第3話 迫りくる黒騎士なんて
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
名 称:デュラハン
タイプ:ユニット
種 族:アンデッド/スピリット
属 性:闇
レベル:―
ランク:7
コスト:7
攻撃力:6
防御力:6
魔法力:5
スキル:【剣術】レベル2
【騎乗】レベル2
【暗黒魔法】レベル2
特殊能力:なし
装備品:なし
レアリティ:SR
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
デュラハンは馬に乗った首なし騎士として日本のファンタジーでは有名なモンスターだ。パッと見た感じではアンデッドっぽいけど、確か原典では妖精だったはず。後ろに引いている馬車もワンセットみたいで、迫ってくるプレッシャーが半端ない。
――アンデッドだろうが妖精だろうがどっちでもいいや。
アイツは敵、敵は殺す。それだけわかれば十分さ。向こうも殺る気満々みたいだから、お互いさまってね。
「じゃあ、まずは『オーク親衛隊』起動!」
僕は手札からおなじみ親衛隊を起動する。2体。ハイオークがいると攻撃力と防御力に補正がかかる、低コストのイカす奴ら。オークにバフを付与するプリムと親衛隊の組み合わせは鉄板の構成だ。死んでも惜しくないところが、すごく僕好みだよ。
「柊さんはその子と一緒に退避……って、あぎゃ~~~~~!」
デュラハンを足止めすべく突っ込んだ親衛隊は、馬に蹴散らされた挙句に首を撥ねられて死んだ。はえーよ、ホセ!
なんでさ!?
「【騎乗】スキルの分だけ、数値より強くなってるんだ!」
「なるほど、さすひー」
「あのね……」
騎馬と歩兵なら騎馬の方が強いし、さらに【騎乗】スキルの効果まで乗ったらそうなるか。【騎乗】は乗り物に乗るのが上手くなったり、乗り物に乗っているときにステータスに補正がかかったりするスキルだ。僕ら生き残り組だと護道くんの舎弟こと馬場くんが持っている。乗り物がないと発動しない分、発動した場合の補正が大きいって言っていたな。
「感心している場合じゃない!」
近くに迫ったデュラハンは、思ったよりもデカかった。馬と本体込みで背丈は3メートル近い。
「やらせんッ!」
振り下ろされた大剣を篁さんがロングソードで受ける。
廃墟めいた御崎原市街に金属同士が擦れる音と火花が散った。斬撃をいなされたデュラハンは、そのまま馬を止めることなく僕らパーティをぶち抜いて――角を曲がって姿を消した。
「プリム!」
「はい!」
プリムにすかさず空中から偵察してもらう。デュラハンの脅威は消え去った、そんな都合のいいことは考えない。だって、まだ僕たちは感じている。地面を震わせる馬のひづめを。
「あ~ん、アイツ馬に乗ってるから攻撃できなかった!」
プリプリと怒りをあらわにする王さん。
【格闘術】を有する彼女は至近距離での戦闘でこそ最大パワーを発揮できる。間合いが遠いと戦いづらいのだ。多少の距離なら一足飛びに詰められるほどの俊敏性を有していても、好き勝手に馬で駆け回るデュラハン相手に接近するのは難しいっぽい。
彼女が戦える局面を作るのが僕の仕事だ。
「タクローさま、来ます」
「だよね。それじゃ、僕に任せてみんなは隠れていて」
「あ、そうだね」
「いいの?」
「タクローさま?」
「心配ない。ここは桧川に任せておけ」
さっすが篁さんと柊さんはわかってくれているね。柊さんはさっきの女の子オーガことサクラを背負っているので戦えない。彼女とプリムは王さんに先導されて身体を隠し、篁さんは――僕の隣りで身構えている。
「篁さん?」
「私は傍にいた方がいいだろう?」
「そうかな……そうかも?」
馬蹄の音が近づいてくる。大地の震えが重みを増した。角を曲がって加速してくる巨体、デュラハンが猛然と突っ込んでくる!
……というわけで、
「『瘴気の沼』起動!」
突撃野郎が相手なら、これでしょ!
僕の足元から漆黒の沼が広がっていく。異変初日にオーク・ジェネラル相手に使ったときよりも、沼の範囲が大きくなっているように感じられた。
篁さんの手が伸びてきて、僕の肩を軽く引っ張ってくる。少し後ろに下がったおかげでデュラハンの進路から回避オーケー。僕だけだったら轢かれてたかも。
そして急加速で突撃してきたデュラハン(の馬)は――ものの見事に沼に嵌って盛大にズッコケてくれた。
名付けて『車は急に止まれない作戦』だ。現代人なら常識だね!
引っ張っていた馬車ごと前につんのめって一回転、二回転……おおう、これは惨劇。馬は四本の脚すべてが変な方向に折れ曲がって起き上がれそうにないし、馬車は見るも無残な残骸と化している。鎧をまとった騎士の方はヨロヨロと起き上がって、脇に抱えた頭が僕たちを睨みつけてきた。
――う~ん、これは酷い事故ですわ。犯人イズ僕。
僕はしれっと沼を片付けた。消えてしまった闇属性のマナは……別に惜しくはないな。馬さえ倒せりゃいいのさ。エナジー・ボルトでも撃とうかなって思ったけど、足場を悪くしたまま放置して前衛ふたりの邪魔になる方が大問題です。
「よし、行くぞ!」
「さっすが先輩! あとは任せて!」
果敢にデュラハンに向かって行く篁さんと王さんを、僕とプリムが魔法でバフる。オーク軍団を倒してレベル5になった前衛ふたりに、ガンガンに強化を乗せると、馬を失ったデュラハン(ランク7)とも正面からやり合えるはず。
剣と剣が打ち合わされて激しく火花が散った。状況は……互角か?
「王、横から仕掛けろ!」
「おっけー!」
篁さんが正面からデュラハンと斬り結び、脇から王さんの援護が入る。息があったコンビネーションを前に、馬を失ったデュラハンは否応なく二方向からの戦いを強いられている。奴の武器は大剣、あれじゃ大きすぎて小回りが利かない……と思いきや、その剣技は敵ながらみごと。騎馬の突進力を失っても、ふたりを相手に一歩も引かないとは。
繰り広げられる剣戟を前に、後衛の僕らは攻撃魔法でサポートするタイミングを見いだせないでいる。
――事故でダメージ受けてるくせに、やるなぁ……ん?
デュラハンが掲げた大剣が漆黒のオーラをまとった。
アレって、魔法か?
【鑑定】結果からすると、たぶん――
「……って、させるかッ!」
その【暗黒魔法】は封魔の結晶で無効化するよ。
漆黒の炎は燃え上がることなく消えた。ふはは、ざまーみさらせ!
唐突に魔法が消失したせいかデュラハンは一瞬動きを止めた。よ~し、チャンス到来!
「大きいの、行くよ!」
「任せた!」
ふたりの前衛が距離を取ったところにファイア・ボールをぶち込んだ。デカい火の玉に呑まれたデュラハンは苦しそうに身悶えしている。
剣を構えなおす瞬間、ほんのわずかに身体がよろめいた。
それを見逃さなかった篁さんから檄が飛ぶ。
「ナイスだ、桧川! 畳みかけるぞ!」
「「「「おう!」」」」
デュラハンの剣を掻い潜って篁さんたちがダメージを重ねていく。僕は『ヒール』でふたりの傷を癒したり、『エナジー・ボルト』で牽制を繰り返したり。
篁さんの剣が閃き、王さんの脚が翻る。攻撃が通り始めた。徐々に形勢がこちらに傾いてきた感じがする。不気味な唸りを上げる敵の大剣が何度となくふたりを追い払おうとするけれど、蓄積したダメージのせいか、次第にデュラハンは動きを鈍らせていって――
「せいッ!」
駆け寄った王さんの蹴りが空中で軌道を変え、脇に抱えられたデュラハンの頭部に叩き込まれた。思わずたたらを踏んだ胴体を篁さんのロングソードが大きく薙いだ。
「ハアッ!」
一閃!
胴体は深々と切り裂かれて――これで決着。馬とか馬車とかひとまとめに光の粒子と化して【万象の書】に収納された。SRおいしいです。
「プリム、他に敵は?」
「……敵影、ありません」
目を閉じて眉間にしわを寄せたプリムが呟く。僕らは周囲を見回して、近寄ってくる気配がないことを互いに確認し合って、ようやくひと息つくことができた。
ネームドじゃなかったとは言え、なかなか強敵だったな。
「どうやら凌いだかな……はぁ」
「みんな、お疲れさま」
「んぅ……」
大きく息を吐いた柊さんの首のあたりから、くぐもった声が聞こえてきた。柊さんがビクッと身体を震わせて――彼女が背負っていた少女サクラが目を開けた。赤い目だ。サクラは周囲をキョロキョロと見まわして、篁さんを見て、王さんを見て、プリムを見た。僕を見て、すぐ傍の柊さんを見て――
「に、ニンゲン!?」
『ひっ!?』と悲鳴を上げるサクラ。
その小さな身体は遠目に見てもわかるほどに震えていた。
額の角と瞳の色さえ抜きにしたら、やっぱり人間の女の子と大差ないなってのが第一印象だった。




