異様な状況の原因を調べ始める。
「うん、優秀な冒険者たちだ」
ペチタは育ち始めている冒険者たちを見て安心する。
これで自分が居なくなっても、ボレオは安泰だろう。
ペチタは人知れず冒険者ギルドを出ていこうとしたが、ギルドマスターに腕を掴まれてしまった。
「お前、話を聞いていなかったのか? ギルドマスターとして命令する。待機だ」
「頼む、行かせてくれ」
「駄目だ。今は、状況が把握できていない。解決案もない。だが、何か行動を起こすときに、お前がいなければ全てが終わる」
ペチタは無言のまま、アンナの隣に座った。
◆
ケージとナデアは、『ノディールの記憶の街』を楽しく観光していた。
簡単に言えば猫の街。
上から見えた赤い石で造られた家や建物も、地上から見れば大小様々なキャットハウスが積み重なったものだった。
一応道路も整備されているが、壁などからは足を乗せる板がはみ出ていて、その足場も道となり縦横無尽、好き勝手にスレンダーキャット族が行き交う。
「やっぱり慣れませんね」
「うん、騒がしいよね。うわっ!? やっぱり。頭の上を通られると怖いな」
”ネコマンマ”により満腹になったケージは、謎の幽霊に観光案内を頼んでいたのだ。
《私、こんな事するために幽霊になった理由じゃないのにゃ……》
「まぁ、どうせ暇なんでしょ? ノディールも何だか頑張ってるみたいだし、俺たちは待つしか無いんでしょ? えっ……」
人族から見れば、スレンダーキャット族は全員が同じに見える。
一度、街に紛れ込んだら特定のスレンダーキャットを探し出すなんて不可能だろう。
だが、ひと目見てわかった。
あれは……ノディールだ。
正確に言えば、ノディールの幼児バージョンだ。
《凄い、何でわかったにゃ。ソシールエイラ・ディエール・ウルズ・ノディール様にゃ》
凛とした輪郭の小さな顔にはっきりとした目や鼻のパーツが配置された……あの顔、ノディールだけはわかった。
しかし、いつものように明るく元気ではない。
何か憂鬱そうでまるで元気がない。
もう一度言う。
元気がない。
「なぁ、王家の血を引き、王位継承権を持ってて、初代のちからも引き継ぐ聖女が、護衛もなしにこんな街中に一人でいて良いのか?」
《問題ないにゃ。国民全員がソシールエイラ様に気付かれないよう注視して見守っているにゃ》




