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終末の鐘が鳴り響く、この空のもとで ~ゲームみたいになった世界で、僕はカードを手に無双……無双は出来てないな?~  作者: 鈴木えんぺら
第2部第1章

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第4話 苦手だなんて言ってられない

 柊さんに背負われていたおかっぱオーガことサクラは、目を覚まして僕らを見るなりパニックに陥ってしまった。


「はわわわわ……」


 身体を震わせ、目を潤ませるサクラ。

 誰もが身動き取れないでいる中、真っ先に距離を詰めたのは王さんだった。彼女はサクラと目線を合わせてニコリと笑みを形作る。


「こんにちは!」


「は、はい……えっと」


「私は白鈴。『王 白鈴』って言うの!」


「こ、これはどうもご丁寧に。私はサクラと申します」


「うん、よろしくね!」


 凄い。圧倒的な陽のエネルギーだ。王さんの輝くような笑顔に当てられて、サクラの緊張が見る見るうちに解けてゆく。

 僕と篁さんはお互いに顔を見合わせて、軽く肩を竦めた。


「子どもは苦手だ」


「僕も。まぁ、そうも言ってられないかな」


 コホンと咳ばらいをひとつ。

 覚悟を決めて、サクラに向かって一歩踏み出す。

 僕の方を見るなり小さな身体を震わせるサクラ。おおう、傷つくやん。


「ちょっといいかな」


「あの、その……」


「僕は『桧川 拓郎』って言います」


「あ、はい。ヒカワさん? それともタクローさん?」


「どっちでもいいけど、拓郎が名前だよ。それで、いきなりで悪いんだけど……サクラさんが状況をどれくらい理解しているのか、確認しておきたいなって」


「それは……」


 沈黙。

 重い、沈黙だった。

 サクラは僕をじっと見て、そっと目を伏せた。

 柊さんがずり落ちかけていたサクラの位置を直すと、胸が大きく揺れた。何気に柊さんは胸がデカい。僕のパーティだとプリムと同率1位ぐらい。順位付けはやめとこ。


「死ね」


「何にも言ってないんですが」


「『目は口ほどに物を言う』って聞いたことない?」


「そんなに言ってましたか、僕の目」


「この子抱えてなかったら潰してた」


「やば」


 僕はそそくさと視線を逸らし、サクラの答えを待った。

 ややあって――


「私は……キキョウに連れられて、街を散歩していました。ずっと籠ってばかりだと気が滅入るからと……」


 キキョウ。煙玉を使って逃げたニンジャオーガ。

 アイツがこの子を唆して外に連れ出す光景、見てないけど簡単に想像できるな。なんかムカつく。はぁ、僕の個人的な感想は後だ、後。


「それで、いきなりキキョウが?」


「はい。私はキキョウに斬りつけられて……でも、どうして……」


「ふたりはどういう関係なんだ?」


 割り込んできた篁さんにビクッとするサクラ。

 それでも、僕のときよりはだいぶんマシ。男がダメなのかな?

 考え込むそぶりを見せた彼女の口から出てきた言葉には、自分でも半信半疑……いや、信じたくないって気持ちが滲んでいた。


「キキョウは父が私に付けてくれた臣下です。もう何年も傍に仕えてくれていて、こんな出来損ないの私にはもったいないと思っていて、でも……」


 父、臣下、出来損ないの私……

 なんだか気になるワードが大量に出てきたものの、どれもこれも意味不明。『キミって出来損ないなの?』なんて聞けない。それがマズいってことはノンデリな僕でもわかるし、みんなの反応が怖すぎる。

 だから、僕が今ここで考えるべきことは――これからのことだ。


「それじゃ、どうしようか?」


「どう、とは?」


「僕らはキミをお仲間のところに返しに行けばいいのかなって思ったんだけど……それって、危ない感じ?」


 とりあえず、こう言っておくのが無難だろう。

 どこにあるのかわからないオーガの本拠地までこの子を連れていくとか、絶対にゴメンだけど。


「……ごめんなさい、わかりません」


「それは、キミのまわりのオーガが信頼できるかどうかわからないってこと?」


「オーガというのは私たち鬼人のことですか?」


 じっと僕を見て尋ねてくるサクラ。

『オーガ』と呼ばれたくない感じかな?

 彼らの自称に合わせた方がよさそうだな。


「鬼人って言うんだね。これからそうする」


「はい、ありがとうございます……えっと、その……」


 ここで言い淀むってことは図星か。あのキキョウ以外にもこの子には何人もの臣下がいて、でも、誰を信じれば良いかわからない。ひょっとしたらみんな裏切っているかも。そんな状況ってことか。危ないなぁ。


「じゃあ、僕たちと一緒に来る?」


「ニンゲンの里……ですか?」


「そう。少なくとも、いきなり斬りかかったりはしないって約束するよ」


「でも……」


「キミに危害を加えるつもりがあるなら、もうやってるし。そもそも治癒しないって」


「それは、そうですが……」


 知らない人について行っちゃいけませんってことはサクラも理解していると思う。鬼人の教育がどうなっているかは知らんけど。

 サクラが鬼人の本拠地より見知らぬ人間の集落の方がマシって考えているのだとしたら……いや、NOと即答しない時点で相当ヤバいと見た。


「どう? 鬼人の方か僕らの方か、どっちがいいかな?」


「……そちらにお邪魔しても、ご迷惑ではありませんか?」


「迷惑だなんて、そんな……大歓迎だよ」


 おずおずと見上げてくるサクラに僕は満面の笑み(仮)で頷いた。

 見逃さなかったよ、自分の身体を抱きしめようとしたところ。

 この子、自分の仲間にかなり不安を抱いているみたいだ。


「いいの、桧川?」


 じっとり見つめてくる柊さん。

 放置できないって自分も言ってたじゃん。

 いや、まぁ……柊さんの気持ちもわかるつもりだけどさ。


「正直に言うと面倒ごとに巻き込まれそうな予感がビンビンする。でも、まぁ、これで鬼人と揉めて戦うことになっても、今とたいして変わらないかなって」


「それもそうか」


「あと、この子をここに置き去りにするの、個人的にどうかと思う」


「『毒食わば皿まで』か。連れて行った方がいいね」


「タクローさま」


 プリムが僕の袖を引っ張った。

 振り向くと、大粒の黒い瞳がすぐ傍に。

 桃色の唇から零れる吐息が頬をくすぐってくる。


「……なに?」


「魔物が寄ってきます」


「どんな奴かわかる?」


「アンデッドです」


「おお!」


 アンデッド。ゾンビとかスケルトンとかの定番モンスターだ。今までお目にかかったことはなかったけれど、新しいカードはいつだって大歓迎さ。

 なお、僕と篁さん以外は全員顔を引きつらせていた。


「アンデッドって、どんな奴だ?」


「ゾンビとか、そっち系」


「なるほど」


 篁さんはニヤリと笑った。

 この人、基本的に戦うの大好きだよね。最近わかってきた。

 そして角から姿を現すゾンビたち。ふと、異変の初日を思い出した。『これはゾンビものじゃない、RPGだ(キリッ』って、懐かしい……


「って……お、おい、おいおい」


 多い、多いよ!

 みんなして言葉をなくしちゃったじゃん!?

 後から後から湧いてくる死体たちが、あっという間に道路を埋め尽くした。向こうが見えない。


――まだ、増えてるしぃ。


 数が多いだけじゃない。グロい、絵面がヤバい。身体が腐って骨が見えてたり、腕とか足とか捥げてたり、強い弱い以前にお近づきになりたくない。特に【格闘術】で戦う王さん、顔が真っ青だよ。

 戦わないって選択肢はない。どう見てもコミュニケーションは無理だし。


「……柊さん、その子を下ろして。手が塞がっていると戦えない」


 さっきのデュラハン戦で『ミスったな』って思ったんだ。柊さんには【鑑定】結果を紙に書く仕事もあるし、手は自由に使えた方がいい。

 サクラを彼女に任せたのは僕の失態だ。


「それはそうだけど、この子は……」


「僕が手を繋いでおくよ」


 僕は【万象の書】を片付けた。

 あの日、異変が起きた日から肌身離さず身に着けていたカードバインダーを。同時にプリムが姿を消した。【万象の書】のカードは、バインダーを手にしていないと効果が失われるから仕方がない。


「……はぁ、わかった。桧川が正しい」


 柊さんはサクラを下ろし、僕はサクラの手を取った。小さな手のひらは震えていた……のはともかくとして、周囲から鋭く息を呑む声が聞こえてきたのはなぜだろう。考えるのやめよ。


「さて、僕の新しい力――『デッキモード』のお披露目だよ」


 次の瞬間、僕の傍に水着姿のプリムが姿を現した。

 デッキを起動すると、リーダーユニットに設定されている彼女も同時に起動するんだ。

 彼女もまた、僕がサクラと手を繋いでいるのを目にするや否や、その目をすっと細めて……え、何その反応。怖いんですが……


「えっと、準備いい?」


「はい」


 にっこり微笑むプリムから目を逸らし、僕はサクラの手を握ったまま、ポーズを決めてカードをドローした。

 視界の端っこに出現したウィンドウにカード名が6つ並ぶ。

 よし、ナイスドロー!


「コストゲージに山札からカードを1枚移すよ。それじゃ――行こうか!」


 僕にしか見えないコストゲージに山札から1枚カードが移動する。僕が使えるコストはレベル5+【万象の書】のレベル3+コストゲージ1枚で合計9になった。

 水着プリムのコストを引くと、残りは7だ。

 さらに――


「プリム、マナを」


「はい!」


 山札を3枚破棄すると――いい感じに地形カードが1枚落ちた。

 これで水着プリムの特殊能力『紅玉の王女のヴァカンス』が発動し、全属性のマナが3つ、彼女の身体から放出される。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


紅玉の王女のヴァカンス(対象:このユニットのプレイヤー)

      ・1ターンに1度しか使用できない。

       対象は山札をX枚破棄する。Xは1~3の任意の数値。

       破棄されたカードに地形カードが含まれていた場合、

       対象に全属性のマナをX個付与する。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 こんな感じね。

 このターンで使えるコストは7+マナ3つで合計10になった。すると、コスト9のこのカードが使えるワケだ。


「『エクスプロージョン』起動!」


 角から姿を現したゾンビの大軍、その足元に広がっていく赤い光が爆発!

 どん臭いゾンビに逃げる余裕なんてない。

 朽ち果てかけた御崎原市街が、灼熱に染め上げられた。


「ヒャッハ―――――ッ! 爆裂魔法は最高だぜ!!」


 一・撃・必・殺!

 腐った死体はまとめて焼却だぁ――――――ッ!

 燃え盛る炎に飲み込まれたゾンビたちが、ヘビ花火みたいにグネグネして消えていく。

 十字路を丸ごと飲み込んだ大爆発が収まったあと、そこに転がっていたのは、いくつもの黒い石――おなじみ闇属性の魔石だ。


「さて、帰ろうか……僕たちの学園に」


 反応はなかった。

 何かドン引きされてるっぽい。特にサクラ。

 あれ、僕、何かやっちゃいました?

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