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終末の鐘が鳴り響く、この空のもとで ~ゲームみたいになった世界で、僕はカードを手に無双……無双は出来てないな?~  作者: 鈴木えんぺら
第2部第1章

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第2話 そういうこともあるかな?

 プリムにナビゲートされて街を駆け抜けた僕たちが辿り着いたのは、公園だった。ざわざわと風にそよぐ木々、キィキィとぎこちない音色を奏でるブランコ。総じて不吉な雰囲気が漂っているそこに血の池が広がっていて、女の子が倒れ伏していて、その傍に女が佇んでいた。完全に絵面がホラーなんよ……


――なんだ、あの女?


 近寄りたくない光景に怖気づきながら、僕は眉をひそめた。

 立っている方の女は、パッと見た感じでは人間の女に見えなくもなかった。

 髪は赤毛で、肌は程よく日に焼けた感じの小麦色。格ゲーのくノ一ヒロインみたいなやたらと露出が多いコスチュームまではセーフだ。

 でも、アウト。

 よく見ると、彼女の額には一対の角が生えている。人間でないことは明らかだ。


「オーガの上位種、ランク7、スキルは【忍者】!」


 柊さんが叫ぶ。

 ハッと我に返った。危ない、危ない。

 余計なことを考えている場合じゃない。れっきとした殺人現場じゃないか!

 篁さんと王さんは指示を出すまでもなく距離を詰めにかかっている。ならば、僕とプリムは魔法を――ああ、広範囲を巻き込む魔法はダメだ。こういうときには『フレイム・アロー』だよ。


「ふっ」


 くノ一オーガは軽快な動作で降り注ぐ炎の矢を回避し、王さんのキックを躱し――交差した苦無で篁さんのロングソードを受け止めた。金属同士が擦れ合う音がギシギシと響く。


「柊さん!」


「はい、これ」


 すかさず差し出された紙片には、くノ一オーガのステータスが。

 さすひー。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 名 称:赤き影忍キキョウ

 タイプ:ユニット

 種 族:ハイオーガ/鬼人衆

 属 性:火

 レベル:3

 ランク:7

 コスト:7

 攻撃力:6

 防御力:6

 魔法力:6

 スキル:【忍者】レベル2 

 特殊能力:ごめんあそばせ(対象:このユニット)

      ・山札を3枚破棄する。

       効果適用後、対象を手札に戻す。

       

 装備品:苦無


 ※1枚制限


 レアリティ:SR


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「普通のオーガより強いよ、気を付けて」


「気を付ける? 調子に乗るな、ニンゲン!」


 キキョウは苦無でロングソードを巻き込むようにいなし、体勢を崩した篁さんの腹に蹴りを入れた。追撃を警戒して後退する彼女に代わって王さんが前に出る。


「何やってんのよ、アンタはぁ!」


 王さん怒りの連続攻撃。

 ときどき護道くんが見せるような乱打パンチじゃない。早くて、でも、丁寧な動きで苦無を払いのけながら、こぶしやら肘やらを叩き込む。キキョウは身体をひねって躱そうとするも、躱しきれないと見たようだ。苦無を手放して――足払いを仕掛けてきた!


「甘いッ!」


 ドシンと強く足踏みする王さん。【気功術】込みでキキョウの蹴りを堪え、お返しとばかりに、掬い上げるような姿勢でみぞおちに掌底!

 くの字に折れ曲がったキキョウが宙に浮く。隙だらけの側頭部めがけて白い脚が弧を描いてしなった。


――うわ、これはすごい連続攻撃!


 もちろん、直撃!

 吹っ飛んだ先に僕とプリムが魔法で追い打ちをかける。バックステップで魔法を躱しながら、キキョウは懐から小さなボールを取り出した。


――反撃か!?


 アイテムの投てきが来ると思って、とっさに身体が強張ってしまった。

 僕を見てニヤリと笑ったキキョウの唇が小さく動き、その手が思いっきりボールを地面に叩きつける。と、ボールが割れてもうもうと黒い煙が……あ、これ煙玉かよ!


「クソッ、奇襲警戒!」


「りょーかい!」


 一秒、二秒……

 視界を封じられた状態で奇襲を食らうのはヤバいよ。そう思っていたのだけれど……煙が晴れたとき、公園に忍者の姿はなかった。


 トン


 離れたところから小さな音が聞こえてきた。

 音がした方を目で追いかけると、少し離れた屋根伝いに、キキョウと思しき人影が飛び移っていくのが見えた。


『ごめんあそばせ』


 今さらながらに思い出す。

 あのとき、キキョウの唇がそんな風に動いていたことを。

 

「先輩、逃がしてごめんなさい」


「いいよ、下手に欲張って何かあってもマズいし」


「……とか言って、ものすごく残念そうな顔してるよ。先輩、ゴメンね!」


「うっ」


 それはそう。

 安全重視は本音だけど、それはそれとして悔しい!

 せっかくの1枚制限だったのに……でも、王さんは悪くない。だから『気にしないで』って笑顔を作ろうとして、


「桧川、この子に『ハイ・ヒール』お願い!」


「……え? まだ息があるの?」


「ある! 早く!」


「り、了解!」


 篁さんたちに『警戒よろしく』と告げて、柊さんの傍――血の池にうつぶせになっていた女の子のもとに駆け寄った。助け起こされたその小さな身体を前に、僕は驚愕に目を丸くしてしまう。


「え!?」


 おかっぱ黒髪の女の子、その額には……いや、その額にも1対の角がある。身にまとっているのは着物だ。和風という点は、さっきまで戦っていたキキョウと共通している。

 つまり、この子もオーガだ。


「早く!」


「う、うん……『ハイ・ヒール』起動!」


 カードから注がれる光と、柊さん謹製の傷薬。

 いずれも惜しみなく投下したおかげか、女の子オーガの顔に血色が戻ってきた。小さな口から洩れる吐息も安らかな感じがする。チラッと盗み見た柊さんに動揺はなかった。早い段階でこの子が人間じゃないことに気づいていた模様。


「どうなってるの、これ?」


「さぁ?」


 女の子オーガの額とか首筋、手首に手を当てて、じっとその顔を観察して――安堵の吐息を漏らした柊さん、そっと僕に紙片を握らせてきた。

 もはや手慣れた感ある。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 名 称:儚き鬼人姫サクラ

 タイプ:ユニット

 種 族:ハイオーガ/鬼人衆

 属 性:火

 レベル:1

 ランク:7

 コスト:7

 攻撃力:0

 防御力:1

 魔法力:2

 スキル:【薬師】レベル1

      【テイマー】レベル1 

 特殊能力:ちいさな祈り(対象:パーティ1つ)

      ・手札1枚破棄(魔法カード)

       効果適用後、対象に下記の効果のうち1つを付与する。

       【防御力:+2】

       【耐性(任意の属性):+5】

       

 装備品:なし


 ※1枚制限


 レアリティ:SSR


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「おひめさま?」


「みたいだね」


 モンスターのお姫さま、別におかしくはない。僕らと行動を共にしている(というか僕がカードにしちゃった)プリムだって、オークのお姫さまだったし。

 でも、なぁ……僕は紙片と柊さんの間で目を行ったり来たりさせて、首を傾げた。


「じゃあ、今のはオーガ同士で?」


「人間同士だって殺し合うこともあるって考えたら……まぁ、ないこともないのかも」


 生々しいこと言うなぁ、柊さん。まぁね、そりゃね。現代日本では人間同士の殺し合いなんて身近な話じゃなかったけれど……歴史の教科書とか海外のニュースを見れば、珍しい話でもない。モンスター同士で殺し合いがあっても不思議じゃないか。


――皮肉だよね。


 ウチの学校こと私立陽明学園は一応名門私立ではあったから、比較的まともな人間が多く集まっていた。それでも、あまり良くない話(例えばいじめとか)はあった。今の僕たち生き残りからは、その手の話は聞かない。モンスターという共通の脅威を前にして、バカなことをやらかす余裕が吹っ飛んだのだと思う。

 閑話休題。


「そりゃ、そうかもしれないけど……どうしよう?」


「どうしようって言われても」


「だよねぇ」


 僕たちはお互いに顔を見合わせて、もう一度おかっぱオーガのサクラを見た。

 角さえ生えていなければ、どこにでもいる普通の女の子――いや、角が生えていても、普通の女の子だ。


「……放ってはおけないか」


「だね」


 一応この子がスパイとか埋伏の毒とか、そっち系の危険性を考えてはみたものの、あんまりピンとこない。

 お姫さまって肩書を持つ少女をそんな風に使うかな?

 仮に潜入工作だったとしても、僕らがあの現場を見つけていなければ意味がないし……ただ、罠じゃないと断言できる根拠はないんだ。

 

――でも、なぁ……


 まだ子どもと言ってもいい女の子(10歳ぐらい?)をモンスターが徘徊する廃墟に置き去りにするのは、ちょっと……同族に命を狙われているって可能性を考慮すると、なおさらだよ。

 ここでこの子が目を覚ますまで待つか、それとも僕らの学園まで連れていくか。 少し迷って連れていくことにした。いつ目を覚ますかわからないからね。


「私が背負う」


「いいの?」


「この中で腕が使えなくなっても困らないの、私だけじゃない?」


「柊さんの腕が使えなくなったら凄く困る」


「……ば~か」


「でも、僕は大丈夫だよ。ほら――」


「桧川はそれ以前の問題」


「なんでさ!?」


 ぷいっとそっぽを向いて女の子を背負い、スタスタと公園を後にする柊さん。他のみんなも何も言わずに彼女の後に続いた。

 待って、僕は大丈夫だって言いかけたじゃん。

 あ、ひょっとして僕がこの女の子に良からぬことをするとか思ってたりする?


「それは酷い、酷すぎ――」


 僕が零しかけた嘆きを、やたらと凶暴な馬のいななきが蹴り飛ばした。

 場違いな音が響いてきた方に目を向けると――ひび割れたアスファルトの道を黒衣の騎士が突っ込んでくるところだった。馬に乗ったその騎士は、自分の首を小脇に抱えている。

 ああ、あれは――


「デュラハンだね」


「ですよね~」


 ムスッとしてても、こういうところは、とても柊さん。


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