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終末の鐘が鳴り響く、この空のもとで ~ゲームみたいになった世界で、僕はカードを手に無双……無双は出来てないな?~  作者: 鈴木えんぺら
第1部第1章

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第8話 生存者、味方、そして新たな敵

「篁、ちょっといい?」


「どうした、柊?」


 校舎を探索していたら、柊さんがおもむろに口を開いた。

 柊さんは篁さんに問いかけながら僕を見る。

 何だろう、そのじっとりした眼差し。

 猛烈に嫌な予感がするんですが。


「その……さっきから篁のスカートが……すごい捲れ上がってて」


「なっ!?」


 げ!?

 それ今言うかな、柊さん!


「……」


 篁さんはスカートを押さえて僕から距離を取った。

 ゴブリンを見るときよりも険しい眼差しと、真っ赤に染まった頬に戦慄を禁じ得ない。下手なことを口にしたら、僕はあのモップでぶん殴られるんじゃないか?

 それって、死んでしまうんじゃないか?


「その……前に出て戦ってる篁さんが、スカートを気にしてゴブリンに後れを取ったらマズいんじゃないかなって思ったんですが」


「桧川?」


「すみません、ずっと前から気づいてました!」


 土下座だ。

 それ以外に方法がない。

 こんなことでパーティ解散なんて冗談じゃない。


――でも、仕方なくない?


 ウチの制服、女子のスカートが短すぎるんだよ。

 命がけの戦場だとはわかっているけど、あんなにヒラヒラしてたら目が吸い寄せられるのも仕方ないじゃないか!

 本能だよ、これは……いや、無理だ。この抗弁は死亡フラグだろ。


「ごめんなさい!」


「土下座って、桧川……」


「……まぁ、気が付かなかった私にも非があるか」


 何とか許してもらえた。

 篁さんも柊さんも、体操服の短パンを穿いた。

 幸いと言うべきか、校舎はもぬけの殻だから、余った体操服はたくさんあった。

 ジャージを穿くとか言い出さなくて、本当によかった。もちろんこんな余計なことは口にしない。

 ……という一幕があったりしたものの……


「生存者、なし……か」


 篁さんの声は沈んでいた。

 第1校舎を回ってみたものの、生存者はひとりもいなかった。

 死体を相手に盛っていたゴブリンは一匹残らず叩き殺したし、三人ともレベル3に上がったけれど、気分は晴れない。


「桧川、あれ!」


 憂鬱げに外を眺めていた柊さんが窓から身を乗り出して叫んだ。

 何かあったのかと彼女の視線を追いかけてみれば……モンスターがひしめく外をたくさんの生徒たちが走り抜けていた。

 その先頭には、光輝く剣と盾を手にした男子がひとり。剣を振るってモンスターをぶった切って道を切り開いている。


「あんなにたくさん生き残りがいたのか!」


「先頭は……あれ、一之瀬か?」


「そうみたいだね」


『一之瀬 一輝』くんは、僕と同じ二年生。

 サッカー部のエースで学園一のイケメンとして有名な男子だ。僕の従姉妹の綾香も彼にぞっこんで……それは、別にいいや。


――体育館に向かっている?


 彼らの行き先にあるのは、僕らが目指している体育館だ。

 いったいどこにあれだけの生き残りがいたのか驚きはしたが、今はゴチャゴチャ迷っている場合じゃない。


「僕らも行こう!」


「ああ!」


 急いで階段を駆け下りて外に出ると――ちょうど体育館に向かう生徒の列のど真ん中にぶち当たった。前を行く一之瀬くんの方に行くべきか、それとも……迷う僕の鼓膜を篁さんの鋭い叫び声が貫いた。


「桧川、しんがりだ! モンスターが!」


「しんがり? あ、最後尾ね」


 列の最後尾に目を向けると、篁さんの言うとおりモンスターが追いかけてきていた。ゴブリンじゃない。もっと大柄で、肉厚で、顔は豚。


「オークか」


「ゴブリンがいるなら、オークがいても不思議じゃないね」


「それはそう。柊さん、いい?」


「ここまで来たら、いいも悪いもないよ」


 JKとオーク。

 ……嫌な組み合わせだ。

 篁さんと柊さんは一之瀬くんの近くにいた方がいいかもって考えが脳裏をよぎったけど、柊さんはノータイムで首を横に振った。

 その手に自作の錬金爆弾を握りしめて。

 真っ先に駆け出していた篁さんは、モップの柄でオークに殴りかかって――すぐに飛びのいた。さっきまで彼女がいたところを、オークの長剣が通り過ぎていく。

 その鈍い輝きに言葉を失ってしまった僕。

 でも、篁さんは違った。


「ほう……いい剣を持ってるじゃないか」


 篁さんが獰猛な笑みを浮かべた。

 その剣が欲しいんですね、わかります。


「篁か!」


 列の最後尾は大柄な男子だった。

 金色に染めた髪の毛、細身ながら筋肉質な身体。

 この学校の生徒で彼を知らない人間は、きっといないに違いない。

 ひとりだけ、逃げるみんなと逆の方向を向いている。モンスターと戦っている。さすが。


「護道か」


『護道 竜司』くん。

 見た目はヤンキーっぽいけれど、列の先頭を駆け抜けていった一之瀬くんの親友だと聞いたことがある。『アイツがいると一輝のためにならないのよ』って思いっきり顔をしかめた綾香の姿を思い出して、小さく首を横に振った。


――ん?


 視界に赤いものがチラついた。

 オークが持った杖の先から、炎の矢が飛んでくる。


「桧川!」


「任せて、封印!」


 カードを掲げて魔法をゲット。

 相手の魔法を無効化しつつ手札を肥やすこの動き、本当に強い。

 

「魔法を……桧川、いい技持ってるじゃねーか」

 

「おかげさまでね」


 一度も話したこともない護道くんと普通に話しているのが変な感じだった。

 こんな状況なのに、なんだか笑えてくる。護道くんもニヤリと笑みを浮かべていた。案外彼も似たようなことを考えているのかもしれない。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 名 称:フレイム・アロー

 タイプ:魔法【精霊魔法(火)】

 属 性:火

 ランク:1

 コスト:1

 効 果:フレイム・アロー(対象:ユニット1体)

      ・対象に【火炎:1D】ダメージを与える。


 レアリティ:N


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「1Dって、ランダムかよ」


 1Dは六面ダイスを1つ振って出た目のダメージ、つまり1~6のランダムダメージってこと。しかも火炎属性。固定ダメージかつ無属性のエナジー・ボルトとどっちが強いのかは難しいところだ。

 1Dの期待値は3.5だけど、僕の感覚では2なんだよね。

 ダイスロールは下振れで考えるタイプ。


「桧川、あの剣を持っている奴を魔法で頼む!」


「了解。『フレイム・アロー』起動!」


 掲げたカードから発射された炎の矢が剣を持ったオークにクリーンヒット。オークは炎上し剣を取り落とした。すかさず剣を拾った篁さんが、傍のオークを袈裟切りで一撃。

 オークたちは光の粒子となって、僕のカードに吸い込まれていく。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 名 称:オーク・ソードマン

 タイプ:ユニット

 種 族:オーク

 属 性:火

 レベル:-

 ランク:2

 コスト:2

 攻撃力:2

 防御力:2

 魔法力:1

 スキル:【剣術】レベル1

 特殊能力:なし

 装備品:ロングソード


 レアリティ:N


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「オーク、ゴブリンの倍ぐらい強い感じ!」


「なら、見かけ倒しだな!」


 水を得た魚と言うか、剣を得た篁さんと言うか……突っ込んでくるオークを護道くんとの即席コンビネーションで、見る見るうちに粉砕していく。

 護道くん、素手で殴りかかってるの凄いな。スキルは格闘系かな。

 パッと見た感じでオークとどっちがモンスターなのかわからないと思ったけど、これは言わぬが花。


 ドドドドドド

 ドドドドドド

 ドドドドドド


 何とかなるかも。

 そう思っていた僕らの耳朶を震わせる轟音。

 互いに顔を見合わせ、息を呑んだ。誰の顔にも緊張が走っている。


 ドドドドドド

 ドドドドドド

 ドドドドドド


 迫りくる振動、舞い上がる砂埃。

 先頭は――オークだ。他の雑魚よりもひと回り大きくて、鎧兜に大きな剣を装備している。

 どう見ても上位種です、本当に(以下略


「あのオーク、ランク5だよ! マズいよ!」


 上位種オークのステータスを鑑定したらしい柊さんの声は、今まで聞いたこともないくらい裏返っていた。


――ランク5って、インフレし過ぎだろ!?


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