第6話 ふたり目ッ!
「ふたりだと気分がずいぶん楽になるな」
モップの柄からゴブリンの血を振り払いながら、篁さんが微笑んだ。まったく同感だった。ひとりでゴブリンと戦っていたときと比べるとプレッシャーが雲泥の差だ。仲間がいるって、とても心強い。
リュンクスで不意を突き、篁さんが瞬殺。
つまり――
――僕の出番が、ない\(^o^)/
いいんだよ。
僕は予備戦力なんだよ。いざと言うときのための!
さて、僕たちは今、第3校舎の2階にいる。1階と2階のゴブリンは掃討済みだ。
「パーティ組んでよかったなぁ」
「そうだな。だが……」
篁さんが語尾を濁す。
飲み込んだ言葉は容易に想像がついた。
ここまで、僕たち以外の生存者はひとりもいなかった。
「篁さんのせいじゃないよ」
「……」
この校舎の屋上から最短距離で僕がいた第2校舎まで突っ切ってきた間に命を落とした生徒がいたかもしれない。その後悔が篁さんに重くのしかかっているように見えた。
『気の利いたことを言えれば』って思うけど、僕にはどうにも難しい。
沈黙が、重い。
「……3階に上がってみよう」
「うん」
3階に上がって、足が止まった。
篁さんも立ち止まって、目を細めている。
廊下の様子が今までとは違う。明らかにおかしい。
「なにがあったんだ、これは?」
「……わからない」
近くにゴブリンがいない。いや、まったくいないわけではない。奥の方に1匹いて部屋に向かって杖を振りかざしている。その杖の先端から光がドアに突き刺さった。
――魔法だ!
魔法を使うモンスターは初めてだ。
でも、この3階の異変の原因は、あのゴブリンじゃなさそうなんだ。
ゴブリンの周辺に変な黒いシミ……って言うか焦げた跡みたいなものがある。ゴブリンの魔法が当たったドアには、黒い色は付着していなかった。焦げた跡はゴブリンの仕業ではない。そして、ゴブリンが執拗に部屋を攻撃しているということは……
「他に誰か……いや、生き残りがいる?」
僕がそう呟くと同時に、篁さんが床を蹴った。
リュンクスの【気配遮断】の範囲を無視して距離を詰めたせいか、ゴブリンが彼女に杖を向けて、その先端が光を放って――瞬間、僕の脳裏にさっき読んだ【万象の書】の説明テキストが甦った。
篁さんを追いかけながら【万象の書】から無地のカードを引き抜いて――叫ぶ。
「その魔法、ちょっと待った!」
篁さんに向けて打ち出された魔法は彼女に当たる寸前で光の粒子となって、僕のカードに吸い込まれていく。
「桧川、助かる!」
叫んだ篁さんは、モップの柄をゴブリンの頭に叩きつける。
もの凄く痛そうな音がしてゴブリンは倒れた。
こちらも僕のカードに収まった。
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名 称:ゴブリン・メイジ
タイプ:ユニット
種 族:ゴブリン
属 性:闇
レベル:-
ランク:1
コスト:1
攻撃力:0
防御力:1
魔法力:1
スキル:【古代魔法】レベル1
特殊能力:なし
装備品:木の棒
レアリティ:N
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名 称:エナジー・ボルト
タイプ:魔法【古代魔法】
属 性:闇
ランク:1
コスト:1
効 果:エナジー・ボルト(対象:ユニット1体)
・対象に【3】ダメージを与える。
レアリティ:N
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――これも『対象:ユニット1体』か。
ハイ・ヒールと同じだ。
ゴブリン・メイジはこの魔法を僕らに向けてきた。【万象の書】をひとつのカードゲームとして考えれば、この手の表記は統一されていないとおかしい。
つまり、ハイ・ヒールも僕ら人間を対象にできるはず。
あとで検証しよ。
「桧川?」
「え、あ、ごめん。何?」
「あ、いや……桧川のカード、そういうこともできるんだな」
「まぁね。ちゃんとテキスト読んでおいて良かったよ」
感心する篁さん、照れる僕。
ちなみに同名カードは3枚までしか持てないので、同じ魔法は3回しか無効化できなかったりする。4枚目以降はカード化できないからね。
「それより、篁さん……いきなり突撃はダメだよ」
照れてる場合じゃない。
口うるさいと思われるかもしれないが、これは言っておかないといけない。
悄然とした姿を見るに必要なさそうだけど……万が一のミスが死につながる状況だ。たとえウザがられようとも、言うべきだと思った。
「すまん。考えなしに突撃したのは悪かったと思っているんだが、生き残りがいるかもって、それしか考えられなくなって……」
「……僕こそごめん。その、責めるつもりはないんだ。ただ、危ないなって」
「気を遣わせたな」
「……いいよ、仲間でしょ」
「ふふ、そうだったな。私たちは仲間だ」
この話題はこれで終わり。
ふたりでゴブリンが攻撃していたドアを見た。
頭を上げると……プレートには『化学準備室』と記載されている。
「……外、誰かいるの?」
心臓がドキンと跳ねる。
部屋の中から人の声が聞こえた。
篁さんと顔を見合わせて、大きく頷いた。
やった、生き残りがいた! 来た甲斐があった!
「2年の篁だ。桧川もいる!」
「篁と、桧川?」
恐る恐ると言った態でドアが開かれた。
中から姿を現したのは……僕より少し背が低い女子。
髪は長くて眼鏡をかけている、その整った顔立ちには見覚えがあった。
「柊さん?」
『柊 真都』
化学部の2年生。
図書館で時々顔を合わせたことがある。
……まぁ、話しかけたことは一度もなかったんだけど。
いつもは表情に乏しい柊さんが、身体を震わせ目尻に涙を滲ませていた。
「私以外にも生き残りがいたのか……よかった……」
柊さんは『はぁ~』っと息を吐き出して、顔を上げた。
眼鏡越しにまっすぐに僕の方を見詰める眼差しは超シリアスで切羽詰まった感じ……なんだけど、何だか脚をモジモジさせている。白い太ももが眩しい。違う、そうじゃない。前屈み気味なのもよくわからない。上半身と下半身のギャップはどういうこと?
困惑する僕を余所に、柊さんは桜色の唇を開いた。
「ごめん、いきなりで悪いんだけど頼みがある」
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柊さんは……篁さんと一緒にトイレに駆け込んでいった。
なるほど、これは仕方ないね!




