第1話 期待と不安のエンカウント!(202X年7月28日)
ホラー映画めいた陰鬱な雰囲気にのまれた御崎原市街。
僕らがよく知る街並みのはずなのに……人の気配がないってだけで、まるで異世界じみていてゾワゾワする。そんな大通りのど真ん中で、僕は迫りくる黒い騎影を睨んでいた。首を脇に抱えた西洋風の騎士。漆黒のオーラをまとっていて、後ろに大きめの馬車を引いていた。どう見てもモンスターだ。馬蹄と車輪が重く激しくアスファルトを削る音が近づいてくる。
「桧川!」
「柊さんは、その子を連れて逃げて!」
背後には今日もメガネがよく似合う柊さんがいて、彼女は小さな女の子を抱いている。ふたりのためにも突っ込んでくるモンスターに背中を向けることはできない。ここで迎え撃つよ!
「柊、下がっていろ!」
「先輩!」
「タクローさま!」
ポニーテール剣士の篁さん、中華系カンフー少女な王さん、ショートボブの美少女ハイオークことプリムの声が続く。
三人の――僕の大切な仲間たちの声は、柊さんと同じく強い緊張をはらんでいた。
僕はもはやお馴染みとなった感のあるカードバインダーこと【万象の書】からカードを引き抜いて――掲げる。
カードから、光が溢れ――
★
黒騎士と遭遇する少し前のこと。
オーク・キングの軍団を掃討して後顧の憂いを断った僕たちは、ついに学園を出て南下を開始、この御崎原市街へ足を踏み入れていた。
見慣れた街並みがモンスターに蹂躙されているのはムカつく。別にこの街に思い入れなんてなかったはずなのにね。
「……と言うわけで、ぶっ殺そう」
「異議なし!」
街にはびこっていたのはオーガだった。
西洋風の鬼みたいな感じの、割とメジャーなモンスター。
身長は2メートルぐらいで肌は赤銅色。引き締まった身体は、いかにも『フィジカル自信あります』って感じ。
もちろん、戦端を開く前に柊さんの【鑑定】で敵の能力はちゃんと確認済みだよ。勝てると判断したから戦うわけで、勝てそうになかったら撤退に決まっている。
ホント【鑑定】さまさま、柊さまさまだね。
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名 称:オーガ・ファイター
タイプ:ユニット
種 族:オーガ
属 性:火
レベル:-
ランク:5
コスト:5
攻撃力:6
防御力:6
魔法力:2
スキル:【打撃】レベル1
特殊能力:なし
装備品:鋼鉄の金棒
レアリティ:C
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オーガのランクは5だった。
これは異変初日に僕らが遭遇したオーク・ジェネラルと同じ値だ。奴とは違って特殊能力がないので、単体ではオーガの方が弱いと思う。
ただ、数が多い。ワラワラ湧いてくる。その上、ランク5以下の個体がいないときた。最低ランクが5って考えると……う~ん、結構厄介かな?
「ハアッ!」
篁さんがアスファルトを蹴った。
たちまちのうちに距離を詰めてオーガを袈裟切り、一撃だ。
彼女に迫る別のオーガの横っ面に王さんの白い脚が弧を描いて叩き込まれる。強烈なキックで頭がはじけ飛んだ。あっという間に二体を始末しても、ふたりの攻撃は止まらない。僕らが駆け付けるころには前を抑えていたオーガはスッカラカンだ。
……というわけで、
「柊さん、錬爆よろ」
「略すな、まったくもう」
頬を膨らませながら、ポケットから取り出した赤い錬金爆弾を地面に撒く柊さん。僕らはそのまま前に走り続けて――おもむろに振り向いた。
カードを掲げて、叫ぶ。
「『ファイア・ボール』起動!」
カードが光を放ち、炎の球が後ろを追いかけてくるオーガの集団を襲う。
グッドタイミングか~ら~の――大・爆・発!
「か~ぎや~!」
火属性の錬金爆弾を巻き込んだファイア・ボールは盛大に炸裂。オーガの集団を赤い炎が飲み込んでいく。前方のオーガ(おかわり)たちが轟音に怯んだところを、篁さんが容赦なく切り捨てゴメーン。
これで前方の敵は片づいた。
後方から追ってきた集団も、爆発で大半が消し飛んでいる。
それじゃ――
「反転だよ! 後ろの生き残りをいただこう!」
「了解!」
・
・
・
「たいしたことないなぁ」
「篁さん的にそんな感じ? 王さんは?」
「ん~、先輩と同じで」
三方向から包囲を狙っていたと思しきオーガを粉砕した前衛ふたりの感想がコレ。
まぁ、僕ら強くなってますしねぇ。ジェネラルと戦ったときってレベル2か3だったはず。オーク軍団との戦いを経た今は、みんなレベル5に上がっている。
あのときとの比較に意味はないか。
え?
包囲されたのかって?
包囲が完成する前に突撃したからされてません。僕はそう簡単に包囲を許すような猪武者じゃありませんから!
……と、とにかく、
「おっけー。奇襲を食らわなければ大丈夫だね」
実際のところ、そう簡単に奇襲なんて食らわない。
これは楽観的な憶測じゃない。僕らの頭の上では小鳥が旋回している。【テイマー】スキルで飼いならした小鳥を通じてプリムが周囲を見張ってくれているんだ。彼女はハイオークにしてハイエルフ、ビーストとの相性は抜群だ。なお、ビーストには鳥も含まれている。細かい種族の区別はよくわからないな。
「周囲の警戒は万全です! 先ほどのような失態は二度と――」
「プリム、ちょっと肩の力抜こう」
「は、はい!」
かつては敵味方として命の取り合いになった僕とプリム、その出会いは不幸なものだった。今の彼女は【万象の書】の力で僕に絶対服従な女の子だ。僕らの関係は、どう考えてもいびつ極まりないけれど、それでも僕はプリムを仲間として信用している。たぶんみんなも同じ気持ちだと思う。色々あったからね。
――ま、それは置いておくとして。
さっき三方向から囲まれそうになったのは彼女のせいじゃない。オーガのあっけなさに拍子抜けして、気が抜けていた。僕ら、みんなが。だからみんなで反省する、次回に生かす。それで終わりだ。
「それじゃ、次行ってみよ――」
「タクローさま!」
「プリム? そう気張らなくても」
「いえ、そうではなくて……ひと、人がいます。襲われて……あっ、ああっ!」
小鳥と感覚を同調するために目を閉じていたプリムが頬に手を当てて、奇妙な叫びをあげた。ム〇クかな?
僕らは互いに顔を見合わせて、首を傾げた。
「人?」
「私たち以外の、人?」
「今日って、私たち以外にも誰か街に出てたっけ?」
今の僕たちにとって『人』と言えば、僕らの本拠地こと陽明学園の生き残りを指している。202X年6月24日、世界にモンスターが溢れ、スキルとかステータスとかレベルなんてゲームみたいなシステムが組み込まれたあの日以来、僕らは僕ら以外の人間を目にしたことがなかった。生きている人間って意味だ。死人は嫌って言うほど見た。
みんなの顔に、少しずつ困惑と期待が広がっていく。
いっぱしの戦闘のプロ(仮)である僕たちにしては珍しいぐらいに動揺している。もちろん僕もだ。
「ひょっとして、生存者!? プリム、案内よろしく!」
「は、はい!」
僕はプリムの手を引いて駆け出した。オーク・キングを倒して平穏を取り戻し、こうして街へ繰り出して――どうやら新しいトラブルに巻き込まれたっぽい。崩壊世界に生存者、いいか悪いかどっちに転ぶか……
――それでも、気づいたからには放っておけないよね。




