第9話 勝って終わりじゃない、だって現実だもの
オーク・キングがカードに収まったのを確認してから意識を手放した僕が目を覚ますと、体育館倉庫――走り高跳び用のマットに寝かされていた。VIP扱いみたいで、ちょっと気分がアガった僕を迎えてくれたのは、心の底からどうでもいいトラブルだった。
「……それを僕に言って、どうしてほしいのさ?」
「それがわかってたら、アンタに相談とかしないから」
「なんなんだよ……」
体育館の屋上から降りようとした椎名さんが、とある男子にスカートの中を覗かれたって……知らないよ、そんなの。『パンツ見られたのよ』って短パン穿いてなかったのかよ!
憤懣やるかたなさげな椎名さんを押しのけた護道くんが、とても喜ばしい情報を持ってきてくれた。
「死者はゼロだ。全員生き残ったぞ。」
「よかった、ホッとした」
指揮を執ったのは椎名さんだけど、作戦を立案したのは僕だ。死人が出てたらって想像するだけでゾッとする。もっとも被害がゼロとまではいかなかった。体育館の前でオークの軍勢と激突したパーティの中に何人かケガ人が出ている。
「心配すんな、傷薬と治癒魔法で治る程度だ」
「……よかったで済ませていいのかなぁ」
「済ませていいさ。薬師寺の【薬師の心得】のおかげで、大事にゃ至らん」
「あの薬の効果が上がる奴ね。【薬師】って美味しいスキルだな」
薬師寺先生、今まで心の中で見下していてゴメンナサイ。
第1校舎は焼豚作戦の余波で全焼した。僕的には体育館が無事だっただけで十分なので特に気にならないけど、不満を持っている人はいるみたい。知らんがな。他にもいろいろ燃えはしたものの、篁さんと舞坂さんの水魔法や、いざというときに用意しておいたプールの水で延焼を抑えることができたらしい。手配はほとんど会長がやってくれたとのこと。さすが。
「疲れているところを、悪かったね」
「構いやしねぇよ。お前らはもっと休んでろ……と言いたいところなんだが」
大量のオークを討伐したので、大量の魔石をゲットできた。他にもいくつかアイテムドロップがあったらしくて、これの分配を考える必要がある。
「ま、リーダーの仕事だな」
「じゃ、椎名さんお願い」
「アンタがやるのよ」
「マジかよ……」
……と言うわけで、僭越ながら僕が戦利品の分配を担当することになってしまった。魔石のドロップはキング抜きでザクッと20000PP以上。オークは想定よりもかなり多かったようだ。危ない、危ない。
「中等部のときは均等に分けたけどよ、今回は功労者を決めねぇとな」
「まぁ、さすがにね」
頑張っても怠けても同じ報酬ってなったらモチベーションが下がる。『命がかかっているから全力出すだろ』ってのは、そりゃそうだとしても、頑張った分だけ得るものが大きい方が、わかりやすくやる気が出るに決まっている。異論はない。
「第1位は柊さんで」
「お前だよ」「アンタでしょ」
「ええ……」
「作戦立案して、敵の大半を焼き払って、クイーンを倒してキングを追いつめた。お前以外に誰がいるんだ?」
「僕が順位を決めるのに、僕が一番って感じ悪くない?」
「今回はみんな納得するでしょ」
「そうかなぁ……」
護道くんと椎名さんをはじめ、みんなに『頑張ったね』って褒められるのは嬉しいし、誇らしい。ただ、今回の僕はすでに十分に実入りがあるんだ。キング、クイーン、エクスプロージョンとSSRのカードを3枚もゲットした。これ以上貰うのは欲張りな気がする。これをカード購入で手に入れようと思ったら、一体どれだけのPPが必要かって計算するとねぇ……
「貰っとけ。カードのことは知らん」
「正しく功績が評価されないと、悪い前例が残るでしょ」
……というわけで第1位が僕で1000PP。キング戦で使用したクイーンと親衛隊の分で相殺する案は却下された。ふたりとも僕に甘すぎない?
第2位は同率で一之瀬くんと柊さん。
『彼女を差し置いて、オレが2位ってのもなぁ……』
オーク・キングを倒した英雄は、しみじみと言った。エクスカリバー全力攻撃のためにゲロマズMPポーションを飲んだ男だ。面構えが違う。
柊さんは言わずもがな。焼豚作戦に使った錬金爆弾は全部彼女が作ったものだ。彼女がいなけりゃ作戦そのものが成立しなかった。おまけに薬も用意してもらったし、これで何もなしとはいきませんよね。
一之瀬くんにはキングの魔石、柊さんには700PPだ。
キングの魔石はPP換算できていないから、ひょっとしたら700PPより多いかもしれないし、少ないかもしれない。一之瀬くんも柊さんも納得してくれたので問題なし。
柊さんの持ち出し魔石を差し引いて(本当はこれを最初に引かなきゃならなかった。柊さんゴメンね)僕ら3人を除いた参戦者全員に300PPずつ分配。
残りはレベル0でも戦闘外で頑張ってくれた人たち(体育館に火が燃え移ったときのためにバケツリレーの用意をしてくれていたらしい)のために、あるいは生き残り全員の共有財産として会長の【AMAZ〇NES】に放り込むことにした。
魔石をPPとして保管できるのが僕と会長しかいないんだよ。地味に厄介な問題だ。
300PPって、日本円に換算するとだいたい6000円だ。実際に戦った時間はだいたい2時間程度だった。時給3000円ぐらいって考えると悪くなさげに思えるけれど、命懸けの報酬と考えると微妙な気がするな?
――考えても意味ないか。
会長がいないと【AMAZ〇NES】は使えない。日本円に換算することに意味がなくなるんだ。生き残るために戦って、オマケで報酬が貰えたって考えてほしいところ。
「その辺も、意識を変えて行かないとな」
「次から次へと問題が出てくるわねぇ」
ホントにね。
ドロップアイテムについては、欲しい人が欲しいものを持って行ってもらうことにした。今回の場合だとPP報酬が微妙な分だけこっちで補填するって意味もある。幸いブツはたくさんある。それぞれに所持しているスキルで活用できるものを選んでもらって、残りは今後レベルアップする人のために保管する。最後の最後で剣を捨てた篁さんは、新しいロングソードが欲しいらしい。ジェネラルやキングが持っていた大剣は『しっくりこないからいらない』とのこと。
ここまで3人で決めて、臨時の生徒会で承認された。
「……というわけで、『夏季限定トロピカルサマーパック』10+1枚、行ってみる」
「いきなり使うわね、アンタ」
「どうせなら、いいカード引けよ」
「水着プリムってダブったりするのかな?」
「柊さん、怖いこと言わないで」
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R:蚊取り線香
R:日焼け止めクリーム
R:スイカ
R:ミンミンうるさいアイツ
R:スイカ
R:ポイズン・モスキート
SR:虫取り網
SR:釣り竿
SR:サン・バースト
SR:ホームラン・バット
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「バットが出た」
「野球でもする気か?」
「一応聞いておくけど、役に立つものなの?」
「【打撃】のスキルが付いてるよ」
「……やるじゃねぇか」
【剣術】以外にも武術系スキルが後付けできるのは悪くない。【剣術】持ちだらけになると、槍や斧が余っちゃうからね。個人的には【体術】スキルの装備が欲しいところ。近接戦闘系スキルと【体術】の組み合わせの強さは、主に篁さんが証明してくれている。
「え~っと……最後の1枚は、おお!」
最後に出てきたのは――金色だった。SSRだ!
これは来た、水着2枚目はアツい。【精霊魔法(水)】は人気スキルだからね。
ヨシ、勝ったなガハハ!
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名 称:BBQセット
タイプ:アイテム(消耗品)
ランク:5
コスト:5
特殊能力:なし
レアリティ:SSR
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「なんでだよぉぉぉぉ!?」
僕は膝から崩れ落ちた。




