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終末の鐘が鳴り響く、この空のもとで ~ゲームみたいになった世界で、僕はカードを手に無双……無双は出来てないな?~  作者: 鈴木えんぺら
第1部第5章

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第7話 行ってくるよ

 硬くてぶっといものを口に突っ込まれた。どろりとした生臭い液体が喉に流れ込む。僕はえずきながら、白濁した液体を飲み込んでいく。


――うう、熱い……


 そう、MPポーションだよ。

【リユース】の頻度が増えてきた。激しいMP消費を柊さん手作りのポーションで補おうって作戦なんだけど……


「マズい、臭い、舌がピリピリする……こんなの飲めないよぉ」


「すぐ慣れる。ソースは私」


「ごめんね」


 焼豚作戦のためにアホほど錬金爆弾作ってもらったからね。あのときの柊さんは半泣きでMPポーションをガブ飲みしていた。まさか、こんなにマズいとは。


「あとで何かプレゼントするよ」


「……バカなこと言ってないで、ちゃんと戦え」


「柊、お前って奴は!」


「さっさと突破しろ、篁!」


 ふたりとも仲良くしてよ……

 おや、ショボい魔法が打ち消され始めたぞ?


「どう思います、柊先生?」


「……何それ。まぁ、これ以上のダメージに耐えられないって感じじゃないの?」


「ですよね~解釈一致。それじゃ――」


 そろそろ仕掛けてくるはず。

 僕がクイーンの思考を予想するように、きっとクイーンも僕の思考をトレースしようとしている。僕はさっきからアイツの魔法をほとんど食らいっぱなしだ。パーティを対象に取るファイア・ボールだけを防いでいる。


――いい加減、こっちもヤバいんだよね。


 カード化で3回、封魔の結晶のカードで3回、最大6回までは無効化できるんだけど……こうなりゃチキンレースだよ。ただし、このチキンレースに必要なのは勇気なんかじゃない。化かし合いさ。


――だから、いい加減に騙されてくれよ!


 魔法を打ち消す手段がないから、僕は手数に訴えているのだと。

 僕の方も、とっくの昔に限界なのだと。

 そう思い込んでくれているなら……


「桧川」


「うん」


 どうやら、その願いは――叶ったっぽい。

『フレイム・アロー』の雨が止み、ショボい魔法の打ち消しが続く中、クイーンは――いかにもなポーズを決めて長々と詠唱を始めた。切り札的な魔法を使おうとしているのが見え見えで、いっそブラフなんじゃないかと思えてきた。


「篁先輩、行って!」


「任せろ!」


 王さんが親衛隊の壁をこじ開け、篁さんがクイーンに迫る。

 満身創痍に見えるクイーンの顔には――しかし、勝利を確信した笑みが閃いていた。


「桧川!」


 柊さんが叫ぶ。

 足元が赤く光った!

 ちょ、待って! 範囲が広い!

 最後尾の僕から一番前の篁さんまで、全部巻き込むつもりか!

 でも――


「我慢比べは――僕らの勝ちだ!」


 無地のカードを掲げた。

 僕を巻き込んでくれたおかげで、前に出る必要はなかった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 名 称:エクスプロージョン

 タイプ:魔法【精霊魔法(火)】

 属 性:火

 ランク:3

 コスト:9

 効 果:エクスプロージョン(対象:パーティ1つ)

       ・対象に【火炎:3D】ダメージを与える。


 レアリティ:SSR


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 SSRキター!

 3D6、最大18ダメージか。

 さすがクイーンが切り札に選んだだけのことはあるな。


――ダイスが下振れしても5ダメぐらいは期待できそうだ。


 なお、クイーンは篁さんにぶった切られて僕のカードに収まった。限界まで広がった赤い光が音もなく僕のカードに吸い込まれていく様を、信じられないものを見るような目で見ながら死んでいった。デュエルじゃないんだから、1対1の決闘なんて最初からする気はなかったんだよね。

 勝てばいいんだよ、勝てば。


「ふぅ……先輩、大丈夫? メチャクチャ魔法食らってたよね?」


 親衛隊を片付けた王さんが心配そうな顔で駆け寄ってきた。

 大丈夫、前線で奮闘していたふたりほどじゃない。柊さんに傷薬をぶっかけてもらったりもしてたし。


「お疲れさま。みんなのおかげで勝てたよ。王さんたちは?」


「何ともないと言いたいところだが、多少傷を負っている。私のMPはほとんど空っぽだ。すまんが治癒を頼む」


「おっけー。ふたりとも、ありがとう」


 幸いどちらも深刻なダメージを負っているわけじゃない。『ヒール』のカードで十分に治癒できる範囲内だ。

 大きなケガじゃなくてホッとした。

 篁さんが【精霊魔法(水)】を覚えてたのが幸いしたかな。ありがとう『ビビッド・サマー』!

 篁さんが柊さんの頬を引っ張っているのは見ないことにしよう。意味わからん。


「キングの方はどうなってるの?」


「そろそろ一之瀬くんがぶつかっている頃合いかな」


 焼豚作戦が成功したら前線を押し上げる。残敵を掃討しつつパーティを組みなおして、一之瀬くんにありったけのバフを乗せてキングとぶつける。クイーンとの戦いだけを見たら我慢比べで正しかったと思うけど、時間をかけ過ぎたかもしれない。本来なら、もっと早く終わらせて援護に行く手はずだったんだ。


「ここでうだうだ言っていても始まらん、私たちも行くぞ」


「そうだね。この戦いの総仕上げだ!」


「お――――――――――!」


 いい感じだ。

 クイーンを倒しても浮足立ってない。

 そして、気合を入れ直した僕たちが目にしたのは……キングを前に防戦を強いられている一之瀬くんだった。


「うわぁ……」


「なに、あれ」


 ほかのオークの倍ぐらいデカいキングが、これまたデカい剣をぶん回している。さながら暴風だ。一撃ごとに風切り音が大気を震わせ、逸れた切っ先が地面を削っていく。一之瀬くんは『イージスの盾』で上手く防いでいるけど、反撃に転じる余裕はないみたい。キングの大剣とイージスの盾が何度となく撃ちあわされて、重くて鈍い音と火花が散っている。彼の後ろにはバフ担当の5人――護道くん、最上さん、一之瀬さん、舞坂さん、古宮先生が揃っていた。パッと見た感じ【舞踏】【演奏】の間合いじゃない。【聖域】も無理だ。仕方がないか、とてもじゃないけど近づけない。キングが強すぎるんだ。


 ドシン!


 キングが大地を踏みしめると、強烈な振動が周囲に広がっていく。

 まるで地震だ。立ってるだけでも大変なんじゃないか、アレじゃ……ああ、もう、パワーありすぎる!


「どんだけ食ったんだ、アイツ」


「1匹だけみたいだよ」


「マジで?」


 柊さんが頷いた。前線を押し上げたタイミングがよかったのか、こっちに増援に来た親衛隊が多かったのか、最悪の事態にはなっていない。でも、一之瀬くんは押されている。あれ、こっちの方が最悪なのでは?


「マズい!」


 ここまで踏ん張ってた一之瀬くん、ついに盾の上から強烈な一撃を貰って体勢が崩れた。さらに追い打ち……って、これマジでヤバいよ!


「クソッ! 【ファイア・ウォール】起動!」



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 名 称:ファイア・ウォール

 タイプ:魔法【精霊魔法(火)】

 属 性:火

 ランク:1

 コスト:3

 効 果:ファイア・ウォール(対象:ユニット1体)

       ・対象を行動完了させる。

        効果適用後、対象を攻撃するユニットすべてに

        【火炎:3】ダメージを与え、行動完了させる。


 レアリティ:C


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 プリムプラムが僕たちと戦ったときに使っていた魔法だ。

 あのときは彼女自身が動けなくなる代わりに、突撃してくる篁さんたちを火だるまにするつもりだったと後で聞いた。

 だけど、よくテキストを見てほしい。

 この魔法は敵にもかけることができるんだ。こっちが攻撃しなけりゃ動きを封じる効果だけが発動する。

 ほらね、足元から吹きあがった炎の壁がキングの征く手を遮っている。


――う~ん?


 ……これ、ホントに足止めできてる? 

 自傷覚悟で壁を突破できそうに見えるんですが。

 考えてる場合じゃない。一之瀬くん、ボーっとしてないで立ち上がって!


「桧川……」


「わかってる」


 篁さんに頷き返す。

 オーク・キングが――僕を見ている。

 ファイア・ウォールで邪魔をしたのが僕だと、アイツは理解している。


「王さん、柊さんを連れて一之瀬くんのところまで走って。あっちを立て直さないと」


「う、うん、わかった。でも、けど……先輩は?」


 キングの目に爛々と燃えているのは、どうしようもないほどに殺意だった。

 ここに柊さんを置いておけない。さっきの魔法戦とは違って、彼女を庇う方法が僕にはないんだ。ぶった切られたら即死ですわ。大回りで一之瀬くんのところに行って『イージスの盾』に守ってもらった方が、どう考えてもマシ。


「大丈夫だよ。篁さん、悪いけど」


「みなまで言うな。私はお前を守る。そうだろう?」


「うん。ひとりで戦おうにも、脚が震えて立っていられそうにないよ」


 我ながら酷いことを口にしている。

 柊さんを逃がしておいて、篁さんには死地に付き合えってさ。

 その柊さんは、泣きそうな顔で僕にクソマズMPポーションを押し付けてくる。


「桧川、これ持ってて。容器は貴重だから、あとで絶対に返して」


「わかった。無策ってわけじゃないから、そんな顔しないで」


 ちゃんと笑顔を作れただろうか?

 こんなときに笑える人間に、僕はなりたかった。


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